2017年05月12日

予算編成、税制改革の動向-未だ詳細は不明。議会共和党からの支持が鍵だが、政策協調の可能性は低い。

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.はじめに

5月5日に、トランプ大統領が統合歳出予算法に署名したことで、昨年10月の会計年度開始から7ヵ月が経過した所で漸く17年度予算が成立した。これで議会の予算編成作業は、18年度予算に焦点が移った。予算編成作業は、予算教書をたたき台として議論される。予算教書は通常、今後10年間の歳入、歳出、債務残高見通しやその前提となる経済予測などが示される。しかしながら、トランプ大統領が3月中旬に議会に提出した予算教書では、歳出のおよそ3分の1に当たる裁量的経費の18年度分のみが提示される異例の内容であった。このため、議会での本格的な予算審議が開始できない状況となっている。トランプ政権は、5月下旬に予算教書の詳細版を公表するとしており、同政権が掲げる政策を歳入も含めどのように予算に落とし込んでくるのか注目される。

一方、予算編成作業に密接な関連がある税制改革案についても、4月下旬に提示された税制改革骨子は、概ね政策公約に沿う内容であったものの、大きな方針を提示することに留まっており、財源も含めた具体的な制度設計についての言及は無かった。このため、税制改革についても政策立案の遅れが顕在化する状況となっている。また、今回提示された税制改革案は、米国の債務残高を大幅に増加させるとみられており、債務残高の削減を目指している議会共和党とどのように政策協調していくのか、極めて不透明となっている。このように、トランプ政権発足から100日以上経過した現状において、同政権が掲げる政策実現に向けた予算編成、税制改革論議は、議会と政権与党が一致する安定政権であるにも拘らず難航している。

本稿では、予算編成および、税制改革について足元までの状況について整理するほか、今後の見通しについて触れている。結論から言えば、トランプ政権の予算要求や税制改革案に対して、議会共和党がそのまま政策協調できる余地は少ないことから、トランプ政権の政策は大幅な見直しが不可避と言うものである。
 

2.予算編成の動向

2.予算編成の動向

(1) 17年度予算:統合歳出予算法が成立。政府機関の閉鎖リスクは回避

17年度予算審議では、昨年10月の会計年度開始時点で歳出法案が成立していなかったことから、暫定予算で凌ぐ状況が続いていた。4月下旬に行われた予算審議では、トランプ政権が「国境の壁」の建設費用を暫定予算に盛り込むことを求め、暫定予算の期限切れに伴う政府機関の一部閉鎖も辞さない姿勢を示していたため、政府機関の閉鎖リスクが高まっていた。

しかしながら、議会は政府機関閉鎖回避で一致しており、民主党、共和党は「国境の壁」建設など論争的な予算項目を盛り込むことを回避する形で、17年統合歳出予算法案(Consolidated Appropriations Act, 2017)1を超党派でまとめた。採決では下院で100人以上の共和党議員が反対2したものの、同法案は上下院を通過し、5月5日にトランプ大統領が署名して成立した。この結果、漸く17年度予算が成立するとともに、今年9月末まで政府機関の一部閉鎖リスクは解消された。
(図表1)17年統合歳出予算法 17年統合歳出予算法では、トランプ政権や議会共和党が求めていた国防予算の増額で、国防総省の予算が前年度から20億ドル増額されたほか、国土安全保障省や軍事建設・退役軍人省関連の予算も増額された(図表1)。さらに、後述する歳出上限額に算入されない、海外緊急事態作戦費用(OCO)や、災害援助などが合計で1,180億ドル計上されており、前年度から大幅な増額がみられた。このうち、OCOの766億ドル分は国防予算に充当されるため、国防総省の予算とOCOを併せた前年度からの増額幅は199億ドルと、大幅な増額となった。もっとも、トランプ大統領は300億ドルの増額を求めていたため、今回の増額幅は要求額を大幅に下回ったと言えよう。

