2017年02月27日

福岡オフィス市場の現況と見通し(2017年)

竹内 一雅

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1. はじめに

2016年に福岡ではJRJP博多ビルが竣工し、現在は満室で稼動している。活発なオフィス需要に加え、天神ビッグバンに伴う建替えのための移転需要が大量に発生しオフィス需給は逼迫している。本稿では福岡オフィス市場の現況把握とともに2023年までのオフィス賃料の将来予測を行う1
 
1 過去のレポートは竹内一雅「福岡オフィス市場の現況と見通し(2016年)」(2016.3.8)ニッセイ基礎研究所、同「福岡オフィス市場の現況と見通し(2015年版)」(2015.3.10)ニッセイ基礎研究所などを参照のこと。
 

2. 福岡のオフィス空室率・賃料動向

2. 福岡のオフィス空室率・賃料動向

福岡では2016年4月に、延床面積が3万m2を上回る大規模ビルとしては2012年の電気ビル共創館以来となるJRJP博多ビルが竣工し満室で稼動している。新規進出や、郊外・自社ビルからの移転、市内からの拡張移転、館内増床などの活発な需要に加え、天神ビッグバン2による建て替えに伴う移転先確保のための需要が大量に発生し、オフィス需給が逼迫する状況が続いている。

三幸エステートによると、2017年2月の福岡市のオフィス空室率は4.03%で、ファンドバブル期(2006年~2008年)の最低水準(9.05%、2007年4月)を大きく下回っている(図表-1)。空室率の改善は続いており、現時点で改善スピードに衰えはみえない。空室率の改善に伴い、成約賃料(オフィスレント・インデックス)も上昇が続いている(図表-2)。2016年下期は前期比+6.2%、前年同期比+17.7%の上昇で、ファンドバブル期の高値(2008年下期)の99.4%まで回復している。
図表-1 主要都市のオフィス空室率/図表-2 主要都市のオフィス成約賃料(オフィスレント・インデックス)
福岡市内では全てのビル規模で空室率が大幅に低下している(図表-3)。相対的に大規模ビルの下落スピードが縮小しているが、これは大規模ビルの空室率が2017年2月現在で2.10%と極めて低く、これ以上の低下余地が少なくなっているからだ。なお、福岡の大規模ビルの空室率は、東京都心5区の2.88%を下回り、主要都市では札幌市の1.79%に次ぐ低さにある。

三鬼商事によると、福岡ビジネス地区3の2016年末の空室面積は3万坪で、これは直近のピークである2009年末の28%に相当し、1997年以来、20年ぶりの低水準となっている(図表-4)。
図表-3 福岡の規模別空室率/図表-4 福岡ビジネス地区の賃貸可能面積・賃貸面積・空室面積
 
2 天神ビッグバンとは、航空法の高さ制限の緩和などの規制緩和に基づく天神地区における築古オフィスビルの建て替えや交通インフラの整備などの街づくりを進め、天神地区における業務・商業機能の集積と、地区の魅力を高めるためのプロジェクトである。民間ビル30棟の建て替えにより2014年から2024年までに、地区内の延べ床面積を1.7倍に、雇用者数を2.4倍に拡大することを目標としている。詳しくは福岡市「天神ビッグバン」を参照のこと。
3 三鬼商事の定義による。福岡の主要6地区(赤坂・大名地区、天神地区、薬院・渡辺通地区、祇園・呉服町地区、 博多駅前地区、博多駅東・駅南地区)をいう。
 

3. 福岡のオフィス需給と地区別動向

3. 福岡のオフィス需給と地区別動向

福岡ビジネス地区の2016年の賃貸面積(稼動面積)の増加は2014年に続いて2万坪を上回り、バブル景気崩壊後(1992年以降)で最大の需要増加となった(図表-5左図)。2016年は大規模ビルの供給があったが、過去の大量供給時と比べると賃貸可能面積の増加はさほど大きくない。新規供給が少ない中での自律的な需要増加という点からも、福岡市のオフィス需要増加の勢いはきわめて強い。月次データによると、空室面積が非常に少なくなっている中でも、毎月、着実に需要は増加している(図表-5右図)。
図表-5 福岡ビジネス地区の賃貸オフィス需給面積増加分
JRJP博多ビルの竣工により、2016年の福岡の新規供給量は9千坪と過去7年間で最も多くなったが、2009年の3万坪と比べると1/3の規模にすぎない(図表-6)。ただし、2016年は東京を除く他の主要都市でもほとんど新規供給がなく、福岡の7千坪が最大の供給量だった。

近年、福岡ビジネス地区では新築の大規模ビルの供給が少なかったこともあり、賃貸面積増加分のほとんどを既存ビルが吸収してきた(図表-7)。2016年も需要の強さから、既存ビルでの需要増加が進み、新規ビルによる需要の吸収は全体の4割弱にすぎない。三幸エステートのネットアブソープション4(吸収需要)からも、近年の福岡市における需要の強さが確認できる(図表-8)。
図表-6 主要都市の新規供給面積/図表-7 福岡ビジネス地区の新築・既存ビル別賃貸面積増分
福岡ビジネス地区では全地区で空室率が低下している(図表-9)。2017年1月の空室率は、薬院・渡辺通地区で2.01%(一年前は3.55%)、祇園・呉服町地区3.00%(同6.52%)、博多駅前地区4.10%(同5.46%)、天神地区4.17%(同6.13%)、博多駅東・駅南地区4.62%(同5.46%)、赤坂・大名地区6.48%(同7.89%)だった(図表-10左)。

空室率の低下に伴い、地区別の募集賃料も上昇が始まっている(図表-10右)。博多駅前地区を中心に全ての地区で募集賃料の上昇が顕在化し始めている5
図表-8 福岡の新規供給とネットアブソープション/図表-9 福岡ビジネス地区の地区別オフィス空室率推移
図表-10 福岡ビジネス地区の地区別オフィス空室率・募集賃料(月次)
2016年末現在、福岡ビジネス地区で最も賃貸可能面積が集積しているのが天神地区(全体の23.9%)で、次いで博多駅前地区(同22.4%)、祇園・呉服町地区(同16.0%)、博多駅東・駅南地区(同15.9%)、薬院・渡辺通地区(同12.0%)、赤坂・大名地区(同9.9%)である(図表-11)。

2016年の一年間に福岡ビジネス築では6,900坪の賃貸可能面積の増加があったが、全て博多駅前地区での供給だった(図表-12)。賃貸面積は全地区で増加しており、特に博多駅前地区では+9千坪という大幅な増加となった。それ以外の地区でも、祇園・呉服町地区と博多駅東・駅南地区でともに+3千4百坪の増加、天神地区で+2千8百坪の増加など、賃貸面積の活発な増加がみられた。
図表-11 福岡ビジネス地区の地区別賃貸可能面積・賃貸面積・空室面積構成比(2016年)/図表-12 福岡ビジネス地区の地区別オフィス需給面積増加分(2016年)
 
4 ネット・アブソープションとは調査期間内のオフィス需要(稼動面積)の増減のことであり、「期初竣工済みビル募集面積」+「新規供給面積」-「期末竣工済みビル募集面積」で算出している。
5 大規模ビルの空室が少なく、募集における中小ビル等の比率が高まっていると考えられるため、平均募集賃料の伸びは実態よりも控えめな数値となっている可能性がある。
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竹内 一雅

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