2017年05月19日

2017・2018年度経済見通し(17年5月)

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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1.2017年1-3月期は年率2.2%と5四半期連続のプラス成長

2017年1-3月期の実質GDP(1次速報値)は、前期比0.5%(前期比年率2.2%)と5四半期連続のプラス成長となった。

輸出が前期比2.1%の高い伸びとなり、外需寄与度が前期比0.1%(年率0.6%)と3四半期連続で成長率を押し上げたことに加え、民間消費が前期比0.4%の高い伸びとなったことなどから、国内需要も前期比0.4%と3四半期ぶりに増加した。1-3月期が内外需揃った高成長になるとともに、5四半期連続でゼロ%台後半とされる潜在成長率を上回る成長となった。

その他の需要項目では、公的固定資本形成は前期比▲0.1%と3四半期連続で減少したが、住宅投資が前期比0.7%と5四半期連続で増加したほか、設備投資も前期比0.2%と小幅ながら増加を確保した。また、在庫調整の終了を反映し、民間在庫変動の寄与度が前期比0.1%となり、3四半期ぶりに成長率を押し上げた。
 
この結果、2016年度の実質GDP成長率は1.3%、名目GDP成長率は1.2%となった。実質成長率は2015年度の1.2%とほぼ変わらなかったが、内訳をみると在庫変動を除いた最終需要の伸びは2015年度の前年比0.9%から同1.7%へと高まっており、年度内成長率(前年度最終四半期から当年度最終四半期までの伸び)は2015年度の0.5%から2016年度には1.6%へと大きく加速した。2016年度の日本経済は見かけの成長率が示す以上に大きく改善したとの評価が可能だろう。
(景気回復期間は戦後3番目の長さに)
2012年12月に始まった今回の景気回復は、2017年3月で52ヵ月となった。2017年3月の景気動向指数(速報)では、CI一致指数が前月から0.6ポイント下降したが、基調判断は「改善」が維持されており、「バブル景気(1986年12月~1991年2月)」の51ヵ月を抜いたことは確実とみられる。景気回復がこのまま続けば、景気拡張期間は2017年9月には「いざなぎ景気(1965年11月~1970年7月)」の57ヵ月、2019年1月には「戦後最長景気(2002年2月~2008年2月)の73ヵ月を上回ることになる。
景気動向指数・CI一致指数の推移/過去の大型景気との比較(実質GDP)
今回の景気回復期の特徴としては、2014年4月に消費税率の引き上げが実施され、景気が足踏み状態となっていた期間が長かったため、過去の大型景気と比べて回復局面における経済成長率が低いことが挙げられる。回復局面における四半期毎の平均成長率はバブル景気の5.4%、戦後最長景気の1.7%に対して、今回は1.3%(いずれも年率換算値)にとどまっている。また、景気動向を最も敏感に反映する鉱工業生産指数(2010年=100)は、2016年度入り後には回復基調を強めているものの、直近の水準(2017年3月の99.8)は、前回の景気回復局面のピーク(2012年1月の101.5)を下回っている。
過去の大型景気との比較(経常利益)/過去の大型景気との比較(民間消費)
経済活動を企業部門と家計部門に分けてみると、企業部門は改善傾向が明確となっているのに対し、家計部門は低調な推移が続いている。海外経済は新興国を中心に減速傾向が続くなど外部環境は比較的厳しかったが、円安による追い風を受けて、企業収益は過去の大型景気にほぼ匹敵する高い伸びとなっている。2016年10-12月期の経常利益は過去最高水準を更新した(法人企業統計ベース)。一方、雇用情勢は大幅に改善しているものの、名目賃金が伸び悩む中で物価が上昇したことから、家計の実質購買力が大きく低下し、個人消費は低迷が長期化している。賃金の上昇などを通じて企業部門の改善を家計部門に波及させることが日本経済の今後の課題といえるだろう。
(好調が続く輸出)
安倍政権発足前後から大幅な円安が進行したにもかかわらず、輸出は長期にわたり横ばい圏の推移が続いてきたが、2016年半ば頃から増加傾向が明確となり、経済成長の牽引役となっている。この間、為替レートは2016年前半に大幅な円高が進むなど、輸出にとってはむしろ逆風となっており、輸出回復の主因は製造業を中心に世界経済が回復基調を強めていることにある。

世界の貿易量は2011年以降、世界経済の成長率を下回る伸びが続いていた(いわゆるスロー・トレード)が、ここにきてスロー・トレードから脱する兆しも見られる。世界経済の成長率は徐々に高まっているものの、その水準は3%台前半と過去平均の4%程度(1980年~)と比較すれば低い伸びにとどまっている。こうした中で世界貿易量の伸びは2016年半ばの1%程度を底に増加ペースが高まり、2017年入り後は4%近くまで伸びを高めている。世界貿易の長期停滞は、新興国における貿易財の内生化の進展など構造的な要因も大きいため、足もとの動きだけでスロー・トレードから完全に脱したと判断するのは早計だが、最近の世界経済の回復はIT関連を中心とした製造業サイクルの好転によるところが大きく、このことがグローバルな貿易取引の活発化につながっていると考えられる。
実質輸出、輸出数量指数の推移/世界の実質GDPと貿易量の関係
財別・実質輸出の推移 2016年後半以降の日本の輸出の伸びは世界貿易の伸びを上回っている。この背景には日本は世界的に需要が強い自動車、情報関連分野の輸出ウェイトが高いことがある。日本銀行の実質輸出の動きを財別に見ると、2016年7-9月期、10-12月期と2四半期続けて自動車関連、情報関連が全体の伸びを上回った。2017年入り後は、欧米の自動車販売が頭打ちとなっていること、中国の自動車販売も小型車に係る自動車取得税の引き上げによって減少に転じていることから、自動車関連財の輸出は減速しているが、情報関連財は裾野の拡がりを伴いながら高い伸びを続けており、世界的な設備投資の回復を背景にここにきて投資財も伸びが加速している。
在庫調整の進展や輸出の増加を受けて国内の生産活動も活発化している。2017年1-3月期の鉱工業生産は前期比0.2%と4四半期連続の増産となった。2016年10-12月期の同1.8%からは伸びが大きく低下したが、4月の製造工業生産予測指数は前月比8.9%の大幅増産計画となっており、生産の回復基調は維持されている。特に輸出の好調を受けて2016年後半以降、情報関連財の生産が高い伸びを続けており、生産の牽引役となっている。
情報関連が牽引する鉱工業生産/在庫循環図(鉱工業全体)
在庫循環図を確認すると、2016年7-9月期に「在庫調整局面」から「意図せざる在庫減少局面」に移行した後、3四半期連続で同じ局面に位置しているが、17年1-3月期は「在庫積み増し局面」との境界にあたる45度線に近づく形となった。企業行動が積極化してきたとの評価も可能だが、その一方で、循環的には景気回復局面の後半に入ったという見方も出来る。最終需要が企業の想定を下回った場合には、これまでよりも在庫が積み上がりやすくなっていることには留意が必要だろう。
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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

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