2017年03月03日

金相場の先行きはどうなる?~金融市場の動き(3月号)

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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1.トピック:金相場の先行きはどうなる?

今年に入ってから金相場が堅調に推移している。昨年末に1オンス1151ドル台であったNY金先物相場(以下、金価格)は、年初から上昇基調を続け、2月27日には約3ヵ月半ぶり高値となる1258ドル台に達した。ここ数日は俄かに米利上げ観測が盛り上がったことで下落しているものの、昨日終値でも1232ドル台と高値を維持している。
(崩れた金価格とドルの逆相関関係)
本来、金価格は「ドルの強弱」と「米金利の動向」の影響を大きく受ける。

まず、金価格とドルは逆相関の関係にある。金価格とドルインデックス(ドルの複数通貨に対する強弱を示す)の推移を見ると(表紙図表参照)、ドルが下落(上昇)する局面では金価格が上昇(下落)しやすいという関係性が見て取れる。これは、金が「無国籍通貨」の側面を持つため、基軸通貨ドルの価値が下落(上昇)する際に代替資産として買われる(売られる)ためだ。金価格はドル建て表示のため、ドルが下落(上昇)すると、他通貨使用国から見た割安感(割高感)が高まり、上昇(下落)するという面もある。

また、金価格と米金利にも逆相関の関係がある。金には「保有しても金利が付かない」という特徴があるため、金利が低下(上昇)すると、相対的な魅力が高まり(減退し)、上昇(下落)するというメカニズムだ。特にNY市場があり、世界の代表的な金利である米金利との逆相関関係は顕著である。

米国の利上げは、ドルと米金利の上昇を促すため、金価格にとっては逆風になる。
NY金価格と米長期金利/NY金価格とダウ平均株価
NY金価格との相関係数 もちろん、金価格とドル、米金利との逆相関関係は常に成立するわけではないが、2016年の日次で計算した相関係数はそれぞれ、-0.62、-0.80と高い。

なお、金価格と米株価の関係性については、平時はさほど強くない。ただし、金には「安全資産」の側面があるため、世界的なショックなどで株価が急落する局面では、逃避マネーの金への流入によって金価格が上昇する。
 
しかしながら、2月に入ると、この関係性は大きく崩れた。従来、逆相関関係にあった金価格とドルインデックスが順相関関係になり、ドルが上昇しているにも関わらず、金価格が上昇するという事態が起きた。
(価格水準も理論値を上回る)
それでは、現在の水準をどう捉えればよいのだろうか。金には株価におけるPERといった割安・割高感を示す指標は存在しない。

そこで、昨年の金価格とドルインデックスを回帰分析して、両者の関係性から導かれる理論値(理論値①)を試算してみると、直近(3/2時点)では1150ドルとなる。従って、現在のNY金価格(1232ドル台)は、理論値から80ドル強も上振れていることになる。

また、同様に昨年の金価格と米長期金利を回帰分析して、両者の関係性から導かれる理論値(理論値②)を試算してみると、直近(3/2時点)では1120ドルとなる。金利面から見ても、現在の価格は110ドル強も上振れていることになる。

もちろん、理論値の試算にあたっては、どの期間のデータを使うのかによって結果はかなり変わってくるが、最近の価格が従来のドル・米金利との関係性から大きく上振れしていることは明らかだ。
NY金価格と理論値/NY金価格と理論値の乖離幅

※上図表補足
 ・理論値①計算式:NY金価格=3084.57-18.94×ドルインデックス  (R2=0.39)
 ・理論値②計算式:NY金価格=1626.65-205.23×米長期金利  (R2=0.64)


それでは、なぜこのような上振れが発生しているのだろうか。それは、やはり世界経済・金融市場の不透明感が強まり、投資家の間で安全資産である金への需要が発生しているためと考えられる。実際、2月に入って、世界最大の金ETFであるSPDRゴールド・シェアの金保有残高はかなり増加している。

現在の世界を見渡すと欧州の選挙やBrexit、トランプ政権の政策運営など多くの大型リスクが存在している。特に2月に入って、フランスとドイツの長期金利差が拡大していることは、4・5月に予定されているフランス大統領選で反EU派であるルペン氏が勝利し、経済・市場が混乱に陥るリスクへの警戒を示唆していると考えられる。

また、トランプ政権の政策に関しては未だ具体像が判明しないが、(1)巨額の景気刺激策が(悪い意味での)インフレに繋がるリスク、(2)極端な保護主義によって世界経済が減速するリスク、(3)外交政策の転換・孤立主義化によって世界で対立・衝突が発生するリスクなど、展開次第で様々なリスクシナリオに向かう可能性がある。

これら先行きのリスクに対する備えとして金が選好されていることで、金の高値が維持されていると考えられる。
SPDRゴールド・シェアの金保有残高/仏独長期金利差
(金価格は底堅い展開に)
今月に入って、俄かに米国の3月利上げ観測が盛り上がったことで、ドルインデックス、米長期金利が上昇し、金価格の下落圧力になっている。当面は引き締めに向かう米金融政策に市場の関心が向かいやすいこと、また、3月中には米予算教書が公表されるとみられ、トランプ政権の景気刺激策への期待が高まりやすいことは、ドル高・米金利上昇圧力を通じて金価格の下落に繋がりそうだ。前述の理論値の計算式によると、ドルインデックスの1%の上昇、米長期金利の0.1%ポイントの上昇は、それぞれ金価格を20ドル、21ドル押し下げる。

ただし、欧州の選挙への警戒は、少なくともフランス大統領選のある5月上旬までは続くとみられることから、安全資産金への需要は継続し、金価格の下支え要因となる。昨年末の水準(1151ドル台)を割り込むことはないと見ている。
 
フランスの大統領選が無難に終われば、欧州の選挙というイベントリスクは一旦終了する。ただし、昨年来の想定外の事態(英国のEU離脱決定、トランプ大統領誕生、欧州諸国での反EU派の台頭など)の根底には人々の不満という簡単には払拭できない構造的な問題があるという点を踏まえれば、今後も様々な不測の事態が危惧される。また、トランプ政権には従来の政権のような安定感は期待しづらいほか、中国経済も大きな構造問題を抱えたままだ。世界経済は不透明感の強い状況が続き、金の需要に繋がるだろう。

従って、米国の利上げが意識される局面ではたびたび下振れるものの、年内の金価格は基本的に1200ドル~1300ドルでの底堅い展開が予想される。
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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

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