2016年12月27日

小型コミュニケーションロボットの活用に向けて-目指す活用シーンはビジネスからパーソナル、ホームと多彩-

青山 正治

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2登場する小型コミュニケーションロボットの特徴と魅力

以上で触れた小型コミュニケーションロボット以外にも、高さ30㎝程度のロボットが多数登場している。全ての小型コミュニケーションロボットに共通する訳ではないが、現時点における主な特徴を整理してみよう。以下に箇条書きすると、

1)デザイン的には人型が多く、動物をイメージするデザインもある

2)小型の人型のものは顔(頭)や腕(肩)などの可動部を有し、対話に合わせて一定の“しぐさ”や“ポーズ”を取ることができ、言葉だけのコミュニケーションに変化を加えている

3)スマホやタブレット端末経由でクラウドを活用し対話機能を担い、ロボット本体の小型化と低コスト化を実現している(前節で触れた機種すべてがAIの対話システムを使っている訳ではない)

などの点が挙げられよう。

普通のスマホでなく、可動部を持つ小型ロボットを使う意味合いは、人との対話のみによるコミュニケーションだけでは得られない親近感や面白みといった内容を付加価値として提供するためであろう。デザイン的に小型で人型ロボットが多く採用されるのは、対話者(ユーザー)との距離を近くして寄り添うことによる親近感の醸成を意識しているためではないだろうか。さらに、小型ながら可動部分を持ち、二足歩行でユーザーに近寄って来たり、対話に合わせて顔(頭)を向け、腕(肩)などを動かし反応する。小型であることの可愛らしさに、動きという演出が加えられている。恐らくは対話能力に長けたロボットが登場しても、全く可動部を持たず動作反応のないロボットであれば、やがてユーザーは“飽き”を感じてしまうかも知れない。人と人のコミュニケーションにおけるボディランゲージ(しぐさやポーズ)の要素を加えることは、小型コミュニケーションロボットにおいても重要な要素であろう。

ただ、現在、それら小型コミュニケーションロボットは登場を開始したばかりであり、当分の間は技術的な発展段階という過渡期にある。この点では、ユーザー側の過大な期待は普及の阻害要因ともなりかねない。このため、人の持つ感情移入能力や融通性に期待しつつ、ユーザーとの対話によって成長する機器であることを事前に十分、ユーザーに理解してもらうことも重要であろう。また、対話における面白さ、笑いといった要素も重要であり、実用性と同時に小型ロボット側の個性といった“味付け”も、ユーザーに飽きられない工夫の一つではないだろうか。
 

3――小型コミュニケーションロボットへの期待

3――小型コミュニケーションロボットへの期待

1新しい分野への展開

実用性やアミューズメント(娯楽、楽しみ)性を備えた小型コミュニケーションロボットの企業による事業展開はまだ開始されたばかりである。各社の開発コンセプトと目指す目的によって、ロボットのデザインや活用分野は、ビジネスからパーソナル、ホーム向けと様々である。そして、これらロボットの開発側が各ロボットに託す機能や役割を、通常、人に付与される名称で表現すれば、アシスタント(補佐役)、コンシェルジュ(相談・支援者)、エージェント(行為の代行者)からパートナー(つれあい、相棒)といったところであろう。このような機能を小型コミュニケーションロボットに発揮させるためには、ユーザーとの話し言葉による対話の成立が大前提である。さらにユーザーが対象のロボットに利便性を感じると同時に、前述のとおり親しみや愛着を持つようなデザイン、対話内容や動きなどの反応が備わっていることが理想であろう。ユーザーの発話に対応した反応や様々な情報検索などの利便性に加え、導入・活用コストを超える面白さ、楽しさ、親近感などが可能な限り導入早期に実感されることがユーザーによる継続的な活用につながろう。
 
2社会で広く活用されるために

まだ技術面や幾つかの課題はあるにしても、音声認識技術やAIとクラウドを活用した対話システムなどの技術開発も着々と進展している。今後、中長期的にこれらの様々な技術革新の成果を吸収しながら、ビジネスやパーソナル、ホームなどの様々な活用シーンで、ユーザーにとって安心・安全で利便性の高い新たなサービスや価値の創出と提供に期待したい。現時点で、対話システムが組込まれたサービスロボットの活用を考えると、ビジネス用は本稿で取り上げた活用方法のほかにも様々な取組みの拡大が期待されよう。またパーソナル用としては、話題性もあり、小型ロボットの対話能力(技術)や提供されるサービスによってさらに注目される可能性があろう。一般のホーム用としては、ドライブのお供としてのタイプや、子どもの居るファミリー層に受け入れられるタイプ、さらに複合機能の一つとしてスマートハウスとの連携により言葉で家電製品などの状態の確認や遠隔操作が可能となろう。勿論、小型ばかりでなく、現在、実証試験中の比較的大きなコミュニケーションロボットが、売り場案内や販売促進、受付けや観光案内などで本格的な活用が開始される動きにある。

