2017年05月29日

高齢者の移動手段の確保にいくら必要か?

金融研究部 主任研究員・年金総合リサーチセンター・ジェロントロジー推進室・ESG推進室兼任 高岡 和佳子

文字サイズ

1――はじめに

昨年末、高齢運転者による事故が相次ぎ、数多く報道された。本年3月施行の改正道路交通法では、高齢者による交通事故を防止するための対策が強化された。75歳以上の高齢者は免許更新時に加え、信号無視や、通行禁止違反など一定の違反行為をした場合に、認知機能検査を受けることが求められる。さらに、認知機能検査の結果、「認知症のおそれがある」と判断された場合は、医師による診断を受け、結果によっては運転免許の取り消しまたは停止となる1。これにより、高齢運転者による重大事故の減少が期待される。
【図表1】75歳以上高齢者の運転免許保有率 時を同じくして、本年3月には「第1回 高齢者の移動手段の確保に関する検討会」が開催された。これは、昨年11月に開催された閣僚会議で出された総理の指示「自動車の運転に不安を感じる高齢者の移動手段の確保など、社会全体で高齢者の生活を支える体制の整備を着実に進める」を受けたものである。

自動車の運転に不安を感じる高齢者は、電車やバスなどの公共交通を利用することになる。しかし、上述の閣僚会議の3日後には、JR北海道が「当社単独では維持することが困難な線区について」を公表している。殊に人口減少が著しい地方においては、公共交通の維持すら困難なのである。その結果、一部の大都市圏を除き75歳以上の高齢者の運転免許保有率は高い(図表1)。
 
そこで、当レポートでは、高齢者の移動を確保するために、必要な資金の推計を試みる。推計に当たり、人口が少ない為まとまった移動需要がない地域を中心に、導入が進むデマンド型交通の実態を確認し、その結果を推計に活用する。
 
 
1 一定の違反行為に伴う、認知機能検査の結果、「認知症のおそれがある」と判断された場合、臨時高齢者講習を受ける必要もある。
 

2――デマンド型交通

2――デマンド型交通

デマンド型交通とは、通常の路線バス(定期運行型)とは異なり、事前予約により運行する交通システムである。移動需要の規模にもよるが、多くは普通自動車(乗車定員11名未満の自動車)によって運行される。一方、運行路線や、運行時間、乗降地、利用者等のいずれかが制限される点で、タクシーとも異なる。
 
(1)増えるデマンド型交通導入自治体
各都道府県、市町村のHPなど公表情報を元に調査した結果、現時点でデマンド型交通2を導入している自治体はこの7年で3倍以上に増え、少なくとも428自治体に及ぶ(図表2)。これは、全体の約25%の自治体が、デマンド型交通を導入していることを意味する。当然ながら、まとまった移動需要が存在する都市部においては、導入自治体は少ない。しかし、導入自治体の割合が最も高い都道府県は、栃木県、次いで滋賀県となっている。つまり、過疎化の進む地域ほど導入する自治体が多いわけではない(図表3)。
【図表2】デマンド型交通導入自治体数の推移
【図表3】デマンド型交通導入自治体の分布
 
2 定時運行との併用も含むが、観光者向け等今回のテーマとの関連性の低いデマンド型交通は除く。
(2)デマンド型交通導入自治体の特徴
人口密度を基準に、全自治体を10グループに分け、グループ別にデマンド型交通の導入割合を確認すると、人口密度が高い地域だけでなく、低い地域においても導入割合が低いことがわかる(図表4)。
【図表4】人口密度別デマンド型交通導入自治体の割合 人口密度が高い地域において、導入割合が低いのは、まとまった移動需要があるため、定期運行型の公共交通手段が成立するからである。では、まとまった移動需要が少ない人口密度が低い地域においても、導入割合が低いのは何故だろうか。
 
 
そこで、自治体の財政力による導入割合の相違を確認した。その結果だが、人口密度の低い地域においては、デマンド型交通を導入の判断において、財政力はさほど大きな影響を与えていないと考えられる(図表5)。一方、人口密度が中央値よりやや高い地域(第6G・第7G)においては、財政力がデマンド型交通導入の是非を左右している可能性がある。なお、これら地域とは、人口密度がおおよそ200人~500人/km2の自治体である。これら地域に相当するのは、関東圏なら千葉県の君津市、近畿圏なら京都府の亀岡市である。
【図表5】人口密度別デマンド型交通導入自治体の割合
Xでシェアする Facebookでシェアする

金融研究部   主任研究員・年金総合リサーチセンター・ジェロントロジー推進室・ESG推進室兼任

高岡 和佳子 (たかおか わかこ)

研究・専門分野
リスク管理・ALM、価格評価、企業分析

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【高齢者の移動手段の確保にいくら必要か?】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

高齢者の移動手段の確保にいくら必要か?のレポート Topへ