2017年03月02日

どのような人がリスク許容度が高いのか?-個人投資家のリスクプロファイリングに関する実証分析

北村 智紀

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4――どのような人がリスク許容度が高いのか

本節では、どのような人がリスク許容度が高いのかを分析する。Sung and Hanna (1996)では、性別、既婚、人種グループ、最終学歴などの個人属性がリスク許容度に影響しているとしているが、本レポートでは、このような個人属性ではなく、家計の老後の準備に対する考え方(選好)がリスク許容度と関連性があるのかについて分析する。本レポートで分析の対象としたのは、「公的年金への信頼度」、「老後の生活資金への不安度」、「老後の生活に対する楽観度」、「人生設計を行っているかの程度」の4つの指標である。まず、公的年金への信頼度は、
              「公的年金は信頼できる」
かについて、
              1: ほとんどそう思わない、
              2: あまりそう思わない、
              3: どちらかといえばそう思わない、
              4: どちらかといえばそう思う、
              5: わりとそう思う、
              6: かなりそう思う、
の6つの選択肢で尋ねたものである。選択肢は6つあるが、分析の容易性を考えて、回答者数の少ない選択肢を統合して公的年金への信頼の程度を(1)年金信頼低 ~ (4) 年金信頼高の4つのカテゴリーに分類した。次に、老後の生活資金への不安度は、
              「老後の生活は公的年金だけでは不安である」
かについて上記の選択肢で尋ねたものである(以下、選択肢は共通)。老後資金への不安の程度を(1)老後資金不安低 ~ (4) 老後資金不安高の4つのカテゴリーに分類した。不安高の方が老後資金への不安が高いことを表す。老後の生活に対する楽観度は、
              「老後は楽しく暮らせるはずだ」
について尋ねたものである。同様に、老後の生活に対する楽観の程度を(1)老後生活悲観 ~ (4) 老後生活楽観の4つのカテゴリーに分類した。最後に、人生設計を行っているかの程度については、
              「自分は人生設計を考えている」
について尋ねたものである。人生設計を行っているかの程度について、(1)人生設計低 ~ (4) 人生設計高の4つのカテゴリーに分類した。
             
リスク許容度とこれら4つの指標との関係性の分析には、以下の多項ロジット回帰分析(MNL)を利用した。
多項ロジット回帰分析
被説明変数Yは上述の「すぐに売却」、「何れ売却」「我慢」、「買い増し」の4つのリスク許容度の分類(それぞれ、k=1,2,3,4とする)である。説明変数Xは、「公的年金への信頼度」、「老後の生活資金への不安度」、「老後の生活に対する楽観度」、あるいは「人生設計を行っているかの程度」の4つの変数である。Zはコントロール変数であり、性別、既婚、年齢、保有する金融資産額である。α、βは回帰係数であり、εは誤差項である。fは多項ロジット回帰分析に適切な関数形とする。
以下の図表4~図表7は4つの指標とリスク許容度との関係を分析した結果である。図表4は公的年金への信頼度とリスク許容度の関係を表した図表である。公的年金への信頼度が高いほど、自分が何か資産運用や事業等に失敗したとしても、最終的には公的年金に頼ることができるので、リスク許容度が高い(大きいリスクをとっても良いと考える傾向)があると予想される。この図表は、上記の回帰分析の推計結果を利用して、公的年金への信頼度を表すそれぞれのカテゴリー別に、リスク許容度を表す変数の構成割合を推計したものである。例えば、年金信頼低(1)では、「すぐに売却」を選択したものが22%を占める。「何れ売却」を選択した者は28%、「我慢」を選択した者は「44%」、「買い増し」を選択したが7%を占めていた。同様に、年金信頼高(4)では、「すぐに売却」の構成割合は15%、「何れ売却」は26%「我慢」は52%、「買い増し」8%であった。
図表4:公的年金への信頼度とリスク許容度の関係
年金信頼低(1)と年金信頼高(4)との差を比較すると、「すぐに売却」の構成割合は約7%ポイント低下している。また、「我慢」は8%ポイント増加している。これらは統計学的に有意な増減である。このように、公的年金への信頼度については、年金への信頼度が高まるほど、リスク許容度が相対的に高い人の割合が増加している。公的年金への信頼度は、リスク許容度の決定に関連性が深い指標であり、ひいては、リスク資産への投資配分決定に影響する指標だと考えられる。
 
図表5は老後の生活資金への不安度とリスク許容度の関係を表した図である。生活資金への不安度が高い人は、リスクを回避する傾向が強い可能性がある。一方、生活資金への不安度が高ければ、何か自助努力をする必要があり、そのためには一定のリスクを引き受ける必要があると認識している可能性がある。どちらの方が強いか検証する。老後資金不安低(1)と老後資金不安高(4)との差を比較すると、老後資金不安低(1)では、「我慢」の構成割合は約39%であったが、老後資金不安高(4)では49%と約10%ポイント増加している。これは統計学的に有意な増加である。その他のリスク許容度変数の増減は有意ではなかった。つまり、老後の生活資金への不安度が高い人の方が、自助努力の必要性等を感じて、リスクに対する我慢を許容できる人が増加する。その結果、他の条件が一定であれば、株式や株式投信への資産配分が増加する可能性があることが示唆される。
図表5:老後の生活資金への不安度とリスク許容度の関係
図表6は老後の生活に対する楽観度とリスク許容度の関係を表した図である。老後の生活を楽観的に考える人ほど、不確実性やそれに伴う失敗が許容でき、リスクをとることに対しても許容的であることが予想される。老後生活悲観(1)と老後生活楽観(4)との差を比較すると、老後生活悲観(1) では、「我慢」の構成割合は約42%であったが、老後生活楽観(4)では50%と約8%ポイント増加している。一方、老後生活悲観(1) では、「すぐに売却」の構成割合は約24%であったが、老後生活楽観(4)では15%と約9%ポイント減少している。これらは統計学的に有意な増減である。このように、老後の生活に楽観的な人の方が、リスクに対して許容的である人が増加している。
図表6:老後の生活に対する楽観度とリスク許容度の関係
最後に図表7は人生設計を行っているかの程度とリスク許容度の関係を表した図である。人生設計を行っている人ほど、リスクを一定程度予測しているのと、予測できないリスクに関してもある程度対応できるので、リスク許容度が高いと予想される。人生設計低(1)と人生設計高(4)との差を比較すると、人生設計低(1)では、「買い増し」の構成割合は約5%であったが、人生設計高(4)では12%と約7%ポイント増加している。これは統計学的に有意な増加である。このように、人生設計を行っている人ほど、特にリスク許容度が高い人が増加する。
図表7:人生設計を行っているかの程度とリスク許容度の関係
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北村 智紀

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