2017年04月18日

中国、年金積立金の株式運用が本格始動【アジア・新興国】中国保険市場の最新動向(25)

保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任 片山 ゆき

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2-運用委託された3,600億元のゆくえ-株式市場への影響は小さい?

各地域で管理している年金積立金を合計すると、2015年末時点でおよそ4兆元(73兆円)に達する。これはアジアで日本に次いで2番目の規模に匹敵するであろう。当局は、このうち、最大で2兆元ほどが運用を委託できるのはないかと推算している。

第一弾となった2016年は、全国の7つの省などから資金が集まったが、全国の地域数をベースに考えると、運用を委託したのは全体の2割程度にとどまった。年金積立金の収支状況や規模は地域によって大きな格差があり、広東省など積立金のある程度余裕がある一部の地域を除いて、多くは収支が厳しいのが現状だ。

広東省は、若年の出稼労働者を受け入れ、若年人口の流入が激しい地域である。年金積立金の規模が全国で最も大きく、2015年は6,158億元であった。これは、広東省の年間の年金支給額の4.4年分にあたる。その他の省がおおよそ1.5年分であることからも、その規模が巨大であることがわかる。また、受給者1人を加入者何人で支えているかを示す年金扶養比率は9.74となっており、受給者1人を加入者およそ10人で支えていることになる(全国平均の年金扶養比率は2.87)。一方、年金積立金の規模が最も小さい黒龍省は88億元で、これは同省の年金支給額のわずか1ヶ月分である。受給者1人をわずか1.3人の加入者で支えており、少子高齢化の進展とともに赤字が続き、制度の維持も厳しい状態にある。

3,600億元について、当局は、どの地域がどれくらい委託したかを公表していないが、報道ベースで確認すると、広西チワン族自治区が400億元、北京市が500億元を拠出しているようだ。また、委託金額は未公表ではあるものの陜西省なども名前が挙がっている。これに、委託運用の実験段階から参加し、2017年まで契約延長をした広東省(2015年は1,000億元)はもとより、山東省(2015年は500億元)の参加も考えられる。

集まった資金の運用・投資先としては、株式のみならず、その範囲は多岐にわたっている(図表2)。
図表2 年金積立金の運用・投資先
注目される株式関連の投資であるが、純資産の30%までと規定されている。純資産部分が最大で2兆元とすると、最も多くて6,000億元程度まで株式投資が可能となる。しかし、市場の予測としては、当初、上限の30%まで投資される可能性は低いとしている。これまでの保険会社や全国社保基金の運用の傾向性から、運用は12%程度で、最大でも2,400~2,500億元が株式市場に投資されると予測している。これは、上海、深セン両取引所(A株市場)に上場している企業の株式時価総額のおよそ0.5%にあたり、当面、株式市場への影響はそれほど大きくないと考えられている。
 

3-年金財政が厳しい地域ほど高まる運用収益率への期待

3-年金財政が厳しい地域ほど高まる運用収益率への期待

委託運用の資金をどれくらい拠出するかの判断は、各省などに委ねられている。当局は当初、年金積立金の規模が大きく、資金に余裕のある地域が中心となって拠出をすると考えていた。しかし、いざ募集してみると、広西チワン族自治区や陜西省など、もともと年金積立金の規模が小さく、資金繰りの比較的厳しい地域が参加をしている。

今般、400億元を拠出した広西チワン族自治区は2015年の年金積立金の残高が456億元であることから、その多くを委託運用に拠出したことになる。2015年の収支をみると、収入479億元のうち、334億元が保険料で、税金による補填が116億元であった。2015年の最終的な支出は471億元であったことから、税金による補填がなければ収支が赤字となっていた。広西チワン族自治区が年金積立金の多くを委託運用した背景には、前掲の広東省や山東省の実験的な取り組みに際して、高い利回りを確保している点が挙げられるであろう(図表3)。今後は、懐事情の厳しい地域ほど運用収益への期待が高く、より多くの資金を委託するという可能性も考えられる。
図表3 運用収益率
広西チワン族自治区には、元本保証つきの5年契約の案が出されたという報道もあるが、原則として、運用で損失が発生した場合は、全国社保基金が純利益の1%を準備金として積み立てた資金から補填ができるよう制度が設けられている。株式投資など、リスク資産への投資が開始され、今後、市場の運用を通じて収益をどう確保、維持していくのか、アジアで2番目に大きい年金積立金だけに、その動向が注目される。
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保険研究部   主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任

片山 ゆき (かたやま ゆき)

研究・専門分野
中国の社会保障制度・民間保険

経歴
  • 【職歴】
     2005年 ニッセイ基礎研究所(2022年7月より現職)
     (2023年 東京外国語大学大学院総合国際学研究科博士後期課程修了) 【社外委員等】
     ・日本経済団体連合会21世紀政策研究所研究委員
     (2019年度・2020年度・2023年度)
     ・生命保険経営学会 編集委員・海外ニュース委員
     ・千葉大学客員准教授(2023年度~) 【加入団体等】
     日本保険学会、社会政策学会、他
     博士(学術)

(2017年04月18日「保険・年金フォーカス」)

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