2016年12月16日

【アジア・新興国】東南アジア・インドの経済見通し~短期的に景気下振れも、17年も消費主導の緩やかな成長が続く

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

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(図表7)インドネシアの実質GDP成長率(需要側) 2-3.インドネシア
インドネシア経済は、国際商品市況の下落や中国経済の減速を背景に2015年まで4年連続で減速したが、15年半ばに底打ちして以降、景気は緩やかな回復傾向にある。この景気回復の原動力は予算執行の迅速化による政府支出の拡大であり、昨年9月から政府が矢継ぎ早に打ち出してきた計14本の経済政策パッケージ(許認可手続きの簡素化・迅速化など規制緩和が中心)の実施も追い風となったと見られる。そして15年11月には燃料補助金削減に伴って物価上昇圧力が後退し、消費者物価上昇率は中央銀行の物価目標(3~5%)の下限まで急速に低下したことから、中央銀行は年明けから段階的な政策金利の引き下げ(計1.5%)を実施した。こうしたなかで消費者の購買力が向上し、民間消費は持ち直してきている。もっとも足元では税収不足を背景に政府支出が落ち込み、景気の回復ペースは鈍っている。7-9月期の成長率は前年同期比5.0%増(4-6月期:同5.2%増)と低下した。

10-12月期は、消費が牽引役となるも政府支出が落ち込み、成長率が5%前後で伸び悩むだろう。政府が7月から実施しているタックス・アムネスティ(租税特赦)制度は概ね好調に推移し、一段と財政が悪化するリスクは回避したものの、税収不足による政府支出の低迷は続くと見られる。10月の資本支出は前年比1.1%減とマイナスに転じており、これまで景気を支えてきた建設投資もやや鈍化しそうだ。一方、民間消費は中間所得層の増加や17年2月のジャカルタ州知事選挙の関連需要、足元のインフレ圧力の後退などから堅調に推移するだろう。また足もとの輸出はプラスに転じる一方、輸入は鈍化している。内需主導の成長であることには変わりないが、外需も成長率に対してプラスに寄与するだろう。

17年は、資源価格の上昇を受けて5%を若干上回る緩やかな成長を予想する。まずGDPの約6割を占める民間消費は、最低賃金の引上げ(政府指針は前年比8.25%増)を背景に中間層が拡大する一方、インフレ率は政府予想(約3%)を上回って推移するものと予想され、伸び率は16年並みの水準が続くだろう。また8四半期連続のマイナス成長が続く輸出は、世界経済の緩やかな回復と通貨安を追い風に減少傾向に歯止めが掛かるだろう。また投資は資源価格の上昇によって資源関連企業の業績が回復に向かうことから設備投資の減少傾向にも歯止めが掛かると見込まれる。もっとも中国における過剰生産能力の削減や住宅市場の引き締め策などを背景に資源需要の急拡大は見込みにくく、主力の資源関連の輸出と投資の増加は小幅に止まるだろう。一方、政府部門は17年度予算の歳出が前年比0.6%減と横ばいと、今後も政府消費の拡大は見込めないが、予算配分を見ると景気への配慮は伺える。地方への移転支出や村落地基金、インフラ整備予算の予算は拡充されており、地方の消費と建設投資をサポートするだろう。また政府は財政余力の乏しさを背景に追加的な経済政策パッケージを打ち出し、民間部門を刺激する姿勢は続けると思われる。

金融政策は、インフレ率が中銀目標の下限付近で推移しており、利下げ余地はあると言える。しかし、先行きは為替相場が不安定化しやすいこと、資源価格上昇を背景とした景気回復が見込まれることから中央銀行は当面、現状の金融政策を維持するだろう。

実質GDP成長率は16年が5.0%と、17年が5.2%増、18年が5.4%と小幅に上昇すると予想する(図表7)。
(図表8)フィリピンの実質GDP成長率(需要側) 2-4.フィリピン
フィリピンの16年前半の高成長は5月の大統領選挙関連の特需によるものであり、7-9月期にはその効果が剥落して景気は減速すると思われたが、7-9月期の成長率は前年同期比7.1%増(前期:同7.0%増)と小幅に上昇し、直近3年間で最も高い伸びを記録した。実際、選挙特需の剥落や政権移行に伴う予算執行の遅れによって政府消費は失速、公共建設投資は高水準ながらも拡大ペースが鈍化した。しかし、民間消費は低インフレや雇用・所得の改善による家計の購買力の向上、緩和的な金融政策を追い風に好調が続いている。また財輸出は同7.8%増の堅調な伸びが続き、サービス輸出もBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシグ)が好調で同14.2%増の高い伸びを記録している。こうした消費と輸出の拡大を受けて民間投資も二桁増の高い伸びを続けている。なお、力強い内需の拡大によって輸入が輸出の伸びを上回っているために、純輸出の寄与度は3.5%ポイントのマイナスとなっている。

10-12月期は、引き続き選挙特需の剥落の影響が続いて景気は減速するだろう。10-12月期も選挙関連特需の剥落の影響は続くほか、大型台風による農作物被害などによってインフレ率が上昇傾向にある。10-12月期も政府消費は停滞、民間消費の伸びも若干低下すると予想する。一方、民間部門を中心に投資需要は旺盛で、輸出の拡大傾向も続くことから6%台半ばの高めの成長となるだろう。

17年の成長率は、年前半まで選挙特需の剥落の影響によって実力よりも低い水準に止まるものの、年後半には上向くと予想する。民間消費は緩やかな物価上昇が続くものの、賃金上昇と雇用拡大、ペソ安の進行による海外就労者の送金額の増加を受けて堅調な伸びを維持するだろう。17年度政府予算は財政赤字拡大と税制改革に伴う税収増を見込み、歳出額が前年度比11.6%増の大型予算が編成されており、政府消費は再び加速し、公共投資の拡大も続くと見られる。こうした内需拡大を受けて民間投資も堅調な伸びを維持するだろう。ドゥテルテ政権の先の読みにくい政権運営に対して投資が思うように伸びない懸念は燻るものの、新政権が既に公表した経済政策の方針にある外資規制の緩和や官民パートナーシップ(PPP)によるインフラ整備の進展などによってビジネス環境が改善すれば投資の追い風となるだろう。外需については、財・サービス輸出がペソ安と海外経済の緩やかな拡大を受けて堅調な伸びが続く一方、輸入の伸びはやや鈍化することから、純輸出の成長率に対するマイナス寄与は縮小すると見込む。

金融政策は、インフレ率の上昇が中銀の物価目標(1~4%)の範囲内に止まり、現行の緩和的な政策が維持されると予想する。景気の過熱感が強まってインフレ圧力が高まれば18年から段階的な利上げが実施される展開もあるだろう。

実質GDP成長率は16年が6.9%、17年が6.7%、18年が6.8%と周辺国に比して高い成長が続くと予想する(図表8)。
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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

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