2016年12月16日

【アジア・新興国】東南アジア・インドの経済見通し~短期的に景気下振れも、17年も消費主導の緩やかな成長が続く

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

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(図表9)ベトナム実質GDP成長率(供給側) 2-5.ベトナム
ベトナムは安価な労働コストや地理的に中国と近い立地の優位性、政府が外資誘致策や自由貿易協定および経済連携協定に積極的であることから外資系製造業から戦略的な生産基地として注目され、投資主導の成長が続いている。しかし、16年1-9月期の成長率は前年同期比5.9%増と、昨年1-9月期の同6.5%増を下回っている。今年の景気減速は第一次産業の落ち込みによる影響が大きい。農業は北部における寒波や洪水、中・南部における干ばつや塩害によって生産が落ち込み、また漁業は4月に環境被害による魚の大量死の影響で鈍化し、第一次産業が低迷している。また第二次産業は建設業と外資系が主導する製造業が二桁成長を維持しているものの、鉱業が原油価格下落を背景とした減産で3期連続のマイナス成長となり、第二次産業全体では前年同期の伸び率を下回る水準に止まっている。一方、第三次産業は農業所得の悪化が消費の重石となっているものの、低インフレ環境と継続的な賃金上昇によって家計の実質所得が増加し、卸売・小売業や情報・通信業を中心に前年を上回る伸びを記録している。

1-12月期の成長率は、当初の政府目標(6.7%)を下回るものの、10月に下方修正後の目標(6.3~6.5%)付近まで上昇すると予想する。足元の輸出は外資系資本を中心に好調であり、公共投資は成長目標達成に向けて増勢基調、対内直接投資の実行額も堅調に伸びており、第二次産業は一段と上昇するだろう。また第一次産業も天候不順の悪影響が和らいで農業生産の回復が見込まれる。なお、第三次産業は農業所得の改善と5月の公務員の最低賃金の5%引上げが追い風となる一方、政府統制価格の引上げと資源安要因の剥落によるインフレ率の上昇によって実質所得が目減りすることから、横ばい圏の伸びとなろう。

17年の成長率は、政府目標の6.7%を下回るものの、農業と鉱業の回復によって前年を小幅に上回ると予想する。第一次産業は、前年の農業生産の落ち込みからの反動増と農産物輸出の増加傾向によって前年を上回る緩やかな成長を予想する。第二次産業については、16年1-11月に認可された外国直接投資(FDI)が前年同期比10.5%減(1-8月は同7.7%増)と今後の落ち込みが懸念される一方、海外経済の緩やかな回復によって製造業の輸出は高い伸びを続けるだろう。また鉱業部門が原油価格の上昇によって持ち直すこと、建設業も中央銀行による緩和的な金融政策によって堅調な伸びが続くことから、第二次産業全体では前年並みの成長を維持するだろう。また雇用・所得環境は農業所得の増加や7%増以上の最低賃金の引上げによって改善するものの、物価上昇が消費者マインドの重石となり、第三次産業は卸・小売業を中心に前年並みの堅調な伸びとなるだろう。

金融政策は、中央銀行が政策金利を低水準に据え置くとともに、成長目標達成のために銀行への貸出金利の引き下げを指示している。ただ、これによって不動産投資のペースが加速しており、銀行の抱える不良債権が今後拡大する可能性には注意を払う必要があるだろう。

実質GDP成長率は16年が6.2%、17年が6.4%、18年が6.6%と、15年の6.7%を下回るものの、上昇基調が続くと予想する(図表9)。
(図表10)インドの実質GDP成長率(需要側) 2-6.インド
インドは7%台の力強い成長が続いている。16年7-9月期の実質GDP成長率は前年同期比7.3%増(前期:同7.1%増)と小幅に上昇した。7-9月期は、7 月から支給が始まった第7 次公務員昇給(平均+23.55%増)と比較的順調だったモンスーンの降雨を背景とする消費者マインドの改善のほか、消費者物価上昇率の低下や中央銀行が15年1月から段階的に進めた計1.75%の利下げなども消費の拡大に繋がった。一方、投資は規制緩和や建設プロジェクトの再開などがあったにもかかわらず、マイナス成長が続いている。輸出の停滞によって企業の投資意欲が依然として弱いこと、また不良債権問題を抱える銀行が貸出に消極的になっていることが民間投資の低迷に繋がっている。

16年度後半は、これまで景気の牽引役であった民間消費が失速して成長率は一時的に6%台まで下振れると思われる。これは11月に政府が突如実施した高額紙幣の廃止に伴い現金流通額の86%が一時的に減少し、新札への切り替えが遅れて特に中小企業や農業などで主流の現金取引に大きな支障が出ているためだ。国民の混乱は年内に落ち着きを取り戻すだろうが、現金不足の状況は1-3月期も続くこと、また打撃を受けた地下経済の縮小によって高額消費が落ち込むことから、民間消費は当面弱含むと見られる。もっとも10年に一度の公務員昇給と3年ぶりの農業生産の回復による所得の増加の影響は10-12月期から本格化することから、本来的な消費需要はむしろ拡大しているとみられ、消費の落ち込みは一時的なものとなりそうだ。一方、政府部門は16-17年度予算(歳出は前年度比10.3%増)の執行が進めるなか、政府消費と公共投資が景気をサポートするだろう。また輸出は緩やかな増加傾向が続くことから、民間投資は更なる悪化を回避すると予想する。

17年度は、消費が再び持ち直して7%台半ばまで景気が回復すると予想する。消費については物価が上昇基調で推移するものの、高額紙幣廃止の悪影響が剥落することや16年度の所得増の消費押上げ効果が顕在化することから堅調に推移するだろう。また、政府部門は17-18年度政府予算が高成長に伴う税収の増加によって拡充されるものと見込まれ、政府消費と公共投資は引き続き景気の支えとなるだろう。また輸出は緩やかな増加傾向が続くなか、民間投資は回復に向かうと予想する。銀行は不良債権問題の解消には時間が掛かるものの、高額紙幣廃止に伴う預金額の増加を受けて貸出姿勢が前向きになる可能性があること、そして来年の物品・サービス税(GST)の導入によって複雑な間接税体系が一本化されてビジネス環境が改善することも民間投資の追い風となるだろう。

金融政策は、足元で高額紙幣の廃止による影響で一段とインフレ圧力が後退しており、17年2月の金融政策会合で追加利下げに踏み切るだろう。その後は所得の増加や通貨安に伴う輸入インフレによってインフレ圧力が再び強まることから、中央銀行は物価抑制を優先して慎重な金融政策を続けるものと予想する。

実質GDP成長率は16年度が7.0%と、15年の7.6%から低下した後、17年度が7.5%、18年度が7.3%と力強い成長が続くと予想する(図表10)。
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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴
  • 【職歴】
     2008年 日本生命保険相互会社入社
     2012年 ニッセイ基礎研究所へ
     2014年 アジア新興国の経済調査を担当
     2018年8月より現職

(2016年12月16日「Weekly エコノミスト・レター」)

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