コラム
2017年06月12日

AIは囲碁や将棋の必勝法等にどのような影響を与えていくのか

中村 亮一

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コンピューターによる囲碁・将棋等の必勝法の解明の進展

そこで、まずは、高い能力を有するコンピューター・プログラムの対局を通じて、囲碁や将棋等の先手の有利性の程度等を少しでも解明していくことができるのであれば、それが当面の現実性のある目標ということになるものと思われる。

例えば、AlphaGo同士の対局を通じて、現在のトップレベルの対局ではどの程度の「コミ」が適正なのか、今後囲碁の技術等が進歩していくと先手の有利性の程度はどのように変化していくことになるのか、というようなことが解明されていけば、大変面白いのではないかと考えられる。

ただし、グーグルは、AlphaGoで培った技術を医療やエネルギー分野に応用することに注力するということで、今回の勝利の後に人間との対局については終了することを表明している。

AlphaGoは、「深層学習(Deep Learning)」という人間の脳をまねた多層構造のニューラルネットワークを用いた機械学習と、「強化学習(Reinforcement Learning)」という自己対局の繰り返しによって、自らで勝ち方を生み出すシステムを作り上げているようである。

これによれば、今後こうしたコンピューター・プログラム自身が、これまでにない新たな戦法を開発していくことも期待されていくことになる。これまでに人間が考え出した戦法に基づいて得られている結果が、コンピューターによる対局で異なる結果となっていくことも考えられることになる。なお、ディープマインド社は、柯潔氏との対戦終了後、AlphaGo同士の棋譜50局を公開したが、これによれば、これまでの常識では考えられない手が続出していたとのことである。

今後とも、AlphaGo等のコンピューター・プログラム同士による対局は引き続き一定程度行われていくことになるものと思われる。それでも、人間を超える実力を備えるという目標を達成した後では、先に述べたような興味関心への分析に対しては、これまでのような資源配分は行われないものと思われる。本来的なAIの応用に注力していくことになるのはやむを得ないものと思われるが、若干残念な気もしている。

最後に

実は、必勝法の存在や先手や後手がどの程度有利なのかという点については、本当はあまり気にすることではないのかもしれない。現在のルールは、過去からの人間の対局を通じて得られた経験データ等に基づいて、一定の判断が行われて、設定されてきたものである。仮に、これから、人間以上の先読みが可能なコンピューター・プログラムが、その自己対局等に基づいて、何らかの結果を導いたとしても、人間同士の対局でそのような結果が得られるとは限らない。従って、コンピューター・プログラムによって得られる結果はあくまでも参考程度のものでしかないともいえる。

一方で、コンピューター・プログラムが強くなっていくことを通じて、人間もまたその技術を学ぶことで強くなるというような形で、人間の能力も向上していくことが考えられる。実際にそのような形で、お互いが切磋琢磨して、さらなる高次元の勝負が行われるようになり、ゲームの醍醐味が増していくことが期待されているものと思われる。

また、コンピューターによって、ゲームの結果が完全に解明されたとしても、ゲームの面白みが失われて、ゲームの寿命が終わるということにはならないだろう。「五目並べ」もそれ自体引き続き幅広く楽しまれているし、ルールを変更した「連珠」が競技として普及している。

結局は、ゲームを楽しむのは人間であり、ゲームのルールを作るのも人間自身である。必要とあらばルールを変更することも、スポーツの世界ではしはしば行われている。ゲームの世界も結局は、必要に応じて、適当なルールの調整を行っていくことも、また必要不可欠だと言うことだろう。

仮に、完全なゲームの解析がコンピューターで行われたとしても、ちょっとしたルールの変更がこうした分析の前提を大きく変更することになり、これらの解析の意味を低下させてしまうことにもなる。こうしたルールの変更にコンピューターがどの程度柔軟に対応できるのかはわからない。

いずれにしても、人間がゲームの主体である限り、人間はそうしたルール変更等も自在に行うことができ、それに対応できる柔軟性を有している。

AIがいくら高度に発展し、ゲームの必勝法を解明したとしても、人間は、自分たちが決めたルールの中で、自らの頭で考え出した最善の手を尽くすことで、引き続きゲームの奥深さの魅力を感じつつ、ゲームを楽しむことができる、ということだろう。
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中村 亮一

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(2017年06月12日「研究員の眼」)

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