2016年11月25日

中国経済見通し~デレバレッジ 、住宅バブル崩壊 、トランプ・リスク と不安材料は盛り沢山だが、6.5%前後の経済成長を維持すると予想

三尾 幸吉郎

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1.経済成長とインフレ

(図表-1)中国の実質成長率(前年同期比) 中国経済の成長率は横ばいで推移している。10月19日に中国国家統計局が公表した7-9月期の実質GDP成長率は前年同期比6.7%増となり、1-3月期から3四半期連続の同6.7%増となった(図表-1)。内訳を見ると、第1次産業は前年同期比4.0%増、第2次産業は同6.1%増、第3次産業は同7.6%増だった。第3次産業が引き続き高い伸びを示し経済を牽引したとともに、ここもと経済成長の足かせとなってきた工業部門が、1-3月期の伸び(同5.7%増)をボトムに、4-6月期は同6.0%増、7-9月期は同6.1%増と、低水準ながらも回復基調を示している。
(図表-2)中国の実質成長率(前期比、季節調整後) また、同時に公表された前期比の伸びを見ると、7-9月期は前期比1.8%増と年率換算すれば7.4%前後の高い伸びを示した。4-6月期の同1.9%増(改定後)からは0.1ポイント低下したものの、1-3月期の同1.2%増(年率換算4.9%前後)をボトムに、年率換算7%台の高い伸びを続けており、2016年の成長率目標である“6.5-7%”の達成がほぼ確実となった(図表-2)。
(図表-3)インフレ率の推移 一方、インフレ率は春節(旧正月)の時期に食品が急騰したことや原油の底打ちを受けてやや上昇した。1-10月期の消費者物価は前年同期比2.0%上昇と昨年の同1.4%上昇を上回った。また、工業生産者出荷価格も同2.5%低下と昨年の同5.2%低下から下落ピッチが鈍化した。特に10月単月では前年同月比1.2%上昇と4年半に渡った下落に歯止めが掛かった(図表-3)。これを受けて名目成長率が実質成長率を下回る“名実逆転”は解消、1-9月期の名目成長率は前年同期比7.4%増と、実質成長率(同6.7%増)を0.7ポイント上回った。過剰生産能力を背景としたデフレ懸念は依然として根強いものの、供給面では鉄鋼の大型合併など構造改革に対する期待が高まっており、需要面でもインフラ整備の加速に伴い需要が増えたことから需給バランスは改善、デフレ圧力はやや緩和してきた。
 

2.需要面の動き

2.需要面の動き

1|消費
消費は比較的高い伸びを維持している。消費の代表指標である小売売上高の動きを見ると、2016年1-10月期は前年同期比10.3%増と、昨年通期の同10.7%増を0.4ポイント下回った。また、インフレ率が上昇したことを受けて、価格要因を除いた実質では1-10月期に前年同期比9.7%増(推定1)と昨年通期の同10.6%増を0.9ポイント下回っており、名目で見た以上に伸びが鈍化している(図表-4)。内訳を見ると、自動車は小型車減税(排気量1.6L以下)の影響で前年同期比9.1%増と伸びを回復したものの、その他については概ね伸びが鈍化しており、特に衣類や家電の鈍化が目立っている(図表-5)。
(図表-4)小売売上高の推移/(図表-5)業中別に見た小売売上高(限額以上企業)の動き
今後の消費動向を考えると、中間所得層の増加傾向が引き続き追い風となることに加えて、雇用指標にも大きな悪化が見られないことから2、比較的高い伸びを維持すると見ている(図表-6)。

しかし、2017年以降はこれまでの伸びを下回りそうである。ひとつのマイナス材料が所得の伸び鈍化である。昨年までの3年間は、価格要因を除いた実質ベースでの所得の伸びが経済成長率(実質)を上回る伸びを示したため、消費が中国経済を牽引することとなった。しかし、2016年に入り1-9月期の全国住民一人あたり可処分所得(実質)は、統計が公表され始めた2013年以降では初めて経済成長率(実質)を下回り、その追い風は弱まってきた(図表-7)。付加価値の伸びを超える賃金上昇を続ければインフレを招きかねないことから、今後は経済成長率を超えるような高い伸びは期待できない。もうひとつのマイナス材料がインフレ率の上昇である。前述のとおり2016年1-9月期の小売売上高は、実質ベースでは名目で見た以上に伸びが鈍化している。2017年以降も、原油価格などの緩やかな上昇を背景に、インフレ率は上昇傾向を辿ると見ていることから、実質ベースで見た所得の伸びは名目ベースで見た以上に鈍化する傾向が続くことになりそうだ。
(図表-6)失業率と求人倍率/(図表-7)経済成長と一人あたり可処分所得の伸び
 
1 中国では、統計方法の改定時に新基準で計測した過去の数値を公表しない場合が多く、また1月からの年度累計で公表される統計も多い。本稿では、四半期毎の伸びを見るためなどの目的で、ニッセイ基礎研究所で中国国家統計局などが公表したデータを元に推定した数値を掲載している。またその場合には“(推定)”と付して公表された数値と区別している。
2 中国政府は過剰生産能力削減を下期に加速する方針を示したことから失業増が懸念される。一方、その方針を示すまでの経緯を見ると、4月に再就職プランを配布するなど人員再配置・再就職に万全を期して準備を進めてきた。従って、今回の過剰生産能力削減加速を直接の原因として雇用不安に陥る可能性は低いと見ている。但し、民間投資の急減速などその他の要因で雇用不安に陥る恐れは残る。
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三尾 幸吉郎

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