2016年10月25日

ヘッジ付き米国債利回りが一時マイナスに-為替変動リスクのヘッジコスト上昇とその理由

金融研究部 金融調査室長・年金総合リサーチセンター兼任 福本 勇樹

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1――ヘッジ付き米国10年国債利回りが一時マイナスに

米ドル建て投資に関する為替変動リスクのヘッジのためのコスト(ヘッジコスト)が上昇している。図表1は為替予約を用いて米国債の元本の為替変動リスクを3ヶ月間ヘッジしたときの運用利回り(年率換算:月次)の推移である。米国10年国債の為替変動リスクをヘッジしたときの運用利回りが、2016年9月末にマイナスになった。
図表1:ヘッジ付き米国債利回りの推移(年率換算:月次)
ヘッジ付き米国債利回りを米国債利回りとヘッジコストに分解して示したものが図表2である(ヘッジコストの要因分解については後述)。ヘッジ付き米国債利回りの低下の主な要因はヘッジコストの上昇にある。2016年9月末時点のヘッジコストは約1.7%(年率)である。つまり、米ドル建て金融商品に投資する際に、為替変動リスクをヘッジしながら利回りを享受したい場合、1.7%以上の利回りがなければ、プラスの収益が得られないことになる。2016年9月末は、ヘッジコストが米国10年国債利回り(約1.6%)よりも高く、ヘッジ付きで米国10年国債で運用してもプラスの利回りが得られなくなったのである(2016年10月中旬時点で、米国10年国債利回りが約1.75%、ヘッジコストが約1.5%で、ヘッジ付き米国10年国債利回りはプラスに転じている)。
図表2:ヘッジコスト(年率換算)と米国債利回りの推移(月次)
日銀によるマイナス金利政策により、日本10年国債の利回りがマイナスになるなど、円建ての金融商品の利回り低下が進んでしまっている。国内投資家は海外に活路を見出そうと、対外証券投資にシフトしてきたものの、このようなヘッジコストの環境もあり、為替変動リスクをヘッジしながら米国10年国債に投資をしても利回りがなかなか得られなくなっている。国内投資家にとっては、円建てであっても外貨建てであっても何かしらの追加的なリスク(為替変動リスクやクレジットリスクなど)をとらないとプラスの利回りは得られないということであり、なかなか厳しい状況下にある。
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金融研究部   金融調査室長・年金総合リサーチセンター兼任

福本 勇樹 (ふくもと ゆうき)

研究・専門分野
金融・決済・価格評価

経歴
  • 【職歴】
     2005年4月 住友信託銀行株式会社(現 三井住友信託銀行株式会社)入社
     2014年9月 株式会社ニッセイ基礎研究所 入社
     2021年7月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会検定会員
     ・経済産業省「キャッシュレスの普及加速に向けた基盤強化事業」における検討会委員(2022年)
     ・経済産業省 割賦販売小委員会委員(産業構造審議会臨時委員)(2023年)

    【著書】
     成城大学経済研究所 研究報告No.88
     『日本のキャッシュレス化の進展状況と金融リテラシーの影響』
      著者:ニッセイ基礎研究所 福本勇樹
      出版社:成城大学経済研究所
      発行年月:2020年02月

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