2017年01月20日

トランプ政権が発足-選挙公約から政策の軌道修正は不可避

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.はじめに

1月20日にトランプ政権が発足する。昨年11月の選挙では、上下両院ともに共和党が過半数を獲得したことから、トランプ政権は09年のオバマ政権発足以来となる、大統領、議会の多数党が一致する安定政権としてスタートする(前傾図表1)。トランプ氏が掲げる減税、インフラ投資拡大、規制緩和などの政策に対する期待は強く、安定政権となったことと相俟って、選挙後に株式市場が大幅に上昇したほか、個人や企業センチメントの改善が顕著となっている。

一方、トランプ氏の過激な発言や粗野な態度はあくまで選挙期間中の演技であり、選挙が終了すれば大統領に相応しい振る舞いをするとの期待は挫かれた。また、同氏は政治経験に乏しいものの、ビジネスマンとしての豊富な経験から、政治家としても十分リーダシップを発揮できるとの予想も、これまでの閣僚人事の遅れや、議会や国民に対するコミュニケーションなどをみると、期待しない方が良さそうだ。米国は、安定政権とは言え、政策の予見可能性が低い不安定な国内政治状況に突入したと考えられる。今後の米国経済、世界経済はトランプ大統領に振り回される展開が続こう。
 

2.トランプ政権が始動

2.トランプ政権が始動

(1)安定政権により高まる政策遂行期待
米国では、法律の成立に際して大統領の署名が必要であるものの、大統領には法案提出権がなく、大統領が目指す政策を実現するためには、大統領と議会の協調が不可欠である。とくに、予算編成は議会主導で行われる。大統領は、年初に予算教書として議会に対して要望を行うものの、議会の審議は予算教書の影響を受けない。このため、大統領と議会の多数政党が異なる分割政府では、予算教書と議会予算の内容に大きな相違がみられる。実際、オバマ氏が安定政権を失った後は、インフラ投資拡大など同氏の政策遂行を議会共和党が退ける展開が続いていた。

さらに、議会で共和党と民主党議員の党派色が強まっていることも、超党派での政策合意を困難にしている。所属議員の過去の投票行動から、保守やリベラルなどの党派性を集計したDW-NOMINATEスコアの推移をみると、90年以降は上下院ともに共和党の保守色が強まる形で両党の党派色が強まっていることが分かる(図表2)。実際、10年3月に成立したアフォーダブル・ケア・アクト(ACA)、所謂オバマケアでは共和党議員が一人も賛成しない結果となった。

このような党派性の高まりも、分割政府では法案が成立し難くなることを示しており、分割政府となったオバマ政権下における法案成立数や成立率は歴代政権と比較しても低位に留まった(図表3)。
(図表2)米議会における党派性/(図表3)米議会における法案成立数と成立率
仮に、クリントン氏が当選した場合には、共和党が下院で多数を獲得することが不可避とみられていたことから、分割政府となった可能性が高い。このため、安定政権が実現したという点でトランプ政権の方が政治的には政策を遂行し易い環境を実現できたと言えよう。もっとも、上院では共和党が過半数を獲得したとは言え、議事進行の妨害を受けない60議席の獲得には失敗したため、上院では民主党の発言力が一定程度残った。

一方、トランプ氏の当選以降、株式市場、個人・企業のセンチメントは大幅に回復した。株価が史上最高値近辺まで上昇する中で、消費者センチメントはカンファレンスボードが07年以来、ミシガン大学指数では04年以来の水準に改善している(図表4)。また、企業景況感もISM景況感指数の製造業、非製造業ともに改善している(図表5)。とくに、これまでドル相場と連動性の高い製造業で、選挙後のドル高進行を無視する形で改善していることが注目される。
(図表4)消費者センチメントおよび米株価指数/(図表5)ISM指数および実質実効レート
個人や企業センチメントの改善は、トランプ氏が掲げる減税などの経済政策に対する期待の強さを示している。また、安定政権となったことも政策実現の可能性が高まったとして評価されているとみられる。もっとも、トランプ氏はこれまで政治経験がなく、政治手腕は未知数なため、ここまでの株式市場や個人・企業のセンチメント改善はトランプ政権に対する期待先行であることには注意が必要だ。
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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

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