2017年03月28日

韓国における公的扶助制度の現状と課題(後編)-国民基礎生活保障制度の改革と概要、そして残された課題-

生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 金 明中

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3|減免制度
国民基礎生活保障の受給世帯に対しては、住民税の非課税、各種公共料金の減免制度等が実施されている。主な減免制度は次の通りである。

(1)住民税非課税(個人均等割非課税):生計・医療・住居・教育給付受給者が対象

(2)テレビ受信料免除(月2,500ウォン):生計・医療給付受給者が対象

(3)電気料金割引:生計・医療給付受給者→割引額の上限は月16,000ウォン(7,8月は20,000ウォン)
 住居・教育給付受給者→割引額の上限は月10,000ウォン(7,8月は12,000ウォン)

(4)暖房費支援:生計・医療給付受給者が対象、世帯人員別に年83,000~116,000ウォンを支給

(5)都市ガス料金割引:生計・医療・住居・教育給付受給者(国民基礎生活保障の受給者以外の次上位階層、障がい者福祉法による1~3級の障がい者等も対象)、冬季は6,000~24,000ウォン

(6)住民登録証再発給、謄本・抄本発給手数料免除:生計・医療・住居・教育給付受給者が対象

(7)上水道・下水道料金減免、従量制廃棄物手数料減免:生計・医療・住居・教育給付受給者が対象

(8)文化ヌリ5カードの利用料支援:一人当たり年間5万ウォン、生計・医療・住居・教育給付受給者が対象

(9)通信料減免:
・生計・医療給付受給者
 市内電話:加入費及び月基本料免除、市内通話75 度数(225分)無料
 市外電話:市外通話75 度数(225分)無料
 インターネット電話:加入費及び月基本料免除、市内・外通話150 度数(450分)無料
 移動電話:月基本料(上限15,000ウォン)免除及び通話料50%減免(上限30,000ウォン)
 超高速・モバイルインターネット:利用料の30%を減免
 電話番号案内:114の電話番号案内の料金免除
・住居・教育給付受給者:基本料及び通話料をそれぞれ35%ずつ減免(上限30,000ウォン)
 
5 「ヌリ」は、ハングルで世界という意味。
 

3――受給者の現状

3――受給者の現状

韓国における公的扶助制度の年度別受給者数は、生活保護制度が施行されていた1999年の148万人から2000年には149万人に少し増加したものの、それ以降は減少に転じ、2002年には135万人まで受給者数が減少した。しかしながら、現金が支給される生計給付の対象者数は生活保護制度が施行されていた1999年の42万人に比べて3倍強も増加した。これは、国民基礎生活保障制度が全受給者に生計給付を支給したことに比べて、既存(2000年10月以前)の生活保護制度は居宅保護対象者と呼ばれる生活無能力者にのみ生計給付を支給したからである。

2003年の国民基礎生活保障制度の改正6により、働く能力の有無と関係なく所得認定額が一定水準以下で扶養義務者基準を満たせば給付が受けられるようになった結果、生計給付の対象者は2009年に157万人まで増加することになった。しかしながら、2010年から導入された社会福祉統合管理網7により、扶養義務者がより正確に把握され、扶養義務者の責任が強調されることになった結果、2010年から2014年まで受給者数が減少し続けた。その後、韓国政府が2015年7月1日に国民基礎生活保障制度の改革を実施することにより2015年の受給者数は再び増加することになった(図表8)。
図表8 国民基礎生活保障制度の予算(右目盛)と受給者数(左目盛)の推移
受給者数の増加には、給付別に受給者選定基準を差別化したことや扶養義務者の条件を緩和したこと等がある程度影響を与えたと考えられる。しかしながらガンシンウック(2016)は、勤務能力のある受給世帯や受給者数が増加した実際の要因についてはまだ分からず、また、制度改正が受給からの脱却や自立、そして勤労誘引にどのぐらい影響を与えたのかもデータの制限により把握されていないと主張している。

生活保護制度が初めて施行された1962年の生活保護の予算は、当時の保健福祉部の予算(19.6億ウォン)の約51%である約9.9億ウォンであった。生活保護費と国民基礎生活保障制度の財源は8、支給額の 10分の8以上を国が、10分の2未満を自治体が負担している。但し、ソウル市の場合は国が10分の5未満を、自治体が10分の5以上を負担することになっており、平均的には国が支給額の4分の3を負担し、自治体が4分の1を負担している。生活保護制度の予算は制度の導入以降増加し続け、国民基礎生活保障制度を導入する前の1999年には1.98兆ウォンまで増加し、2015年現在には9.55兆ウォンに至っている。

