2017年04月26日

中国経済:17年1-3月期を総括した上で今後の注目点を探る~「新常態」の本気度が試される局面

三尾 幸吉郎

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4.金融政策は「穏健」から「穏健中立」へ

(図表-11)住宅価格÷所得の倍率(2015年) 以上のように景気は回復してきたものの、金融緩和の副作用で住宅バブルが深刻化してきた。ニッセイ基礎研究所で何年分の所得で住宅を購入できるか(住宅価格÷所得の倍率)を試算したところ、全国では約7.5倍だが北京や上海では14倍を超えている(図表-11)。合理的とされる4~6倍を遥かに超えるとともに、日本でバブルがピークを付けた1990年の東京都区部の16倍に接近してきている2

これまでの住宅価格(70都市平均)3の推移を簡単に振り返ると、前回高値を付けた14年5月前後にも住宅バブルは問題となっていた。13年春には、中国政府が住宅価格の急騰を抑えようと「国五条」と呼ばれる住宅購入規制を実施した上で監視を強化した。その効果で、住宅販売が落ち込むと住宅在庫は積み上がり、販売業者が在庫を消化しようと値引き販売に走って住宅価格は下落、景気を一気に悪化させた。これを受けて14年11月以降、中国人民銀行は基準金利を6度に渡って累計1.5ポイント引き下げ、景気下支えに動き出した。この金融緩和で住宅販売は持ち直し、住宅在庫は減少に転じて住宅価格は上昇、16年7月には前回高値を超えてきた(図表-12)。しかし、16年の成長率目標(6.5-7.0%)の達成が不安視されていた中で、中国人民銀行は「穏健」な金融政策を継続したため、住宅価格は最高値更新を続け、住宅バブルを深刻化させる結果となった。

但し、景気テコ入れには成功したといえる。住宅販売・住宅着工の回復で鋼材需要が増加、鋼材価格は15年12月の底値を基準にすると17年3月の高値まで約2倍に急騰した(図表-13)。需要が増加したことで、過剰だった生産能力との需給バランスも改善に向かった。
(図表-12)新築分譲住宅価格(除く保障性住宅、70都市平均)/(図表-13)鋼材価格指数
(図表-14)金融市場の動き 住宅バブルが深刻化する中で、中国政府は経済政策を引き締め方向に調整し始めた。16年9月末前後には深圳市や上海市など多くの地方政府が住宅購入規制を強化した。また、同年10月には中国人民銀行が商業銀行17行の幹部および融資担当者などを招集して住宅ローンの管理強化を要請、中国銀行業監督管理委員会(銀監会)も不動産融資を巡るリスク管理を強化した。そして、同年12月には中央経済工作会議で「住宅は住むためのものであって、投機のためのものではない」として不動産市場の平穏で健全な発展を促進する方針を打ち出し、17年3月の全国人民代表大会(全人代、国会に相当)では「穏健・中立」な金融政策を実施するとし、16年の「穏健」よりも引き締め方向に軸足を移すこととなった。そして、全人代閉幕後にも、地方政府が相次いで住宅購入規制の強化に動いている。また、中国人民銀行は17年1月下旬以降、リバースレポ(7日物)や常設流動性ファシリティなどの短期金利を2度に渡り引き上げており、基準金利の引き上げも視野に入ってきている(図表-14)。
 
 
2 住宅バブルに関しては「図表でみる中国経済(住宅市場編)~住宅バブルの現状と注目点」基礎研レター 2016-11-1を参照
3 住宅価格は、中国国家統計局が毎月公表する「70大中都市住宅販売価格変動状況」の中で、新築分譲住宅価格(除く保障性住宅)を用いている。また、2016年1月以降の2010年基準指数及び70都市平均を定期公表されてないためニッセイ基礎研究所で推定している。
 

5.今後の注目点

5.今後の注目点

17年1-3月期の中国経済を総括すると、消費はやや減速したものの消費者信頼感指数が高水準を維持するなど堅調で、世界経済の回復を受けて輸出は底打ちし、投資はインフラ投資が牽引して2四半期連続で伸びを高めた。そして、実質成長率は前年同期比6.9%増と2四半期連続で加速した。

一方、中国政府(含む地方政府、中国人民銀行)は景気にブレーキを踏むような政策を相次いで実行に移した。16年秋には前述のとおり住宅バブル退治に乗り出し、17年1月には景気対策として実施していた小型車減税を縮小、17年3月開催の全人代ではこれまでの鉄鋼・石炭に加えて石炭火力発電の過剰生産能力の淘汰を決めた。即ち、中国経済の「新常態(ニューノーマル)」4移行を決めた中国政府は、7%台の高成長へ復帰する道を選ばず、6%台半ばの安定成長を長く続ける道を選んだものと見られる。17年の成長率目標を「6.5%前後」と直近発表された実質成長率(6.8%)よりも低く設定したのは景気抑制に動くためだと考えられる。中国政府がブレーキを踏んだことで、17年1-3月期の自動車販売は伸びが鈍化し、新しく着工したプロジェクトは減少し、3月には鋼材価格も下落に転じた。今後はタイムラグを置いて成長率を抑制する要因となってくるだろう。

しかし、住宅バブルを抑えるという点では不十分だった。17年1月前後には上昇率が一時鈍化したものの、3月には再び上昇率が高まった(図表-12)。もう一段強いブレーキを踏む必要があるといえるだろう。17年秋に最高指導部人事を決める共産党大会を控える中で、基準金利引き上げなどもう一段強いブレーキを踏むことができるのか、「新常態」の本気度が試される局面となりそうだ。
 
4 新常態に関する筆者の見方に関しては「中国経済の“新常態”とそれを揺るがす“4つの問題”」基礎研レポート2014-9-22を参照
 
 

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三尾 幸吉郎

研究・専門分野

(2017年04月26日「Weekly エコノミスト・レター」)

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