2017年01月27日

方向感失う中、金利懸念が拡大~不動産価格は「当面横ばい、東京五輪前後に弱含み、以後下落」が4割~第13回不動産市況アンケート結果

増宮 守

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アンケートの概要

ニッセイ基礎研究所では、第13回不動産市況アンケートとして、不動産分野の実務家・専門家1を対象に、2017年1月5日から13日にかけて例年のアンケート調査を実施した。今回、196名を対象に電子メールで実施し、127名から回答を得た(回収率65%)。
 
 
1 不動産・建設、金融・保険、不動産仲介、不動産鑑定、不動産管理、不動産ファンド運用、格付、投資顧問・コンサルタント、不動産調査・研究・出版などに携わる専門家。
 

アンケートの結果

アンケートの結果

(1) 不動産投資市場の景況感
「不動産投資市場全体(物件売買、新規開発、ファンド組成)の現在の景況感」について聞いたところ、「良い」が30.7%、「やや良い」が43.3%、「平常・普通」が17.3%、「やや悪い」が8.7%、「悪い」が0%であった(図表-1)。

「良い」と「やや良い」の合計は、昨年まで3年連続で約9割を占めていたものの、今回74%に減少した。景況感のピークアウトが確認されたといえるが、依然として「やや悪い」は1割にも及んでおらず、非常に良好な景況感が続いている。
図表-1 不動産投資市場全体の現在の景況感
次に、「不動産投資市場全体の6ヵ月後の景況見通し」について聞いたところ、「良くなる」が3.9%、「やや良くなる」が11.0%、「変わらない」が66.1%、「やや悪くなる」が15.7%、「悪くなる」が3.1%であった(図表-2)。

「良くなる」と「やや良くなる」の合計が14.9%に減少し、景況見通しがピークアウトした昨年の流れが続いた。しかし、「やや悪くなる」と「悪くなる」の合計も18.8%に減少し、必ずしも景況見通しは悪化しておらず(図表-3)、「変わらない」が過去最大の66.1%を占めた。背景として、日銀が長期金利操作目標を「ゼロ%前後」とする中、不動産市場は大きく変化しないという見方があるといえるが、米国のトランプ新政権の政策運営が見通しづらい中、市場の方向感を掴みかねている面も大きいとみられる。
図表-2 不動産投資市場全体の6か月後の景況見通し/図表-3 不動産投資市場全体の6か月後の景況見通し(DI)
(2) 投資セクター選好
「今後、価格上昇や市場拡大が期待できる投資セクター(証券化商品含む)(3つまで選択)」を聞いたところ、「ホテル」が60.6%、「ヘルスケア不動産(高齢者向け住宅、健康医療関連施設)」が39.4%、「物流施設」が37.8%、などであった(図表-4)。

3年連続で「ホテル」(60.6%)が最多となったものの、昨年(82.9%)(図表-5)から20%以上減少した。東京五輪に向けたホテル開発は引き続き活発だが、最近、訪日外客数の増加ペースは鈍化し、月次の延べ宿泊者数が前年同月比マイナスで推移している。一旦、ホテル需要が伸び悩む中、一部では、民泊施設に宿泊需要を奪われる懸念も無視できなくなってきている。

訪日外客数の増加ペースの鈍化に加え、訪日客の日本国内での一人当たり消費額が大幅に減少している2。これは百貨店や商業モールでの高額商品売上の縮小を招いており、今回、「都心商業ビル」(20.5%)が大きく減少した要因にもなっている。

「ヘルスケア不動産(高齢者向け住宅、健康医療関連施設)」(39.4%)と「物流施設」(37.8%)が昨年に続いて上位を占めた。ヘルスケア不動産は投資対象としての扱いが難しく、物流施設も大量供給局面を迎え、賃貸需給の悪化が懸念されている。しかし、依然として中長期的に需要拡大が見込めるセクターという評価は変わっていない。

また、「海外不動産」(34.8%)への関心の高まりが顕著であった。アジア市場で成長機会を追求したいとの見方に加え、内需重視のトランプ新政権によって、好調な米国不動産市場がさらに魅力を増すとの見方も増加したとみられる。

その他、「インフラ施設」(31.5%)も上位に並んだ。地方空港の民営化案件が複数進んでおり、これまでの太陽光発電だけでなく、国内でもインフラ投資機会が多様化しつつある。不動産投資利回りが全般に低下するなか、インフラ施設に対する投資家の関心が高まっている。
図表-4 今後、価格上昇や市場拡大が期待できるセクター(複数回答3つまで)/図表-5 (昨年)今後、価格上昇や市場拡大が期待できるセクター(複数回答3つまで)
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増宮 守

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