2017年03月02日

どのような人がリスク許容度が高いのか?-個人投資家のリスクプロファイリングに関する実証分析

北村 智紀

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1――はじめに

ファイナンス理論によれば、株式などのリスク資産の期待リターンが高いほど、リスク(変動性・値下がりする可能性)が低いほど、投資家のリスク許容度が高いほど、リスク資産への資産配分は増加する。このようなリスク資産の期待リターンやリスクは、リスク資産への資産配分を決める重要なパラメータであり、過去の証券市場のデータ等を用いて推計することが多い。これに対して、リスク許容度とは、投資家が「どの程度リスクをとって投資することが向いているか」を表す指標であり、いわば投資家の性格を表すものである。金融機関は投資家(顧客)のリスク許容度を把握するように努めるべきであるが、どのような人がどの程度のリスク許容度を持つのかは研究途上の段階である。そこで、最近の海外において研究されたリスク許容度の推計方法の例を利用し、どのような投資家が低い(高い)リスク許容度を持つ傾向があるのかを検証する。
まず、シンプルなモデルを利用して、リスク許容度とリスク資産への資産配分の関係を整理しておく。無リスク金利をRf、リスク資産のリターンをRとする。リスク資産への投資比率をθすると、無リスク資産とリスク資産に投資するポートフォリオのリターンは、
ポートフォリオのリターン
と表せる。この時、ポートフォリオの期待リターンとポートフォリオのリスク(分散)は、それぞれ、
ポートフォリオのリスク
と表せる。ただし、E[R]はリスク資産の期待リターン、V(R)はリスク資産の分散である。投資家は、ポートフォリオの期待リターンとリスクに依存する効用関数:
ポートフォリオの期待リターンとリスクに依存する効用関数
を持つとする。ポートフォリオの期待リターンが高いほど投資家の効用も高くなり、リスク(分散)が高くなるほど効用は低まる。γは投資家の「リスク許容度」であり、投資家のリスクをとることに対するペナルティーの度合いを表す。投資家はこの効用関数を最大化するリスク資産への投資比率θを選択する。この最大化問題の解は、
最大化問題の解
となる。分子はリスク資産の期待リターンから無リスク金利を引いたものであり、「超過リターン」と言われる。超過リターンが高いほどθは大きくなる。一方、分母はリスク資産の分散V[R]とリスク許容度γである。分散V[R]が大きくなるほど、θは小さくなる。また、リスク許容度γが大きくなるほど、θは小さくなり、リスクが高い投資を避ける傾向が強まる。
図表2は、リスク資産の期待リターンE[R]と、リスク許容度γの違いによるリスク資産への最適投資比率θを図示したものである。なお、リスク資産のリスク(標準偏差)は20%とした。
図表1:リスク資産の期待リターン・リスク許容度とリスク資産への投資比率
例えば、E[R]=5%の時、γ=2.5ではリスク資産への最適投資比率は50%であるが、γ=4のような、リスクを嫌がる性格の(リスク回避度が高い)投資家の場合では、リスク資産への最適投資比率は31%に低下する。同じ期待リターンやリスクでも、投資家のリスク許容度が異なれば、最適資産配分は大きく異なることがわかる。そのため、リスク許容度の推計は、期待リターンやリスクの推計と同様に、慎重に行う必要がある。
 

2――実務的なリスク許容度の推計方法の例

2――実務的なリスク許容度の推計方法の例

実務的にはリスク許容度の推計は投資家に対するアンケート等を実施して行われる。以下はアンケートの例である。例1は、投資にあたり、どのような収益を追求したいか尋ねるものである。値上がり益を追求する人ほど、リスク許容度が高いと解釈される。質問内容は、

例1:どのような目的で投資されますか?基本的な考えをご回答ください。

 1:元本割れは避けたい、
 2:分配金や利金による安定的な収入重視、
 3:分配金や利金による収入と、ある程度の値上がり益を追求、
 4:分配金や利金による収入よりも、値上がり益を重視 、
 5:大幅な利回り、大きな値上がり益を重視、

である。例2は、投資をするにあたり、どのようなリスクとリターンの関係を目指すか直接尋ねる方法である。大きなリスクをとっても良い人ほど、リスク許容度が高いと解釈される。質問内容は、

例2:あなたは老後のための貯蓄や投資を行う際、どれが当てはまりますか?

 1:利金・配当金は少なくてもよいから、できるだけリスクはとりたくない、
 2:少し高い運用収益が得られるなら、少しくらいならリスクをとってもよい、
 3:ある程度の高い運用収益が得られるなら、ある程度のリスクをとってもよい、
 4:大きな運用収益が得られるなら、大きなリスクをとってもよい、

である。しかし、このようなアンケートだと、リスク許容度という投資家の性格を推計するというより、「現在どのような方法で投資をしているか」という現状を尋ねているのにすぎない、という問題点もある。
このような現状のアンケート調査によるリスク許容度の推計には欠点があるのに対して、Kement(2015)は、「株式投資で損失を被った際の投資家の反応」がリスク許容度をより表すとして、例3のように、株式が下落する仮想的なシナリオをつくり、その時の行動を尋ねる質問をした。質問内容は、

例3:10%株価が下落した際、どのように行動しますか?

 1:買い増す、
 2:何もしない、
 3:売却する、

である。売却する人はリスク許容度が低く(リスクがある資産への投資は向いていない)、買い増す人はリスク許容度が高い(リスクがある資産への投資は向いている)と解釈できる。次節では、Kement(2015)の方法を参考にリスク許容度の推計を行い、どのような人がリスク許容度が高い(低い)傾向があるのかについて実証分析の結果を紹介する。
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北村 智紀

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