一方、トランプ政権が求めていた「国境の壁」建設については、国境警備費用に計上された15億ドルから「国境の壁」建設費用を捻出しないことが明記された。また、共和党が補助金廃止を目指していた「全米家族計画連盟」3(Planned Parenthood 、以下PP)に対する補助金も継続することが盛り込まれたほか、民主党が要求した炭鉱労働者に対する医療補助の延期や、財政破綻したプエルトリコに対する財政援助が盛り込まれるなど、共和党が相当程度妥協した内容となっている。いずれにせよ、17年度予算が成立したことで、予算編成作業の焦点は18年度予算に移った。
 
1 出法は主に省庁別に分かれた12本の法律から成るが、1本の歳出予算法に統合されたもの。
2 下院は共和党(賛成131、反対103)、民主党(賛成178、反対15)の合計賛成309、反対118で可決。
3 PPは主に低所得の女性に対して医療サービスを提供する非営利団体であり、全米700の医療機関を展開している。PPでは、妊娠中絶(医療サービス全体の3%)も行っており、人口中絶に反対の立場を取る共和党はPPに対する補助金廃止を目指している。
(2) 18年度予算:予算教書は、国防予算の大幅増額を要求。ただし、歳出上限の緩和は困難
(図表2)18年度予算教書(裁量的経費のみ) 3月16日にトランプ大統領は、議会に対して予算要求を行う予算教書を提出した。

今回提示された裁量的経費の省庁別の要求額をみると、国防総省の予算が5,740億ドルと17年度暫定予算4から523億ドル(前年度比+10.0%)の大幅な増額要求がされたほか、国土安全保障省や退役軍人省でも増額要求された(図表2)。

一方、それらの省庁以外では、環境保護局が前年度比▲31.4%、国務省も同▲28.7%となるなど、3割近い削減となったほか、軒並み2桁の減額要求となっている。

この結果、18年度予算の裁量的経費の合計は1兆654億ドルとなった。これは後述する歳出上限額に沿う金額である。

米国では、財政赤字抑制の仕組みとして、11年に制定された2011年予算管理法(Budget Control Act of 2011、以下BCA)に基づき、裁量的経費の歳出上限額が決まっている。また、BCAで規定されていたトリガー条項の発動により、12年度から21年度にかけて、国防関連と非国防で同額を削減する強制歳出削減(Sequestration)が発動されている。

もっとも、強制歳出削減後の歳出の大幅な減少を回避するために、13年と15年に超党派予算法が施行され、歳出上限が引き上げられたため、これまで強制歳出削減は実施されていない5
15年超党派予算法(Bipartisan Budget Act of 2015)では、16年度と17年度の歳出上限額を強制歳出削減で規定される金額より引き上げており、17年度の引き上げ幅は、国防関連および、非国防についてそれぞれ、150億ドルずつ、合計で300億ドルとなっていた。同法は、17年度で切れるため、18年度の歳出上限額は強制歳出削減が適用され、国防関連が5,490億ドル(前年度比▲20億ドル)、非国防が5,160億ドル(同▲30億ドル)となり、合計の歳出上限額は、今回トランプ大統領が提示した10,650億ドルとなる(図表3)。
(図表3)裁量的経費の歳出上限額 トランプ大統領は、予算教書で国防関連6を6,030億ドル、非国防を4,620億ドルと、強制歳出削減後の上限額に対して、国防関連は+540億ドル増額を要求する一方、非国防については▲540億ドルの削減を求めた。このため、トランプ大統領の国防費増額には、歳出法案の成立に加え、強制歳出削減額から歳出上限額を引上げるための新たな超党派予算法を成立させる必要がある。

しかしながら、非国防の裁量的経費には、教育や交通インフラ整備費、低所得者に対する住宅支援などの費用も含まれるため、非国防費の大幅な削減を民主党が賛成する可能性は極めて低く、超党派予算法の策定は困難だろう。
 
4 予算教書は4月28日期限の暫定予算をベースに試算している。
5 詳しくは、Weeklyエコノミストレター(15年11月20日)“2015年超党派予算法が成立”を参照下さい。 http://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=51508?site=nli
6 国防予算には国防総省に加え、エネルギー省や国土安全保障省の一部予算も含まれる。
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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

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