2017年03月29日

まちづくりレポート|みんなで創るマチ 問屋町(といやちょう)-若い店主とオーナーの連携によりさらなるブランド価値向上に挑む岡山市北区問屋町

社会研究部 都市政策調査室長・ジェロントロジー推進室兼任 塩澤 誠一郎

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3|第2のブランディング
だが、今後はマンション住民がいかにここに来るようになるかが重要になる。祥有城さんは、「マンション住民をどれだけ取り込めるかとか、マンションの人も参加できるようにしていくとか、そういったことをすれば、まちはよくなると思う。例えばマンション住民がフリマに参加してくれてもいいと思うし、そう仕向けるべきだと思う」と話してくれた。最近は、盆踊りで使える縁日屋台の参加券をマンションに配布しており、参加する住民も増えた。キッズフリマも地元の参加者が多かったそうである。

明石さんは、今後このまちに「日常」を入れていきたいと話す。「イベントだけでなく、普通の日に親子がお金を使わずに2時間まちで過ごせるような機能をつくりたい。木陰にベンチがあれば人はそこに座ろうとする。そんな、自然にそこに行きたくなるような仕組み。そこで2時間過ごした後カフェでお茶しようとなることが重要」

また、まち全体をキャンバスにして、美術館化する構想も抱いている。2016年12月、それに先駆けてビルの壁画が完成した。著名なグラフィティ・ライターZENONE(ゼンワン)氏の作品だ。

引き続き課題になっている駐車マナー違反についても、駐車してはいけない場所に貼り紙や柵を置くのではなく、グラフィティ1を描くことによって駐車しないように促す。著名アーティストによる質の高い作品であれば発信する力も強く、駐車マナーを促す効果が期待できる。同時に、人を惹きつける力になる。こうしたことを第2のブランディングとして取り組んでいきたいという。

小田さんも、「組合とテナントで協力してやればできる」と力を込めて答えてくれた。
(写真)ZENONEによるグラフィティが描かれたビル(筆者撮影)
 
1 スプレーやマーカーで描くアート作品。主に建物の外壁や屋外構造物の壁面に描くことが多い。
4|オレンジホールの解体再開発
2016年9月、組合は「問屋町にぎわい創出事業」における借地利用事業者募集要綱を公表した。そこには、老朽化したオレンジホールを解体し、その跡地を活用して新たな賑わいを創出すると記されており、問屋町の活性化に寄与する事業提案を公募する内容になっている。

組合はオレンジホール跡地を、商業施設や文化施設などに開発して運営する事業者に、借地することにしたのだ。2016年12月に応募を締め切り、2017年4月には1社を選定、7月以降の着工を予定している。

オレンジホールは、もともと組合員が卸製品の展示会に活用するために建設されたものだ。組合が利用しないときは一般に有料で貸し出している。たが、近年は利用率が低く、資金を投じて改修しても運営していくのは困難と判断した。既に6月以降の利用予約を停止している。

問屋町の中心に位置し、組合の駐車場や事務所棟を含めた敷地面積約7,000m2、法定容積率が400%で、前述のとおり区画道路の幅員も広いことから、かなり規模の大きい開発が可能だ。既存ビルのリノベーションで街並みを形成し、にぎわいを創出してきた中で、新築される建物がそこに溶け込むことができるのか。施設の規模や形態もさることながら、そこに導入する店舗は、問屋町ブランドに相応するものになるのだろうか。部外者である筆者も心配になる。

テナント会としてもやはり心配だという。どのような事業提案がなされ、どのような内容の開発を選定するのか、お客さんが利用している組合の駐車場はどうなるのか。

そうした懸念やテナント会としての意向は、小田さんから組合理事に、非公式ではあるが伝えている。しかし今のところそれが事業者選定や開発の中身にどの程度反映されるのか不明だという。

ただ筆者は、「問屋町にぎわい創出事業」は事業者提案だけを意味するものではないという気がしている。なぜなら、事業者募集の趣旨にも、「今後ともこのような商業集積を維持発展させ、周辺地域の利便性の向上や活性化に寄与する魅力的なにぎわい施設を設置する」とあるように、問屋町エリア全体を俯瞰し、さらにその周辺地域を意識した事業提案を求めていると読み取れるからだ。

