2016年11月16日

大学卒女性の働き方別生涯所得の推計-標準労働者は育休・時短でも2億円超、出産退職は△2億円。

生活研究部 上席研究員 久我 尚子

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■要旨
 
  • 本稿では、近年の女性の就労状況の変化をおさえた上で、大学卒女性の生涯所得について、最新の賃金等の統計データを利用するとともに、女性の働き方が多様化する現状に対応するよう複数ケースを設定して推計を実施した。
     
  • まず、近年の女性の就労状況を見ると、結婚・出産後も働き続ける女性が増えており、現在、結婚後は8割、出産後は過半数が就業継続し、育児休業利用率も上昇している。ただし、就業形態で出産後の就業継続状況には大きな差があり、育休利用の多い正規雇用者は約7割が就業継続するが、非正規雇用者は約25%でしかない。
     
  • 大学卒女性の生涯所得について、正規雇用者・非正規雇用者別に、二度の出産を経て育休を利用したケースや短時間勤務を利用したケース、出産退職しパートとして再就職したケースなど11のケースを設定して推計した。
     
  • その結果、正規雇用者の生涯所得は、大学卒業後に同一企業で働き続けた場合は2億6千万円、二度の育休・フルタイムで復職すると2億3千万円、二度の育休・短時間勤務を利用すると2億1~2千万円、出産退職しパートで再就職すると6千万円。一方、非正規雇用者は、出産等なしでも1億2千万円弱で正規雇用者の半分以下である。
     
  • 出産離職による生涯所得のマイナスは労働者だけでなく、企業にとっても多大なコストである。超高齢社会では介護離職も懸念され、仕事と家庭の両立環境の整備は、企業におけるリスク管理としても取り組むべき課題だ。
     
  • 生涯所得は正規・非正規で大きな差があるが、若年層の非正規化は(これまでにも指摘の通り)景気低迷による就職難の影響が大きく、世代間の不公平感は是正されるべきだ。また、今回、正規雇用者に標準労働者(学校卒業後に同一企業に継続勤務)を仮定したが、現状、女性が就業継続可能な労働環境は一部に限定されている。
     
  • 政府の「働き方改革」には、非正規雇用者の待遇改善を望むとともに、結婚・出産・育児・介護などライフステージが変化しても、働き続けたい者が働き続けられるような柔軟性のある労働環境の整備を求めたい。

■目次

1――はじめに
2――近年の女性の就労状況
  1|女性の労働力率の変化~既婚女性の労働力率上昇と未婚女性の増加で
   M字カーブは解消傾向
  2|女性雇用者の雇用形態別割合~女性全体の6割が非正規、高年齢層ほど多い。
  3|結婚・出産後の妻の就業継続状況~寿退社2割、出産後も過半数が就業継続、
   育休利用は4割。ただし、出産後の就業継続状況は就業形態で大きな差。
  4|女性の賃金等の変化~1995年以降、女性全体では微増、大学・大学院卒では横ばい・微増
3――大学卒女性の生涯所得の推計
  1|設定した女性の働き方ケース
  2|生涯所得の推計条件
  3|生涯所得の推計結果~大卒同一企業勤務女性の生涯所得は2億6千万円、
   育休2回・時短でも生涯所得は2億円超、出産退職は2億円のマイナス。
   一方、非正社員では半分以下に。
4――おわりに
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生活研究部   上席研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
     2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
     2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
     2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
     2021年7月より現職

    ・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
    ・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
    ・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
    ・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
    ・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
    ・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
    ・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
    ・総務省「統計委員会」委員(2023年~)

    【加入団体等】
     日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
     生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society

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