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マレーシア・ジョホールバルの住宅市場~供給過剰のイスカンダル計画にさらなる巨大プロジェクトが追加~
増宮 守
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3.不動産投資ブームと需給懸念
しかし、価格高騰が一巡した後は供給過剰が顕在化し、最近では、販売在庫の積み上がりから、一部で大幅な割引販売も実施されている。実際、マレーシア政府の統計によると、ジョホールバルの住宅販売額は2015年に前年比で32%縮小していた。
そもそもイスカンダル計画では、シンガポールおよび世界での注目度の高さから、当初から海外投資家の取得を見込んだ大規模な住宅プロジェクトが無数に進められてきた。現在、建設中および建設予定の住宅は、ジョホールバルで35万戸1にも及ぶとみられている。これは、全シンガポールの既存の民間住宅戸数を上回る規模である。
住宅開発の中心であるイスカンダル・プテリなどでは、投資家である外国人富裕層の嗜好に合わせた高級物件の開発がほとんどを占める。高層コンドミニアムや戸建て、セミデタッチハウスなどの高級物件では、分譲価格がマレーシア人中間層の取得可能な価格帯から乖離している。
また、そのような高級物件は、賃貸市場に出す際もマレーシア人入居者の確保が難しい。賃貸仲介業者のサイトをみると、イスカンダル・プテリではシングル用物件で月額1,500RM2~、2人以上用の物件で月額2,500RM~などの物件が並んでいる。一方、ジョホールバルでの平均的な収入(図表-3)をみると、一部の上級職者でなければこれらの高級物件の賃借は難しいことがわかる。さらに、持ち家比率が高く、上級職者の多くは既に自宅を保有していることから、賃貸住宅を利用するマレーシア人が高級物件を選ぶケースはほとんど期待できない。そのため、これらの高級物件が入居者を確保するには、高所得の在留外国人という非常に限られた層を狙う必要がある。
また、ジョホールバルでは、引退者に加え、現役のシンガポール人が移住してシンガポールに通勤するケースの増加も期待されている。しかし、シンガポール国内で安価な公団(HDB)に居住しているシンガポール人にとって、ジョホールバルに移住するメリットは必ずしも高くない。むしろ、多くのシンガポール人は投資家としてジョホールバルの住宅を保有しており、入居者を探す立場にある。
日本人以外でも、ジョホールバルでの駐在員等の在留数はシンガポールでの在留数に対して圧倒的に少ない。そのため、高所得の在留外国人が増加するには、グローバル企業の進出が飛躍的に増える必要がある。実際、イスカンダル計画が進むにつれ、米系のチョコレートメーカーの工場や、英系の映画会社の撮影所、複数のインターナショナルスクールなどが進出してきた。このような動きは今後も期待できるものの、住宅市場については、概して賃貸住宅需要の成長に大きく先行した過剰な開発と先行分譲が進められてきたことが明白である。
1 マレーシアNational Property Information Centreによる。
2 2,000RM(マレーシアリンギット)=5万円強(2016/12/26時点、1RM=約26.2JPY)。
3 The Labour Force Survey Report, Malaysia, 2012によると外国人労働者の比率は13.5%で約170万人。ただし、それ以上の人数の非合法の外国人労働者がいるともいわれている。
4 最長10年の長期滞在ビザ(更新も可能)。主な条件は50万(50歳以上は35万)RM以上の財産証明と月額1万RM以上の収入証明、かつ30万(50歳以上は15万)RMをマレーシアの金融機関に定期預金する。50歳以上は定期預金に替えて毎月1万RM以上の年金受領証明でも可。今後、ビザ取得条件は厳格化する方向とみられる。
5 ジョホール州の在留邦人数は2014年10月時点で1,148人。2015年にジョホールバル出張駐在官事務所が閉鎖となり、以後の数値は非公表。
4.さらなる巨大プロジェクトの始動
フォレストシティは、先行する他のプロジェクトよりもシンガポールに近い地理的優位性や、新たな環境都市のコンセプトによって一層のブランド価値を形成しようとしている。セカンドリンクからの直結道路およびフォレストシティ内のCIQ6の建設を予定しており、特にシンガポールへのアクセスに優れたエリアになると見込まれる。また、行政面でも、免税商業区域や進出企業への優遇税制などを設定し、内外を問わず店舗および企業の誘致に積極的である。さらに、フォレストシティ内の不動産は、土地権利形態が所有権となっているが、マレーシアの不動産は99年やそれ未満の期限付き借地権が一般的なため、特別な不動産投資エリアになるといえる。
6 Customs税関、Immigration入国管理局、Quarantine検疫所・動物検疫所・植物防疫所の略称。
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