2016年12月14日

日銀短観(12月調査)~製造業を中心に景況感は改善したが、先行きに対しては慎重姿勢が目立つ

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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1.全体評価:全体的に予想の範囲内だが、設備投資計画は弱い

日銀短観12月調査では、注目度の高い大企業製造業の業況判断D.I.が10と前回9月調査比で4ポイント上昇し、6四半期ぶりとなる景況感の改善が示された。一方、大企業非製造業の業況判断D.I.は18と前回から横ばいに留まった。
 
前回9月調査では、長引く影響で大企業製造業の業況判断D.I.が横ばいに、インバウンド消費の減速や天候不順から非製造業では小幅の悪化となっていた。

前回調査以降の10月の経済指標は総じて持ち直し傾向にある。個人消費は生鮮食品の価格高騰もあって力強さには欠けるものの、良好な雇用環境や天候不順の解消などから底堅く推移している。さらに11月以降は株高や気温の低下が消費の追い風になっていると見られる。生産についても、需要の持ち直しや在庫調整の進展を受けて回復が見られる。また何より、米大統領選でのトランプ氏勝利を受けて為替が急速に円安に向かったため、輸出採算が大きく改善している。

今回、大企業製造業では生産の回復や円安進行、国際商品市況の上昇を受けて景況感が改善した。非製造業は円安や国際商品市況上昇がコスト増加要因としてマインドの抑制に働きやすいうえ、インバウンド消費鈍化の影響などを受けて、景況感が伸び悩んだ。
 
中小企業の業況判断D.I.は、製造業が前回比4ポイント上昇の1、非製造業が1ポイント上昇の2となった。大企業同様、中小企業でも製造業の改善が顕著になる一方で、非製造業はほぼ横ばいに留まった。
 
先行きの景況感については、企業規模や製造・非製造業を問わず悪化が示された。海外経済の先行き不透明感増大が意識されたようだ。米国でトランプ氏が新大統領に選出され、政策が不透明感になっているほか、欧州では英国のEU離脱や主要国での大統領・議会選などが控え、反EU勢力の躍進が警戒されている。情勢は極めて流動的であり、足元の円安地合いもこれらの展開次第で反転しかねないだけに、企業は慎重姿勢を崩していない。
 
なお、事前の市場予想との対比では、注目度の高い大企業製造業については、足元(QUICK集計10、当社予想は11)は予想通り、先行き(QUICK集計9、当社予想は8)は市場予想をやや下回った。大企業非製造業は、足元(QUICK集計19、当社予想は20)、先行き(QUICK集計18、当社予想は19)ともに、予想をやや下回った。
 
16年度の設備投資計画(全規模全産業)は、前年度比1.8%増と前回調査時点の1.7%増からわずかに上方修正された。例年、9月調査から12 月調査にかけては、中小企業で計画が固まってくることに伴って上方修正されるクセが強く、今回も中小企業を中心に上方修正された。ただし、年初から半ばにかけての円高によって企業収益が圧迫されたほか、海外経済が不透明感を増していることから、一部で様子見や先送り姿勢が広がりつつあると考えられ、例年と比べて上方修正の度合いがかなり抑制的になっている。中小企業では、秋からの最低賃金引き上げによる収益圧迫が抑制要因になっている可能性もある。
 
今回の短観の結果は、「足元に明るさは見られるが、先行きには警戒感が台頭する」という内容であったが、この結果が日銀の金融政策に与える影響は限定的になりそうだ。「景気認識引き上げの材料になるかどうか」という程度だろう。もともと、2%の物価目標のハードルは極めて高く、達成が見通せない一方、追加緩和の選択肢も実質的に限られているため、政策変更の余地は少ない。

11月1日の総裁会見でも、黒田総裁が、「(イールドカーブ・コントロールによって)適切なイールドカーブが実現しており、これが日本経済にプラスに働き、物価目標に向けて効果を発揮していく」と現状の政策維持を肯定的に評価する発言をしており、日銀が積極的に動く気配は見えない。従来と比べて、日本の景気と金融政策の関係性は希薄化している。
 

2.業況判断D.I.:事業環境改善を受けて、製造業では幅広く改善

2.業況判断D.I.:事業環境改善を受けて、製造業では幅広く改善

全規模全産業の業況判断D.I.は7(前回比2ポイント上昇)、先行きは2(現状比5ポイント低下)となった。規模別、製造・非製造業別の状況は以下のとおり。

(大企業)
大企業製造業の業況判断D.I.は10と前回調査から4ポイント改善した。業種別では、全16業種中、改善が9業種と悪化の4業種を大きく上回った(横ばいが2業種)。

国際商品市況改善が収益改善に働く石油・石炭製品(17ポイント改善)、非鉄金属(12ポイント改善)のほか、円安が輸出採算改善に繋がる電気機械(9ポイント改善)、はん用機械(8ポイント改善)、自動車(2ポイント改善)などが牽引役となった。一方で、国際的な船余りに苦しむ造船・重機等(7ポイント悪化)や石炭・鉄鉱石価格上昇の圧迫を受ける鉄鋼(7ポイント悪化)が全体の伸びを抑制した。

先行きについては、悪化が7業種と改善の6業種をやや上回り、全体の景況感も現状比2ポイント悪化した。原料輸入が多く、円安が逆風になりやすい木材・木製品(12ポイント悪化)、紙・パルプ(7ポイント悪化)のほか、足元で牽引役となった石油・石炭製品、非鉄金属の悪化が顕著になっている。
 
大企業非製造業のD.I.は18で前回と変わらず。業種別では、全12業種中、悪化が6業種と改善の5業種をやや上回った。電気・ガス(5ポイント改善)、対事業所サービス(4ポイント改善)などで持ち直しがみられる一方、インバウンド消費鈍化の影響を受ける小売(4ポイント悪化)と宿泊・飲食サービス(4ポイント悪化)、対個人サービス(3ポイント悪化)などで悪化が目立った。

先行きについては、悪化が9業種と改善の2業種を大きく上回り、全体では2ポイントの悪化となった。小売や宿泊・飲食サービスでは持ち直しが見込まれているものの、これまで底堅く推移してきた建設(11ポイント悪化)、不動産(6ポイント悪化)、対事業所サービス(6ポイント悪化)などで大幅な悪化が見込まれている。
(図表1) 業況判断DI/(図表2) 業況判断DI(大企業)
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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

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