2016年11月24日

国防費の3倍?-急増する中国の社会保障関係費

保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任 片山 ゆき

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4――2020年までに介護保険制度を全国導入へ

1|介護保険制度のパイロット地区を15都市選定
 
中国の国家統計局によると、2015年末時点で、65歳以上の人口は1億4,000万人、高齢化率は10.5%であった。日本の高齢化率がこれとほぼ同じ10.3%であったのは1985年で、日本と中国はおよそ30年の時間差がある。日本の1985年の一般会計歳出の総額に占める社会保障関係費の割合は18.1%と、こちらも2015年の中国とほぼ同様だ。加えて、中国の高齢化の進展は日本とほぼ同じスピードで進むと予測されており、高齢化社会(高齢化率7%)から高齢社会(高齢化率14%)へは25年(2025年)、超高齢社会(高齢化率21%)へは11年(2036年)で到達するとされている6
 
このような状況を受けて、中国では介護保険制度導入に向けて実験的な取組みが開始されている。3月に発表された第13次5ヵ年計画(2016~2020年)では、介護について「長期介護保険制度を更に検討する」とし、6月には、全国の15都市を介護保険制度導入のパイロット地区として選出した7。今後、1~2年をかけて各地域の状況に応じた制度の導入を進め、2020年までに全ての地域がそれぞれの状況に応じた制度の導入を目指す予定である。
 
では、現時点で、制度内容を公表している3つのパイロット地区(山東省青島市、吉林省長春市、江蘇省南通市)を中心に、中国の介護保険制度の大まかな特徴と財源を確認してみる(図表6)。

まず、加入者については、いずれも公的医療保険への加入、保険料の納付を条件としている。中国では、都市の就労者を対象とした医療保険は強制加入であるが、都市の非就労者、農村住民は任意加入となっている。医療保険への加入を前提条件とした理由はその財源であろう。介護保険制度は保険料などを積み立てる基金(財源)を設けているが、その財源の多くが医療保険の基金から拠出されることになっている。例えば、南通市の制度では保険料負担が少額ながらあるが、青島市、長春市については、保険料負担がなく、財源のほぼ全てを医療保険の基金から拠出する体制となっている。
 
また、サービスの利用者の認定は、長期にわたって寝たきりなどの自立した生活が困難な者、終末期の患者など、症状が重い者に重点が置かれ、要介護度に応じてそれぞれに必要なサービスを提供するといった佇まいはとっていない。加えて、サービスの利用(給付内容)についても、症状が重い者を主な対象としていることから、施設サービスの医療機関の受診や、介護ベッドへの給付補助が中心となっている。介護保険では、医療保険における病院ランク毎に設定される負担額が免除され、自己負担割合が低く抑えられている点は利点といえよう。在宅サービスについては身体介助などのいわゆる介護サービスの利用も可能であるが、この場合、主には終末期看護を想定していると考えられる。よって、自立した生活が比較的可能な高齢者を対象としたデイサービスについては、原則として給付対象外である。
 
このように、介護保険制度はその他の社会保険と同様に、各地域で分散して運営され、その地域の経済状況や実情に基づいた制度設計がされている。また、サービスの担い手は、地域の末端組織(社区・コミュニティー)を中心に構築されている。介護は医療の延長線上に位置づけられており、財源、サービス内容からもその連携は強い。加えて、サービス利用の認定は、介護の必要度に応じてではなく、寝たきりや症状が重度な者に絞っている。

中国の介護保険制度は、地域が中心となり、その実情に応じて制度を設計し、高齢者に可能な限り自立した生活を求める方向にある8。ただし、現状においては、肝心の在宅介護、デイサービスへの給付は手薄いままとなっている。今後、高齢者の増加による給付内容の拡充の必要性、制度の持続性を考えると、財政への圧力が高まる可能性が高い。
図表6 介護保険制度のパイロット地区での制度内容
 
6 United Nations(2010)
7 パイロット地区として対象となっている15都市は、山東省青島市、吉林省長春市、江蘇省南通市、蘇州市、河北省承徳市、黒龍江省チチハル市、上海市、浙江省寧波市、安徽省安慶市、江西省上饒市、湖北省荊門市、広東省広州市、重慶市、四川省成都市、新疆ウイグル自治区石河子市である。吉林省、山東省は別途、国家試行拠点の重点省に指定されている。
8 国の目標は、高齢者の90%を在宅介護、7%を通所介護(デイサービス)、3%を施設介護で支えるとしている。
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保険研究部   主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任

片山 ゆき (かたやま ゆき)

研究・専門分野
中国の社会保障制度・民間保険

経歴
  • 【職歴】
     2005年 ニッセイ基礎研究所(2022年7月より現職)
     (2023年 東京外国語大学大学院総合国際学研究科博士後期課程修了) 【社外委員等】
     ・日本経済団体連合会21世紀政策研究所研究委員
     (2019年度・2020年度・2023年度)
     ・生命保険経営学会 編集委員・海外ニュース委員
     ・千葉大学客員准教授(2023年度~) 【加入団体等】
     日本保険学会、社会政策学会、他
     博士(学術)

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