2017年01月10日

EUソルベンシーIIにおけるLTG措置等の適用状況とその影響(1)-EIOPAの報告書の概要報告-

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5|技術的準備金への影響
「2016 EIOPA保険ストレステスト報告書(2016 EIOPA Insurance Stress Test Report)」によれば、ストレステストのサンプルベースで、措置の非適用による技術的準備金への影響については、以下の通りとなっている。

この図表では、MAとVAがLTG措置に、TRFRとTTPが移行措置(Transitionals)に区分されている。なお、個々の会社への特定を回避するために、LTG措置と移行措置に区分されていない国もあるため、そのような国はグレーのバーで示されている。

EEA全体で、2.8%の増加となるが、国別の内訳では、ギリシャが7.9%で最も高い影響を受けており、次がスペインで6.6%、英国が5.7%と続いている。ドイツの影響も4.2%と高くなっている。

一方で、フランスは1.3%、イタリアは0.6%と影響が低くなっている。

なお、移行措置のみによる影響では、ギリシャ、ポルトガル、ノルウェー、ドイツの影響が大きなものとなっている。
 
図表 MA、VA、TRFR、TTP を適用しない場合の技術的準備金への影響
6|適格自己資本やSCRへの影響
MA、VA、TRFR、TTPのうちの少なくとも1つの措置を使用している会社ベースで、措置の非適用による適格自己資本やSCR への影響については、EEA全体で、適格自己資本は24%減少し、SCRは22%増加する(因みに、ストレステストのサンプルベースでは、適格自己資本は19%減少し、SCRは17%増加する)。

適格自己資本の絶対水準は技術的準備金の1割程度であるため、措置の非適用による技術的準備金への影響によって、適格自己資本はより大きな影響を受けることとなる。
 

7―まとめ

7―まとめ

以上、EIOPAの報告書に基づいて、ソルベンシーIIにおけるLTG措置や株式リスク措置についての保険会社の適用状況やその財政状態に及ぼす影響について、全体的な状況の概要を報告してきた。

これにより、移行措置を含むLTG措置が、欧州保険会社によって幅広く適用され、SCR要件の遵守において重要な役割を果たしていることが明らかになっている。今回の報告書の中では、まとめてLTG措置として分類されているが、MAやVAのようないわゆる「狭義のLTG措置」と、TRFRやTTPのような「移行措置」とは、その意味合いが異なっており、これらを分けて、その影響を考えていく必要がある。その意味では、6-5における技術的準備金への影響に関する図表がその内訳を示している。移行措置の適用による影響が大きい国の保険会社は、移行期間中に計画的に適切な対応を行っていくことが求められることになる。

EIOPAのGabriel Bernardino会長は、今回の報告書の公表を受けて、「EIOPAは、LTG措置及び株式リスク措置の適用と欧州保険会社の財政状態に及ぼす影響を、初めて提示する。この現状把握調査の結果は、EIOPA による2016年の保険ストレステストで示されたように、金融安定性を含んで、意図した通りに措置が機能していることを示す一方で、保険会社の財政状態に及ぼすこれらの措置の重要な影響を確認している。」と述べている。

次回のレポートでは、報告書の2番目のセクションに記載されている措置毎の国別の適用状況やその財政状態への影響等の分析結果について報告する。 
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中村 亮一

研究・専門分野

(2017年01月10日「保険・年金フォーカス」)

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