なお、これらの小型コミュニケーションロボットもインターネットや様々なICTの活用が前提であり、様々なレベルでのセキュリティ対策や個人情報保護、データ活用のルール策定などの安全性確保は重要である。以上のような安全で利便性の高いサービスの開発や技術革新の進展をも注視しつつ、小型コミュニケーションロボットやサービスロボット等の今後の活用拡大に注目したい。

また、今後の対話・会話技術のさらなる技術革新の進展によって、ロボットだけでなく様々なタイプの機器群のユーザビリティ(使い易さ、使い勝手)を飛躍的に高める対話型のインターフェースが登場してくることをも大いに期待したい。

<参考資料・レポート等>

1. 政府及び行政、企業などの公表資料
・各社カタログ、ニュースリリース、パンフレット、ホームページの情報
・内閣府「人工知能と人間社会に関する懇談会」公表資料(第1回:2016年5月30日~第5回:2016年10月18日)
 ・国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)「ロボット白書2014」(2014年7月18日)  ほか
 
2.ニッセイ基礎研究所「基礎研レポート(Web版)」
・「ロボット介護機器(介護ロボット)の利用意向 -東京都の調査に見る現役世代の高い利用意向-」(2016年11月22日)
・「新たな価値を提供する先進的な福祉用具-ユーザー目線の開発がもたらす利用者のQOL向上-」(2016年5月26日)
・「福祉用具・介護ロボット実用化支援事業の現状と今後-介護現場との協働と共創が必須の介護ロボット開発-」(2016年2月3日)
・「超高齢社会を支援する福祉機器-国際福祉機器展の概況と今後の福祉機器開発・活用への期待-」(2015年11月30日)
・「3年度目となる「ロボット介護機器」開発補助事業の動向 -2015年度より国立研究開発法人日本医療研究開発機構が実施-」(2015年9月29日)
・「利用意向高い介護ロボット-「平成27年版情報通信白書」の介護用ロボット利用の意識調査-」(2015年8月28日)
・「社会で広く理解を深めることが重要な介護ロボット -紹介されたロボット介護機器の3機種-」(2015年6月30日)
・「介護ロボット開発・普及の現在位置と今後への視点-“ロボット介護”の開発と新たな開発・普及サイクルの構築-」 (2015年4月30日)
・「『ロボット新戦略』における介護分野のアクションプランの要点-介護保険と地域医療介護総合確保基金による新たな普及方策-」
 (2015年3月30日)
・「本格化するサービス分野でのロボット開発 -介護ロボット開発動向からサービスロボットへの示唆-」(2014年12月26日)
・「介護ロボット開発の進展と今後の開発への示唆 –複数の展示会で注目を集める様々なロボット-」(2014年11月28日)
・「『再興戦略改訂』に組み込まれた『ロボット革命』の実現 -『社会的な課題解決』へ向けた『5カ年計画』策定に注目-」(2014年9月30日)
・「ロボット介護機器に対する2年度目の開発支援事業が始動 –経済産業省2014年度事業概要と今後の開発への期待-」(2014年7月29日)
・「『ロボット介護推進プロジェクト』が目指す開発・普及の土壌の醸成 –開発支援の現在位置と『ロボット介護』普及への布石-」(2014年6月30日)
・「重要性増す在宅での自立を支援する機器開発-拡充されたロボット介護機器(介護ロボット)の『重点分野』」(2014 年4月22 日)
 
(2013年度以前の基礎研レポートは「執筆一覧」より)

3.ニッセイ基礎研究所 「研究員の眼(Web版)」
・「ロボットを上手に活かす超高齢社会の構築に向けて」(2015年5月27日)
・「超高齢社会の生活者を支援する介護ロボット」(2013年11月27日)
・「本格化する『ロボット介護機器』の開発支援」(2013年4月5日)
・「介護ロボットだけではない『介護ロボット』」(2013年3月21日)
・「幅広い分野で技術革新が進展する福祉機器」(2012年10月4日)
・「介護ロボットは普及するか」(2012年6月28日)
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青山 正治

研究・専門分野

(2016年12月27日「基礎研レポート」)

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