2015年における受給率(日本の保護率に当たる)は3.2%で、地域別には全羅北道(5.5%)、光州市(4.9%)、全羅南道(4.6%)、大丘市(4.5%)の順で受給率が高いことに比べて、韓国内で一人当たりGDPが最も高い蔚山市の受給率は1.8%と最も低く、地域別の受給率と一人当たりGDPの間には負の相関が見られ、統計的にも有意(5%水準)であった(図表9)9
図表9  受給率と一人当たりGDPの相関
受給者を年齢階層別に見ると、40~64歳が33.3%で最も高く、次は65歳以上(27.6%)、12~19歳(19.4%)の順であった。世帯人数では一人世帯が60.3%で半分以上を占めており、世帯類型別には一般世帯(31.9%)、高齢者世帯(25.8%)、障がい者世帯(18.9%)の順で高い割合を占めた。

世帯の受給期間は、1年未満が27.4%で最も多かったものの、受給期間が10年以上の世帯も24.9%もあり、受給期間が長期化する傾向もみられた(図表10)。日本の事例を参考とすると、今後韓国社会における高齢化の進展は受給期間の更なる長期化をもたらす可能性が高い。
図表10  受給期間別受給者世帯
国民基礎生活保障制度の受給者世帯を世帯類型別に見ると、2001年に34.0%であった高齢者世帯の割合が2015年には23.7%まで低下している。一方、母子世帯や父子世帯、そして障がい者世帯の割合は増加している(図表11)。
図表11  世帯類型別受給者世帯の年度別推移
高齢化率が上昇しているにもかかわらず、国民基礎生活保障制度の受給者世帯に占める高齢者の割合が低下しているのはなぜだろうか。その主な理由としては高齢者が早期老齢年金を含めて公的年金を受給し始めることになったことや、高齢者に対して基礎年金制度等の所得保障制度が拡大・実施されたことが挙げられる。また、景気の低迷や離婚の増加等により高齢者以外の世帯の経済的状況が厳しくなったことも一つの理由として考えられるだろう。
 
 
6 詳細は、金明中(2017)「韓国における公的扶助制度の現状と課題(前編)-生活保護制度から国民基礎生活保障制度の導入まで-」基礎研レター、2017年3月8日を参照。
7 2010年から「社会福祉統合管理網」が実施されることにより、国税庁、雇用労働部、健康保険公団等27機関の215種類の所得及び財産関連情報や人的事項、120種類の福祉サービスに関する履歴が部署間で共有可能になった。詳細は、金明中(2012)「増え続ける生活保護受給者に対する対策は?― 韓国の「社会福祉統合管理網」は参考になるのか!―」研究員の眼、2012年11月27日を参照。
8 日本の生活保護制度は支給額の4分の3を国が負担し、4分の1を自治体が負担する。
9 日本の2016年12月の保護率は1.69%(速報値)。
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生活研究部   上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任

金 明中 (きむ みょんじゅん)

研究・専門分野
高齢者雇用、不安定労働、働き方改革、貧困・格差、日韓社会政策比較、日韓経済比較、人的資源管理、基礎統計

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
    独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年9月ニッセイ基礎研究所へ、2023年7月から現職

    ・2011年~ 日本女子大学非常勤講師
    ・2015年~ 日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員
    ・2021年~ 横浜市立大学非常勤講師
    ・2021年~ 専修大学非常勤講師
    ・2021年~ 日本大学非常勤講師
    ・2022年~ 亜細亜大学都市創造学部特任准教授
    ・2022年~ 慶應義塾大学非常勤講師
    ・2024年~ 関東学院大学非常勤講師

    ・2019年  労働政策研究会議準備委員会準備委員
           東アジア経済経営学会理事
    ・2021年  第36回韓日経済経営国際学術大会準備委員会準備委員

    【加入団体等】
    ・日本経済学会
    ・日本労務学会
    ・社会政策学会
    ・日本労使関係研究協会
    ・東アジア経済経営学会
    ・現代韓国朝鮮学会
    ・韓国人事管理学会
    ・博士(慶應義塾大学、商学)

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