2017年04月26日

中国経済:17年1-3月期を総括した上で今後の注目点を探る~「新常態」の本気度が試される局面

三尾 幸吉郎

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1.2017年1-3月期の経済概況

(図表-1)中国の実質成長率(前年同期比) 中国経済の成長率が加速してきた。4月17日に中国国家統計局が公表した17年1-3月期の実質成長率は前年同期比6.9%増と2四半期連続で上昇、3月開催の全国人民代表大会(国会に相当)で決めた成長率目標「6.5%前後」を上回る好スタートとなった(図表-1)。内訳を見ると、第1次産業は前年同期比3.0%増、第2次産業は同6.4%増、第3次産業は同7.7%増だった。第3次産業が引き続き最も高い伸びを示し中国経済を牽引した。また、ここもと足かせとなっていた第2次産業も、16年1-3月期の伸び(同5.9%増)を底に持ち直しつつある。
(図表-2)中国の名目成長率(前年同期比) また、国内総生産(名目)は18兆683億元(日本円に換算すると約298兆円)と、16年1-3月期の16兆1573億元を1兆9110億元上回り、前年同期比11.8%増となった。これは2013年10-12月期の同10.6%増以来となる2桁成長復帰である(図表-2)。鋼材や石炭などの価格上昇で実質的には付加価値が目減りしているとはいえ、2桁成長復帰は景況感を明るくしている。
(図表-3)消費者物価の推移 一方、インフレ面を見ると、消費者物価は落ち着いているものの、工業生産者出荷価格は上昇した(図表-3)。17年1-3月期の消費者物価は前年同期比1.4%上昇と2016年通期の同2.0%上昇を0.6ポイント下回った。好天候に恵まれたことで食品が同2.1%下落したことが主因である。食品とエネルギーを除いたコアでは同2.0%上昇と16年10-12月期の同1.9%上昇を小幅に上回った。他方、17年1-3月期の工業生産者出荷価格は前年同期比7.4%上昇と16年10-12月期の同3.3%上昇を大きく上回った。資源高や人民元安といった価格上昇要因もあるが、中国政府が進めた過剰生産能力の削減に伴う供給減と、中国国内のインフラ投資加速に伴う需要増で、需給バランスが改善した面もある。このように供給過剰によるデフレ圧力は薄れてきたものの、鋼材価格は3月中旬をピークに下落に転じており、世界経済や不動産開発の動向次第では再び過剰感が強まる可能性も否定できない。需給バランスの変化には今後も注意が必要である。
 

2.製造業は順調な回復、非製造業は堅調維持

2.製造業は順調な回復、非製造業は堅調維持

工業生産(実質付加価値ベース、一定規模以上)の推移を見ると、17年1-3月期は前年同期比6.8%増と16年10-12月期の同6.0%増(推定1)を大きく上回り、2014年以来の高い伸びとなった(図表-4)。内訳を見ると、鉱業は前年同期比2.4%減と2016年通期の同1.0%減に続く前年割れだったものの、製造業は同7.4%増と2016年通期の同6.8%増を0.6ポイント上回り、電力エネルギー生産供給業も同8.9%増と2016年通期の同5.5%増を3.4ポイント上回った(図表-5)。
(図表-4)工業生産(実質付加価値ベース、一定規模以上)の推移/(図表-5)業種別の工業生産(実質付加価値ベース、一定規模以上)
また、製造業・非製造業の区分で見ると、製造業は順調に回復してきており、非製造業は堅調を維持している。製造業PMIは、景気が失速しかけた16年2月には拡張・収縮の境界となる50%を割り込み49.0%まで低下したが、17年3月には51.8%まで回復した。特に生産指数が54.2%と好調だった。同予想指数も58.3%と高水準を維持しており、製造業の回復は当面続きそうである。(図表-6)。一方、商務活動指数(非製造業PMI)は、17年3月も55.1%と高水準を維持した。同予想指数も61.3%と高水準を維持しており、非製造業の堅調は当面続きそうである(図表-7)。
(図表-6)製造業PMI/(図表-7)非製造業PMI
 
1 中国では、統計方法の改定時に新基準で計測した過去の数値を公表しない場合が多く、また1月からの年度累計で公表される統計も多い。本稿では、四半期毎の伸びを見るためなどの目的で、ニッセイ基礎研究所で中国国家統計局などが公表したデータを元に推定した数値を掲載している。またその場合には“(推定)”と付して公表された数値と区別している。
 

3.消費はやや減速、投資は回復、輸出は底打ち

3.消費はやや減速、投資は回復、輸出は底打ち

(図表-8)小売売上高の推移 消費の代表指標である小売売上高の動きを見ると、17年1-3月期は前年同期比10.0%増と、16年10-12月期の同10.4%増(推定)を0.4ポイント下回った(図表-8)。特に自動車売上高が前年同期比2.3%増と10-12月期の同13.1%増(推定)を大きく下回った。17年に入って小型車(排気量1.6L以下)を取得する際に掛かる自動車取得税が引き上げられた(5%⇒7.5%)影響と見られる。他方、飲食は同7.3%増(10-12月期は同5.4%増(推定))、化粧品は同9.9%増(10-12月期は同8.0%増(推定))と好調なものが多い。また、消費者信頼感指数が高水準を維持していることから、消費が大きく落ち込むとは考えにくい。
(図表-9)固定資産投資の推移 投資の代表指標である固定資産投資(除く農家の投資)の動きを見ると、17年1-3月期は前年同期比9.2%増と、16年10-12月期の同7.8%増(推定)を1.4ポイント上回った(図表-9)。インフラ投資が同23.5%増と10-12月期の同11.4%増(推定)を大きく上回ったことが背景にある。但し、不動産開発投資が同9.1%増と10-12月期の同10.2%増(推定)を下回ったのに加え、17年に入り新しく着工したプロジェクトが減少に転じたことから、投資の好調は長続きしない可能性がある。
(図表-10)輸出額(ドルベース)の推移 海外需要の代表指標である輸出額(ドルベース)の動きを見ると、17年1-3月期は前年同期比8.2%増と、16年10-12月期の同5.2%減からプラスに転じた(図表-10)。米国経済の拡大を受けて、米国向け輸出が同10.0%増と好調だったほか、欧州EU向けも同7.4%増、ASEAN向けも同11.4%増と高い伸びを示した。但し、輸出の先行指標となる貿易輸出先行指数(中国税関総署)を見ると、17年3月は40.2%で前月と同じだった。15年12月の31.2%を底に上昇傾向を続けてきたが、先行き不透明感がでてきた。世界経済の動向を注視したい。
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三尾 幸吉郎

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