2017年01月17日

【アジア・新興国】なぜ韓国では民間医療保険の加入率が高いのか?-韓国における実損填補型保険の現状や韓国政府の対策-

生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 金 明中

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1――はじめに

韓国では公的医療保険の保障率1が低いことを理由に、多くの人々が民間医療保険に加入している。民間医療保険の中でも特に加入率が高いのは「実損填補型の医療保険(以下、実損填補型保険)」である。実損填補型保険とは、公的医療保険の自己負担分や公的医療保険が適用されない診療費や差額ベッド代等、実際にかかった費用を支払うタイプの保険であり、韓国では2003年に導入されてから急成長している。しかしながら実損填補型保険の仕組みを悪用した一部医療機関の過剰診療や加入者の医療ショッピング2等のモラルハザードも続出しており、実損填補型保険と関連して支払われた保険金も急増している。保険会社は対策として、今後10年以内に実損填補型保険の保険料を2倍以上引き上げることを計画している。一部の被保険者や医療機関のモラルハザードにより、善良な人々が被害を受ける事態が増加しており、この問題に対する早急な対策が要求されている。
 
1 病気を治療するのにかかる費用(診療費、治療費、薬代等)のうち、公的医療保険により支払われる金額の割合。
2 民間医療保険に加入した患者が保険会社から保険金が払われることを頼りに、よりよい医療を求めていろいろな医療機関を訪ねて診療を受ける行為。
 

2――民間医療保険への加入状況

2――民間医療保険への加入状況

韓国の健康保険政策研究院が2016年に実施した調査結果3によると、2015年における世帯の民間医療保険の加入率は88.1%で、2014年の85.9%に比べて2.2ポイントも上昇していることが明らかになった。回答者の年齢階層別加入率は、40代が91.9%で最も高く、次は30代(91.4%)、50代(90.9%)、20代(83.1%)、60代(77.8%)の順であった。最終学歴別に見た加入率は、短大卒以上が91.8%で中卒以下の80.1%より高く、回答者の最終学歴が高いほど民間医療保険への加入率が高いという結果が出た。また、世帯の所得水準(世帯の1ヶ月平均所得)別加入率を見ると、「500万ウォン以上」が92.5%で最も高いことに比べて、「100万ウォン以下」は61.3%で、世帯の所得水準によって加入率に大きな差が表れた(図表1)。
図表1回答者の特性別民間医療保険への加入状況
同調査における2015年の世帯の1ヶ月平均民間医療保険の保険料は308,265ウォンで、2014年の259,400ウォンに比べて18.8%も増加しており、同期間における世帯の1ヶ月平均所得増加率0.8%を大きく上回った。また、世帯の1ヶ月平均民間医療保険の保険料308,265ウォンは、公的医療保険の職場や地域における世帯の1ヶ月平均保険料100,510ウォンや80,876ウォンを大きく上回る水準である。

民間医療保険の加入率増加には実損填補型保険の影響が大きかったと言えるだろう。実損填補型保険の保有契約件数は、2012年3月の2,662万件から2015年12月には3,265万件に増加しており、代表的な保険商品として成長した。しかしながら、実損填補型保険に加入した人に対する過剰診療や医療ショピングの増加等により保険金の支払いが急増し、実損填補型保険の持続可能性が大きく懸念されている。2009~2013年の間の医療費の年平均増加率を見ると、実損填補型保険の保険金として支払われた部分を含む公的医療保険の適用外の医療費の増加率は10.2%で、全体医療費増加率7.7%や公的医療保険が適用される医療費の増加率6.7%を大きく上回っている。

韓国で民間医療保険に加入する最も大きな理由としては「不意の疾病や事故による家計の経済的負担を軽減するため」(46.31%)が挙げられている。しかしながら「公的医療保険の保障が不十分であるので」を理由に民間医療保険に加入している者も35.48%で高い割合を占めている(図表2)。韓国における公的医療保険の保障率は入院が55%、外来が62%で、OECD平均(入院89%、外来78%)を大きく下回っており、それが実損填補型保険等の民間保険が急成長した背景だと言えるだろう。
図表2民間医療保険への加入理由
 
3 健康保険政策研究院(2016)「2015年度健康保険制度国民認識調査」
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生活研究部   上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任

金 明中 (きむ みょんじゅん)

研究・専門分野
高齢者雇用、不安定労働、働き方改革、貧困・格差、日韓社会政策比較、日韓経済比較、人的資源管理、基礎統計

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
    独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年9月ニッセイ基礎研究所へ、2023年7月から現職

    ・2011年~ 日本女子大学非常勤講師
    ・2015年~ 日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員
    ・2021年~ 横浜市立大学非常勤講師
    ・2021年~ 専修大学非常勤講師
    ・2021年~ 日本大学非常勤講師
    ・2022年~ 亜細亜大学都市創造学部特任准教授
    ・2022年~ 慶應義塾大学非常勤講師
    ・2024年~ 関東学院大学非常勤講師

    ・2019年  労働政策研究会議準備委員会準備委員
           東アジア経済経営学会理事
    ・2021年  第36回韓日経済経営国際学術大会準備委員会準備委員

    【加入団体等】
    ・日本経済学会
    ・日本労務学会
    ・社会政策学会
    ・日本労使関係研究協会
    ・東アジア経済経営学会
    ・現代韓国朝鮮学会
    ・韓国人事管理学会
    ・博士(慶應義塾大学、商学)

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