2017年03月08日

日本初の「クリエイティブリユース」の拠点とは?-倉敷玉島のまちに息づく“創造の源”を訪ねて

社会研究部 都市政策調査室長・ジェロントロジー推進室兼任 塩澤 誠一郎

文字サイズ

はじめに

とあるプロジェクトに関わるようになってから、「廃材」が気になるようになった。廃材は「ごみ」として廃棄されたものであるが、「ごみ」にしなければ「素材」である。そう、ごみは「素材」なのだ。そこに創造性を加えて、新たな価値を生み出すことができれば、そんなステキなことはない。まちづくりにもつながるはずだ。

などと考えて、あれこれ調べ、2012年に「『すてる』と『つくる』をつなぐ仕事 - アップサイクルによるモノづくりと、まちづくり1を執筆した。その過程で出会ったのが、大月ヒロ子さんのクリエイティブリユースに関する論文である。当時はまだ「IDEA R LAB」はオープンしておらず、大月さんの著書2も出版前だった。

2013年夏にオープンしてからは、ずっと訪問するチャンスを探していたのだが、ついに昨年実現した。そしてすぐに後悔したのである。もう少しゆっくり時間を作って訪れればよかったと。

倉敷玉島のまちに息づく“創造の源”「IDEA R LAB」を訪問した様子をお伝えする。
 
1 基礎研レポート2013年1月29日 http://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=40454?site=nli
2 「クリエイティブリユース―廃材と循環するモノ・コト・ヒト」著者:大月ヒロ子 中台澄之 田中浩也 山崎亮 伏見唯 発行:millegraph
 

1――「IDEA R LAB」―300年の歴史ある建物を改装

1――「IDEA R LAB」―300年の歴史ある建物を改装

昨年、念願かなって、「IDEA R LAB(イデア・アール・ラボ)」を訪問することができた。博物館プロデューサーの大月ヒロ子さんが運営する、日本初のクリエイティブリユースの拠点である。場所は、岡山県倉敷市の「玉島」と呼ばれる地域だ。

拠点などというとものすごい施設をイメージしてしまうが、大月さんの生家を改装した建物は、実に周囲の環境に溶け込んでいる。それもそのはずで、300年の間そこに建ち続けてきた歴史がある。

大月さんに、旧母屋と2つの蔵からなる建物を隅々まで案内していただいた。柱や梁は、堅牢さに加え、古民家特有の月日を重ねた深みのある表情を見せている。障子や襖などの建具は、まったくもってシンプルな意匠で、日々の生活で使われ続けてきたことを一目で理解させる。

母屋を改装した、大月さんが「ラボ」と呼ぶ空間は、前面道路に面してガラス戸が広く取られ、外の様子がよく見通せて、とにかく開放的で気持ちいい。外からも中の様子がよくわかり、ここが地域に開かれた場として誕生したことを納得させられる。
前面道路から見たIDEA R LAB/ラボ内部(いずれも筆者撮影以下同じ)

2――創造的な雰囲気に満ちた「マテリアルライブラリー」

2――創造的な雰囲気に満ちた「マテリアルライブラリー」

IDEA R LABに向かう通りに面した、「マテリアルライブラリー」は、さらに外に開かれた雰囲気を持つ。もともと店舗だったことから、建物自体まちに対して親和性が高いのだと思う。初めての人でも入りやすいはずだ。その特徴をうまく生かしてリノベーションしている。

ここには、大月さんが収集した廃棄素材や、世界中で集めたクリエイティブリユース製品が展示されており、年間を通じて様々なワークショップの会場として使われている。内装や展示ケースなども、生家で使っていた家具や、譲り受けた廃材を活用している。その多くが、参加者を募りワークショップで製作、施工したものだ。

展示されている廃材に創造性をかき立てられ、ワークショップを通じてそれを形にする。創造的な活動は楽しい。この日も、「ミミヤーン」と呼ばれる廃棄素材を使って、ポーチを作るワークショップや、LEDバッジを作るワークショップが行われており、楽しい雰囲気に包まれていた。ワークショップには、近隣の人ばかりでなく、岡山市など周辺地域からも参加者が訪れるという。

3Dプリンターなどのデジタル工作機器を設置した、ファブ機能を有する工房を設けたことで、モノづくりを行う人々をも惹きつけている。筆者が訪れたときも、名古屋や香川から工房利用者が訪れていた。

興味深かったのは、このようにワークショップの参加者とその講師、工房利用者、そして筆者のような見学者が同じこの場所で活動していることだ。それぞれが活動する空間もつながっていて、見通しも、風通しもよく、お互いのちょっとした配慮が効いた心地よい距離感を感じる。空間の仕立て方もあるのだろうが、訪問目的が異なっても共通するこの場所への共感が、その心地よさを生み出しているように思う。
マテリアルライブラリー前景と内部の様子
(写真上段)マテリアルやクリエイティブリユース製品の展示/(下段)ファブ工房でのワークショップの様子
Xでシェアする Facebookでシェアする

社会研究部   都市政策調査室長・ジェロントロジー推進室兼任

塩澤 誠一郎 (しおざわ せいいちろう)

研究・専門分野
都市・地域計画、土地・住宅政策、文化施設開発

経歴
  • 【職歴】
     1994年 (株)住宅・都市問題研究所入社
     2004年 ニッセイ基礎研究所
     2020年より現職
     ・技術士(建設部門、都市及び地方計画)

    【加入団体等】
     ・我孫子市都市計画審議会委員
     ・日本建築学会
     ・日本都市計画学会

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【日本初の「クリエイティブリユース」の拠点とは?-倉敷玉島のまちに息づく“創造の源”を訪ねて】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

日本初の「クリエイティブリユース」の拠点とは?-倉敷玉島のまちに息づく“創造の源”を訪ねてのレポート Topへ