2017年03月02日

どのような人がリスク許容度が高いのか?-個人投資家のリスクプロファイリングに関する実証分析

北村 智紀

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3――損失した場合の対応に基づくリスク許容度の推計

Kement(2015)を参考に、独自のアンケート調査で「株式投資で損失した場合にどのような行動をとるか」を尋ね、リスク許容度の指標として利用可能性があるか検証した。本レポートで利用したデータは2016年に筆者等がインターネットを利用して実施した「生活に関するアンケート」である。30~64歳までの男女が対象で回答者数は3,096人である。リスク許容度を聞く質問は以下のように行った。

「次の状況を考えてください。10年以上保有する予定で、値上がりが期待できる株式投資信託に300万円を投資しました。しかし、2割値下がりしてしました。このとき、あなたならどうしますか。次のうち、あなたの考えに最も近いものを選んでください」。回答の選択肢は、

 1: せっかく値下がりしたのだから、もう60万円買い増す、
 2: せっかく値下がりしたのだから、もう30万円買い増す、
 3: 短期的な値下がりは想定済み。このまま我慢する、
 4: しばらく様子を見るが、さらに値下がりするようなら、半分を売却する、
 5: しばらく様子を見るが、さらに値下がりするようなら、全額を売却する、
 6: これ以上値下がりしないように、すぐに半分を売却する、
 7: これ以上値下がりしないように、すぐに全額を売却する、

である。以降、分析を容易にするため、選択肢の1と2を「買い増し」、選択肢の3を「我慢」、選択肢の5と6を「何れ売却」、選択肢の6と7を「すぐ売却」とデータを4つのカテゴリに統合して分析を行う。「買い増し」はリスク許容度がかなり高い者、「我慢」は中程度のリスク許容度を持つ者、「何れ売却」はリスク許容度が中よりは低いが低よりは高いもの(「リスク許容度低中」とする)、「すぐ売却」はリスク許容度が低いものと解釈できる。図表2はアンケート結果の分布である。「我慢」が最も多く全体の47%、次に「何れ売却」が28%、「すぐに売却」が16%であった、最も回答者数が少ないのは「買い増し」の8%であった。
図表2:リスク許容度に関する質問の回答の分布
この質問項目が上記の理論で示した投資家のリスク許容度γに関連するものかどうか確認するために、4つにカテゴリー別の株式あるいは株式投信の保有比率を示したのが図表3である。現在保有している金融資産のうち、株式あるいは株式投信に少しでも投資している家計の比率を表している。もちろん、株式の期待リターンを高く見積もる家計ほど保有比率は上昇するので、株式の期待リターンを低・中・高と3つに分類して表示している。株式の期待リターンは、回答者に「今後30年程度で株式投資に見込まれるリターンがどの程度か」尋ねた回答を3つに分類したものである。このうち、株式期待リターン中では、株式や株式投信を保有する家計の割合は、「すぐに売却」では37%、「何れ売却」では43%、「我慢」では46%、「買い増し」では56%であった。
図表3:リスク許容度と株式保有比率
株式の期待リターンをどのように見積もっても、「すぐに売却」が最も株式保有比率が低く、「何れ売却」は保有比率が上昇する。「我慢」はさらに保有比率が高まり、「買い増し」は保有比率が最も高い。表中には示していないが、この保有比率は家計が考える株式投資のリスクの程度、性別、年齢、保有する金融資産の額を調整した推計値である。従ってこの4つのカテゴリーは、投資家のリスク許容度γを表しているものと考えても良さそうである。
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北村 智紀

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