新たな開発だけでにぎわいを創出するのではなく、これまでの蓄積や他のエリアとの競合関係、マンション住民が増加している最近の動向といった点を踏まえた上で、将来にわたる問屋町の発展を見据えたまちづくりを行う意思を感じる。テナント会や明石さんの問屋町に対する眼差しと共通するものが感じ取れる。

そして、募集要項には、あらためて、「みんなで創るマチ」を組合活動のコンセプトとしたと書かれている。このコンセプトが生きている以上、組合はコンセプトを最も理解した提案を選定するはずである。選定された事業者も問屋町に関わる一員として、みんなが喜ぶまちづくりを行っていくはずだ。問屋町の将来にとって重要な事業であると共に、「モノサシ」の真価が問われる機会になるのかもしれない。
(写真)現在のオレンジホール(1968年築)と組合駐車場

6――問屋町から学ぶまちづくりにとって大切なこと

6――問屋町から学ぶまちづくりにとって大切なこと

かつて計画的に造ったまちの特徴を生かして、倉庫だった建物を活用し、魅力的な店舗にして、人を呼び込みそれをエリア全体に波及させていく。そこには、常にまち全体の価値を高めていくという思いがあった。中心市街地から3キロの距離にある卸売団地を、市内で最も賑わうオシャレなまちに変えたこの手法は、既に全国のまちづくり関係者に知られ、学ぼうとしている地域は少なくない。

だが、問屋町のまちづくりで最も重要な点はそこではない。まちづくりに関わる人と、その人達のまちに対する思いだと感じる。

まちには様々な立場の人がいる。そうした価値観の異なる人が連携していかなければまちづくりは進まない。問屋町は、ビルオーナーとテナントという立場が異なる者同士が連携していい店をつくり、そうしたプレイヤーが一緒に動き出すことで、まちづくりをかたちにしていった。そして今、組合とテナント会が一緒になって、困難な状況を乗り越えようとしている。

連携するのに必要なものは何か?まちへの「思い」なのではないだろうか。立場が違っても、このまちをどうにかしたいというまちへの思いを共有すれば、一緒に動いていくことができる。それをかたちにしたのが「モノサシ」ではないか。

同時に、それぞれの立場が持つ得意なこと、不得意なことをさらけ出し合える信頼関係を築くことだと思う。それができるからこそ不得意なところを補い合う関係が生まれる。既に組合とテナント会にはそれがあると感じている。

第2のブランディングの中で、まち全体の美術館化を推進するには、おそらく組合とテナント会のさらなる連携が必要になってくると思われる。法令関係の縛りや関係者との調整など、クリアしなければならないことが出てくると予想できるからだ。これまでほとんど関係の無かった行政との連携も必要になってくる。そうした時にも、日頃行政と付き合う機会の少ないテナント会に代わって、組合が調整役を担うといった連携が重要になるだろう。

それができれば、第2のブランディングによって、マンション住民も次第にこのまちに愛着を感じ、まちへの思いを共有して、まちづくりに参加していくことも期待できよう。

問屋町にとって、これからさらに「みんなで創るマチ」が重要になっていくはずだ。ここから先の問屋町に学ぶことの方が大きいと思うのである。


(謝辞)執筆に当たり、文中にコメントを掲載した、株式会社レイデックス代表取締役明石卓巳さん、問屋町テナント会小田墾会長。明石祥有城副会長に取材及び資料提供の面でご協力いただいた。深謝申し上げたい。
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社会研究部   都市政策調査室長・ジェロントロジー推進室兼任

塩澤 誠一郎 (しおざわ せいいちろう)

研究・専門分野
都市・地域計画、土地・住宅政策、文化施設開発

経歴
  • 【職歴】
     1994年 (株)住宅・都市問題研究所入社
     2004年 ニッセイ基礎研究所
     2020年より現職
     ・技術士(建設部門、都市及び地方計画)

    【加入団体等】
     ・我孫子市都市計画審議会委員
     ・日本建築学会
     ・日本都市計画学会

(2017年03月29日「基礎研レポート」)

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