2017年04月13日

プレミアムフライデーと休日の格差-新しい格差が広がらないようにより慎重な働き方改革の実施を!-

生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 金 明中

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1――働き方改革の一環としてプレミアムフライデーを導入

最近、政府は働き方改革に積極的な動きを見せている。3月28日には働き方改革実現会議を首相官邸で開き、同一労働同一賃金の導入や正社員の長時間労働の見直しを盛り込んだ9分野での実行計画をまとめた。政府は、今後国会に関連法の改正案を提出し、2019年度からは関連内容を実行する計画である。その中でも政府が最近最も力を入れているのが長時間労働の是正であり、その一環として今年の2月24日から「プレミアムフライデー(Premium Friday)」が実施された。

プレミアムフライデーとは、長時間労働の是正と個人消費の喚起を狙い、月末の金曜日は、早めに(一般的には午後3時)仕事を終えて豊かに過ごすという行動を官・民が連携して創り出すプロジェクトである。

しかしながら、日本のプレミアムフライデーは、アメリカで定着しているブラックフライデー1を参考としているように、制度の本当の趣旨は長時間労働の是正より、早い時間から買い物や旅行などをしてもらうことにより、消費を拡大させ2020年までに名目GDP600兆円を達成することであると言えるだろう。経団連は、その実現のためには現在300兆円弱にとどまっている個人消費を今後360兆円までに引き上げる必要があるとみている。個人消費が現在より20%も増加しなければならない。
 
1 ブラックフライデー(Black Friday)とは、アメリカにおいて小売店などで大規模な安売りが実施される11月の第4金曜日の大きなイベントである。
 

2――消費が改善されない理由は?

2――消費が改善されない理由は?

しかしながら2015年の対前年比個人消費の増加率は-0.1%に留まっており、目標達成の道はかなり険しいと言える(図表1)。さらに、プレミアムフライデーが初めて実施された2017年2月の二人以上の世帯の消費支出(名目)は260,644円で前年同月の269,774円と比べて3.4%も減少した。消費支出は主に、交通・通信(-7.1%)、光熱・水道(-6.2%)、食料(-5.0%)、教養娯楽(-5.0%)、被服及び履物(-4.1%)を中心に減少している。家計が将来のことを考えて節約志向を強めている様子が見てとれる(図表2)2
 
このように消費が改善されていない要因の一つとしては、政府が思った以上に賃金が上がっていないことが挙げられる。実際、近年の賃上げ率は、政府がかねてから掲げている要求基準2%を下回っている。つまり、2017年2月の現金給与総額(名目、速報値)は262,869円で前年同月に比べて0.4%増加するのに留まっている。また、物価上昇率を反映した実質賃金の増減率は0.0%で賃金がほぼ上がっていない状況である。さらに、賃金増減率の長期的な推移を見ても状況はあまり変わらない。
図表1 家計最終消費支出や増減率の推移/図表2 消費支出と増減率の変化
図表3は、賃金増減率の推移を2009年から2016年までは前年比で、2016年1月から2017年2月までは前年同月比で分けてみたものである。まず、実質賃金の前年比は2014年以降徐々に上昇しているものの、まだ1%にも至っていない。また、実質賃金の前年同月比は2016年6月に2%に達したものの、それ以降は低下し続けている。このように実質賃金が伸びないことが家計の購買力低下の原因になっているとうかがえる。
図表3賃金増減率の推移
さらに、今年の4月からは国民年金の保険料が月額16,260円から16,490円に引き上げられて、9月からは厚生年金の保険料率が18.182%から18.3%に引き上げられる。また、協会けんぽ等の健康保険料率も昨年に比べて上昇している。賃金が上がっても社会保険料等の負担が増加すると、手取りの収入は大きく変わらない可能性が高い。現在、公的年金の所得代替率の引き下げや支給開始年齢の引き上げ等が議論されていることを考慮すると、家計としては将来の収入増加が確実に見込まれない限り、休日や休む時間が増えたとしても消費を増やすことは難しいだろう。
 
 
2 2017年2月の消費が前年同月に比べて減少したのは2016年がうるう年であった影響もありえるだろう。
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生活研究部   上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任

金 明中 (きむ みょんじゅん)

研究・専門分野
高齢者雇用、不安定労働、働き方改革、貧困・格差、日韓社会政策比較、日韓経済比較、人的資源管理、基礎統計

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
    独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年9月ニッセイ基礎研究所へ、2023年7月から現職

    ・2011年~ 日本女子大学非常勤講師
    ・2015年~ 日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員
    ・2021年~ 横浜市立大学非常勤講師
    ・2021年~ 専修大学非常勤講師
    ・2021年~ 日本大学非常勤講師
    ・2022年~ 亜細亜大学都市創造学部特任准教授
    ・2022年~ 慶應義塾大学非常勤講師
    ・2024年~ 関東学院大学非常勤講師

    ・2019年  労働政策研究会議準備委員会準備委員
           東アジア経済経営学会理事
    ・2021年  第36回韓日経済経営国際学術大会準備委員会準備委員

    【加入団体等】
    ・日本経済学会
    ・日本労務学会
    ・社会政策学会
    ・日本労使関係研究協会
    ・東アジア経済経営学会
    ・現代韓国朝鮮学会
    ・韓国人事管理学会
    ・博士(慶應義塾大学、商学)

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