2016年12月09日

米国経済の見通し-来年以降は、米国内政治動向が鍵。トランプ氏の政策公約が全て実現する可能性は低い。

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

文字サイズ

2.実体経済の動向

(個人消費)労働市場の回復を背景に底堅い伸びが持続

労働市場は回復基調が持続している。非農業部門雇用者数(対前月増減)は、11月が17.8万人増と、16年年初からの月間平均増加数(18.0万人増)と同程度の伸びを維持しており、堅調な雇用増加が続いている(図表6)。また、失業率も4.6%とFOMC参加者の16年見通し(4.8%)を下回るなど改善基調が持続している。

一方、労働参加率が15年夏場以降に改善をみせる中で、賃金上昇率の加速が顕著になってきている(図表7)。これは、労働需給がタイト化していることを示しており、労働市場の回復が長期化する中で、漸く雇用増加が賃金上昇に結びつき易い環境が整ってきたと判断できる。

トランプ氏が掲げる法人税率引下げや規制緩和による事業コスト削減、インフラ投資拡大により、国内需要の増加が実現できれば、労働参加率や賃金上昇率の改善が加速しよう。
(図表6)米国の雇用動向(非農業部門雇用増と失業率)/(図表7)時間当たり賃金上昇率および労働参加率
個人消費は堅調である。7-9月期の伸びは前期から鈍化したものの、低調であった1-3月期の反動で前期の伸びが高かったことを考慮すると、鈍化自体は問題ではない。実際、所得対比で所得程度の伸びを維持しており、消費は概ね実力を発揮していると言える(図表8)。

また、足元の堅調な株価を反映してカンファレンスボードの11月消費者信頼感指数が、07年以来の高水準となるなど、消費マインドは非常に良好である(図表9)。このため、労働市場の回復持続を背景に所得の底堅い伸びが期待される中、消費は引き続き堅調推移しよう。
(図表8)個人消費支出(主要項目別)および可処分所得/(図表9)消費者センチメントおよび米株価指数
(設備投資)ドル高が懸念も、資源関連の設備投資は回復見込み

民間設備投資は、設備機器投資こそ前期比年率▲2.7%と4期連続でマイナスとなっているものの、知的財産のプラス成長が持続しているほか、建設投資が+5.4%と14年4-6月期以来の高い伸びとなった。建設投資は、資源関連除きで+10%超の高い伸びとなったほか、15年以降に減少幅が大きかった資源関連の建設投資もマイナス幅の縮小がみられている(図表10)。

実際、原油価格が2月の30ドル割れを底に持ち直してくる中で、原油の稼働リグ数は5月以降の回復基調が鮮明となっており、足元では16年1月以来の水準まで回復している(図表11)。当研究所では、原油価格が18年末に60ドルまで上昇すると予想しており、原油価格上昇が資源関連の投資に追い風となるほか、トランプ氏の環境・エネルギー関連の規制緩和も資源関連の設備投資には追い風となることが予想される。このため、資源関連の設備投資は今後回復が見込まれる。
(図表10)民間設備投資(寄与度)/(図表11)原油価格および稼働リグ数
一方、資源関連以外でも、民間設備投資の先行指数である国防・航空を除くコア資本財受注(3ヵ月移動平均、3ヵ月前比)は、名目設備投資(前期比年率)が+5%近かった15年7-9月期以来の高さとなっており、10-12月期の名目設備投資が7-9月期(+0.4%)から加速することが期待できる(図表12)。

一方、選挙以降、主要通貨に対してドル高が顕著になっていることは気がかりだ。大企業の景況感を示すISM指数のうち、製造業指数は直近11月も回復しており、足元でドル高の影響はみられていない(図表13)。しかしながら、11月末に発表された地区連銀景況報告では、既に一部地域でドル高が製造業需要に対して悪影響を及ぼすとの懸念が示されており、輸出関連の製造業を中心に為替相場の動向が注目される。
(図表12)米国製造業の耐久財受注・出荷と設備投資/(図表13)ISM指数および実質実効レート
(住宅投資)10-12月期はプラス転換も、金利上昇の影響を注視

住宅投資は、2期連続のマイナス成長となったものの、住宅着工の先行指標である住宅着工許可件数(3ヵ月移動平均、3ヵ月前比)は、10月が2割超の上昇となっており、10-12月期の住宅投資は3期ぶりにプラスに転じる可能性が高い(図表14)。

もっとも、選挙以降みられている長期金利上昇が、住宅市場の回復に水を差す可能性が出てきた。抵当銀行協会(MBA)が発表する住宅ローン申請件数は、住宅ローン金利の上昇に伴い顕著な減少がみられる(図表15)。住宅ローン金利(固定30年)は、足元では4%台前半と15年夏場の水準に留まっており、雇用不安の後退に伴う住宅購買意欲の高まりを考慮すると、この程度の住宅ローン金利の上昇が住宅市場の回復を頓挫させるとは考え難い。しかしながら、今後も住宅ローン金利が急ピッチで上昇を続けるようであれば住宅市場への影響は避けられないため、動向が注目される。
(図表14)住宅着工件数と実質住宅投資の伸び率/(図表15)住宅ローン金利と申請件数の動向
Xでシェアする Facebookでシェアする

経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【米国経済の見通し-来年以降は、米国内政治動向が鍵。トランプ氏の政策公約が全て実現する可能性は低い。】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

米国経済の見通し-来年以降は、米国内政治動向が鍵。トランプ氏の政策公約が全て実現する可能性は低い。のレポート Topへ