2016年12月12日

歯科医療の変化-かかりつけ歯科医は何をすべきか?

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也

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4――コ・デンタルの状況

歯科医療は、歯科医師だけで行う訳ではない。歯科衛生士や歯科技工士という、コ・デンタルの補助が必要となる。ここでは、その役割や状況について、概観していこう。

1|ニーズの高まりとともに歯科衛生士の数は年々増加している
歯科衛生士は、患者指導から歯石除去等のケアまで、幅広いニーズに応えている。近年、活躍の機会が増しており、その数は増加している。歯科衛生士の約9割は、歯科診療所で勤務している。日々、患者と接して、口腔ケアに従事する職種として、歯科診療所では欠かせない存在となっている。

歯科衛生士の役割で、特に重要なのが、歯石除去7である。歯石は、歯周病の原因となる細菌の異常繁殖が原因であり、歯石の除去により、歯周病の拡大を防ぎ、歯槽骨の破壊のスピードを抑えることができるとの見方がある8。これにより、高齢者が歯を残すことにつながる可能性もある。
図表16. 歯科衛生士数(就業者)の推移 (年齢構成)
 
7 歯の表面の歯石除去(スケーリング)と、歯周ポケット内の歯石除去(ルートプレーニング)がある。いずれも、歯科医師や歯科衛生士による口腔メンテナンスが必要とされる。なお、以前は、歯石除去には保険が適用されなかったが、2002年に保険規則が改正されて、保険適用となった。ただし、保険治療の虫歯検査・歯周病検査を同時に受ける必要があり、歯石除去単独で保険を適用することはできない。また、保険規則には、「段階的に行わなければならない」というルールがあるため、保険で歯石除去を行う場合は、1回で歯周ポケットの中の歯石まで除去することはできない。
8 「ニッポンの歯の常識は?(ハテナ)だらけ」(河田克之・赤松正雄, ワニブックス)の、「第二部 質疑応答編」をもとに記載。


2|歯科技工士は若年層の拡充が急務
歯科技工士は、デジタル技術との競合から、存続が危ぶまれている。近年、その数は減少傾向にある。特に、20歳代や30歳代の若年層の歯科技工士の数が減っており、高齢化が進んでいる。

歯科技工士は、病院や歯科診療所での勤務者が約3割であり、約7割は歯科技工所で就業している。歯科技工所で就業する歯科技工士は、歯科医師からの注文に応じて補綴物等の製作を行っており、原則として、歯科患者に接することはない。近年、歯科技工所の数は、徐々に増加している。2014年末現在で、20,166の歯科技工所がある。そのうち、歯科技工士が1名の技工所は15,409ヵ所(76%)、2名の技工所は2,475ヵ所(12%)を占めている9。歯科技工所の多くは、零細な経営となっている。

歯科技工では、CAD/CAM10・3Dプリンターのデジタル技術の活用を通じて、技術の高度化を図ることが求められている。しかし、CAD/CAM装置は導入にあたり高額な投資が必要となるなど、零細な歯科技工所では対応が困難な場合がある。機材の導入ができずに、受注が減少し、技工所の経営が厳しくなるという、悪循環に陥るケースが見られる。

このように、歯科技工士の高齢化と、歯科技工所の零細性が、経営上の課題と考えられる。
図表17. 歯科技工士数(就業者, 年齢構成)・歯科技工所数の推移
今後、歯科技工士は、歯科医師との連携を強化して、品質の高い技工物を、確実に製作していくことが基本となろう。歯科技工に係る機械設備がどれだけ充実・高度化しても、歯科技工士なくしては、機能、審美面で、質の高い補綴物等を提供することは難しいとの見方は多い。

技術面では、補綴、義歯、矯正といった諸分野に分かれて、専門特化を図るよりも、オールマイティーの歯科技工を目指すことが必要と考えられる。また、併せて、歯科患者の側からは見えにくい歯科技工士という職種について、社会的プレゼンスを高める取組みも、求められよう。11
 
 
11 歯科技工士の資格についても、均一化等の品質向上が図られている。従来、国家試験の問題は、都道府県ごとに異なっていたが、2016年より、全国で同一の問題となるよう統一化された。
3|コ・デンタルの処遇改善が必要か
歯科衛生士、歯科技工士は、看護師や医科のコ・メディカルと比べて、給与が少ない傾向にある。

比較に際して、平均年齢や勤続年数の違いに留意が必要ではあるが、歯科衛生士は、看護師よりも給与が少なく、准看護師と同程度となっている。

また、男女計で見たときに、歯科技工士は、看護師や薬剤師よりも平均年齢が高く、勤続年数が長いにもかかわらず、給与が少ない状況となっている。歯科技工士の若年層の拡充のためには、処遇改善を含めた社会的認知度の向上が求められるものと考えられる。
図表18. 職種別の給与額
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保険研究部   主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員

篠原 拓也 (しのはら たくや)

研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1992年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所へ

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員

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