2017年03月24日

企業の賃上げ意欲を削ぐ社会保障負担

岡 圭佑

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4――人件費負担増で賃上げがますます困難に

企業収益が過去最高水準に達している中でも企業が人件費抑制姿勢を緩めない要因の一つに、社会保障負担増の影響があることは見逃せない。個人消費が力強さを欠く中で賃上げの重要性が高まっているが、社会保障負担が増加すれば賃上げの動きを停滞させかねない。
図表7 賃金引上げに必要な支援策(上位5項目) 昨年、日本商工会議所が実施した「人手不足への対応に関する調査」においても、賃上げに必要な支援策として「社会保険料負担の軽減」を挙げる企業の割合が最も多い(図表7)。今後も、高齢化の進展を背景に社会保障負担は増加することが見込まれることから、企業が賃上げを積極化することはますます困難となることが予想される。

政府は、デフレ脱却の手段として賃上げが不可欠との判断から民間企業への賃上げ要請や賃上げ促進減税を実施している。しかしながら、企業は依然として人件費抑制姿勢を緩めておらず、ここ数年の春闘は力強さを欠く状況が続いている。企業に対して前向きな賃上げを促すためにも社会保障制度改革を実施し、継続的な賃上げの基盤作りを急ぐべきである。
 

付注 総人件費の試算

付注 総人件費の試算

■計算方法
 総人件費 = ∑〔年齢別一人当たり正規雇用者の人件費 × 年齢別正規雇用者数
       + 年齢別一人当たり非正規雇用者の人件費 × 年齢別非正規雇用者数〕
 年齢別一人当たり正規雇用者の人件費 = 年齢別一人当たり正規雇用者の賃金
       ×(1+社会保険・労働保険料率(事業主負担分))
 年齢別一人当たり非正規雇用者の人件費 = 年齢別一人当たり非正規雇用者の賃金
       × (1+社会保険・労働保険料率(事業主負担分))

■使用データ(いずれも暦年ベース)
 年齢別一人当たり正規雇用者の賃金
 厚生労働省「賃金構造基本統計調査」における一般労働者の6月の定期給与を
 12倍し年間の賞与を加算

 年齢別一人当たり非正規雇用者の賃金
 厚生労働省「賃金構造基本統計調査」における短時間労働者の6月の時給、
 1日の労働時間及び労働日数を乗じたものを12倍し、年間の賞与を加算

 雇用者数
 総務省「労働力調査」を使用

 社会保険・労働保険料率(事業主負担分)
 65歳未満 = 健康保険料率 + 介護保険料率(※) + 厚生年金保険料率
       + 雇用保険料率 + 労働災害保険料率
 ※40歳~65歳の雇用者が対象

  65歳以上 = 健康保険料率 + 厚生年金保険料率 + 労働災害保険料率

  出所:健康保険料率、介護保険料率…協会けんぽ
     厚生年金保険料率、雇用保険料率、労働災害保険料率…厚生労働省

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(2017年03月24日「基礎研レター」)

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