2017年02月08日

東京都心部Aクラスビルのオフィス市況見通し(2017年)-2017年~2023年のオフィス賃料・空室率

竹内 一雅

文字サイズ

4. 今後のAクラスビル新規供給、都区部オフィスワーカー数の見通しと経済見通し

三幸エステートの調査から今後のAクラスビルの新規供給面積をみると、2017年は10万坪弱と2016年の6割程度の低い水準と考えられるが、2018年から2020年の三年間では平均で20万坪を上回る大量供給が計画されている(図表-7)。近年の人手不足に加え、都心部での大規模再開発の集中などからビルの竣工予定時期の先送りが続いており、2021年の竣工計画も積みあがり始めている。現在、Aクラスビルの完成予定がほとんどない2022年についても、今後は完成延期や竣工時期の平準化を狙った供給計画の増加が見込まれる。

東京都によると、東京都区部および都心5区のオフィスワーカー数は2015年をピークに減少がはじまると予測されている(図表-8)。ただし、東京都や東京圏への人口の転入超過が高水準で続いていることもあり(図表-9)6、当面はオフィスワーカー数の急激な減少はないと考えられる。
図表-7 東京都心部Aクラスビル新規供給見通し/図表-8 東京都区部・都心5区のオフィスワーカー数見通し/図表-9 三大都市圏の人口転入超過数

5. 東京都心部Aクラスビル市況見通し

5. 東京都心部Aクラスビル市況見通し

2017年から2023年までの東京都心部Aクラスビルの空室率と賃料(成約賃料)を、今後の経済見通し7や新規供給計画、オフィスワーカー数の見通しなどを基に予測した。

東京都心部Aクラスビルの賃料は、今後、賃料の下落局面に入り、2020年Q3期まで下落した後、上昇が始まると予測された(図表-10)。また、Aクラスビルの空室率は、2017年Q4期までほぼ現在と同程度の水準で推移するが、その後、上昇(市況悪化)がはじまり、2020年Q2期をピークに再び下落(改善)に転じる。

今後の賃料の底は2020年Q3期で2016年Q4期と比べ▲18.1%の下落となるが、その後の上昇で2023年Q4期までに同▲5.2%まで回復すると予測された(標準シナリオ)。楽観シナリオでは、2017年Q2期に同+4.7%の上昇となった後に、2020年Q2期には同▲9.3%まで下落し、2023年Q4期に同+4.2%へ上昇、悲観シナリオでは、2020年Q3期に同▲29.3%減まで下落した後に、2023年Q4期には同▲21.3%に回復するという予測結果だった。

標準シナリオにおける2016年Q4期以降の一年ごとの変化率は、2017年から2023年までに、▲3.7%、▲7.5%、▲6.9%、▲0.3%、+2.3%、+5.5%、+6.1%だった。
図表-10 東京都心部Aクラスビルオフィス賃料(オフィスレント・インデックス)見通し
 
7 経済見通しは、ニッセイ基礎研究所経済研究部「中期経済見通し(2016~2026年度)」2016.10.14、斎藤太郎「2016~2018年度経済見通し~16年7-9月期GDP2次速報後改定」2016.12.8などを基に今後の実質GDP成長率見通しを設定。
 

6. おわりに

6. おわりに

東京ではオフィス空室率の低下が続いてきた。空室の少なさから移転先にも苦労するような中で、2018年からの大量供給を控え、すでに2016年から2018年以降に竣工するビルへの内定が始まっている。市況の緩和期待から、移転を急がずに市況を見守る態勢をとるテナント企業も増えている。一方、築浅Aクラスビルのオーナーはこれまで、空室率の低さや募集賃料の上昇傾向から、賃料に関しては引き上げ姿勢を維持してきたが、ここにきて、今後の大量供給に備え、賃料に関しても柔軟に対応する動きが出てきたといわれている8

テナントの移転理由としても「賃料の安いビルに移りたい」が2010年以降、初めて増加するなどオフィスを取り巻く環境が変化しはじめているようだ9(図表-11)。こうした変化は、不動産投資市場における、景況感の見通しにおける楽観的な見方の減少にも反映されているかもしれない(図表-12)。

本稿の推計では、近年と同様のオフィス需給構造が続けば、2018~2020年のオフィスの大量供給期にも、東京オリンピック開催に向けての公共事業や、インバウンド客などの増加もあり、オフィス市況はさほど大きな調整にはならないという結果となった。2021年以降、市況は着実に回復する見通しだが、東京都区部でも2015年をピークにしだいにオフィスワーカー数の減少が予測されているため、中期的にはオフィス需要も減少に直面する可能性が高い。中長期的なオフィス市場の成長のためには、起業支援や成長企業の育成、海外企業の誘致、さらなる高齢者や女性の活用によるオフィスワーカー数の増加、東京における低出生率の改善、外国人を含め多くの人が集まる魅力的な街づくりなどがこれまで以上に重要になると思われる。
図表-11 新規にオフィスを賃借する理由/図表-12 不動産投資市場の景況感(6ヵ月後の見通し)

8 ここで議論しているのは新規賃料であり、継続賃料は今後も上昇傾向が続くと考えられる。
9 東日本大震災以来、賃料の安さよりも、耐震性などBCPの重視とオフィス集約による業務効率の改善などを目的に、都心の大規模ビルに移転する動きが続いてきた。しかし、すでに多くの大企業は対応を済ませており、BCP等を理由とする移転は一巡しつつある。高い賃料負担力を持つ企業のうち、未移転の企業が少なくなっていることも、今後の大量供給に伴う需給緩和期には賃料引き下げ圧力になる可能性が高い。
Xでシェアする Facebookでシェアする

竹内 一雅

研究・専門分野

(2017年02月08日「不動産投資レポート」)

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【東京都心部Aクラスビルのオフィス市況見通し(2017年)-2017年~2023年のオフィス賃料・空室率】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

東京都心部Aクラスビルのオフィス市況見通し(2017年)-2017年~2023年のオフィス賃料・空室率のレポート Topへ