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- 米金融政策見通し-信任維持?のため、年内12月利上げへ。来年は2回の追加利上げを予想
2016年10月21日
1.はじめに
FRBは、金融危機後に実施した異例の金融緩和政策からの正常化プロセスを続けており、14年10月に量的緩和政策を終了し、15年12月に06年6月以来となる政策金利の引き上げを行った。しかしながら、その後は株式市場や原油相場の下落、雇用悪化懸念、英国のEU離脱決定など米国経済に対する不安要因が続いたことから、FRBは、今年9月のFOMC会合まで政策金利の据え置きを続けている。
主要国の中央銀行が金融緩和姿勢を続けている中で、FRBの金融緩和解除が際立っていることから、米金融政策に伴う為替相場や、新興国の資金フローなど世界経済へ与える影響も大きく、世界が注目している。
本稿では、今般の金融政策の正常化プロセスを振り返り、今後の金融政策の見通しについて説明している。結論から言うと、物価上昇圧力が限定的な中で、政策金利の引き上げを急ぐ理由は希薄とみられるが、FRBの年内利上げに対する意欲は強いことから、12月には追加利上げが実施されるだろう。もっとも、自然利子率が低位に留まる中で17年以降も政策金利の引き上げは年2回手程度と緩やかに留まるため、米経済への影響は限定的となろう。
主要国の中央銀行が金融緩和姿勢を続けている中で、FRBの金融緩和解除が際立っていることから、米金融政策に伴う為替相場や、新興国の資金フローなど世界経済へ与える影響も大きく、世界が注目している。
本稿では、今般の金融政策の正常化プロセスを振り返り、今後の金融政策の見通しについて説明している。結論から言うと、物価上昇圧力が限定的な中で、政策金利の引き上げを急ぐ理由は希薄とみられるが、FRBの年内利上げに対する意欲は強いことから、12月には追加利上げが実施されるだろう。もっとも、自然利子率が低位に留まる中で17年以降も政策金利の引き上げは年2回手程度と緩やかに留まるため、米経済への影響は限定的となろう。
2.金融政策正常化の状況
(1)金融危機を受けた異例の金融政策:量的緩和政策に伴いFRBのバランスシートは大幅拡大
米国のサブプライムローン問題の深刻化等をきっかけに、住宅金融会社をはじめ欧米金融機関の信用問題が浮上し、インターバンク金利とT-bill金利の乖離が07年8月以降急拡大するなど、インターバンク市場の流動性が低下した(図表1)。さらに、08年9月にリーマン・ショックが発生すると、インターバンク市場や金融市場の流動性が一段と枯渇し、機能不全が明確となった。
このような状況を受けて、FRBは金融政策対応として、政策金利であるフェデラル・ファンド(FF)金利を07年9月に5.25%から0.5%引き下げたのを手始めに、08年12月の0~0.25%まで断続的に低下させた(図表2)。さらに、市場の流動性対策として金融機関や金融市場に直接流動性を供給するための流動性ファシリティ1を導入した。
米国のサブプライムローン問題の深刻化等をきっかけに、住宅金融会社をはじめ欧米金融機関の信用問題が浮上し、インターバンク金利とT-bill金利の乖離が07年8月以降急拡大するなど、インターバンク市場の流動性が低下した(図表1)。さらに、08年9月にリーマン・ショックが発生すると、インターバンク市場や金融市場の流動性が一段と枯渇し、機能不全が明確となった。
このような状況を受けて、FRBは金融政策対応として、政策金利であるフェデラル・ファンド(FF)金利を07年9月に5.25%から0.5%引き下げたのを手始めに、08年12月の0~0.25%まで断続的に低下させた(図表2)。さらに、市場の流動性対策として金融機関や金融市場に直接流動性を供給するための流動性ファシリティ1を導入した。
流動性ファシリティは、08年10月に1.3兆ドルの規模まで拡大した後、金融市場の安定化に伴い09年~10年にかけて概ね収束した(図表3)。その後、FRBは金融政策の目的を金融市場の安定から景気対策に重心を移した。
伝統的な金融緩和政策2は、政策金利の引き下げを通じて実行されるが、FRBは08年12月時点で政策金利を既に最低水準(非負制約)3であるゼロ近辺まで低下させていたことから、政策金利変更を通じた金融緩和が不可能であった。
このため、FRBは大量の債券を市場から買い入れることで長期金利を低下させる「量的緩和政策」と、FF金利を長期に亘って低位に維持することを示して、金融政策が市場金利に及ぼす影響を強める「フォワード・ガイダンス」を活用する非伝統的金融政策に踏み出した。
伝統的な金融緩和政策2は、政策金利の引き下げを通じて実行されるが、FRBは08年12月時点で政策金利を既に最低水準(非負制約)3であるゼロ近辺まで低下させていたことから、政策金利変更を通じた金融緩和が不可能であった。
このため、FRBは大量の債券を市場から買い入れることで長期金利を低下させる「量的緩和政策」と、FF金利を長期に亘って低位に維持することを示して、金融政策が市場金利に及ぼす影響を強める「フォワード・ガイダンス」を活用する非伝統的金融政策に踏み出した。
一方、最後のQE3では、事前に買入合計額は提示されず、毎月の買入額のみが提示された(図表5)。QE3は12年12月以降、米国債450億ドル、MBS債400億ドルの合計850億ドルペースで買入を行っていたが、14年10月の量的緩和政策終了に向けて段階的に買入額の縮小を行った。
もっとも、QE3終了後も買入残高を維持する政策が採られているため、保有債券の償還分は再投資されている。
これらの量的緩和政策の結果、FRBのバランスシートは金融危機前の1兆ドルを下回る水準から4.5兆ドルに増加した(前掲図表3)。米国債が、金融危機前の8,000億ドル弱から2兆5,000ドル弱に増加したほか、政府機関・MBS債も残高なしから1兆8,000億ドル程度まで増加した。経済規模(GDP)との比較では、FRBのバランスシートは、金融危機前の1桁台半ばから25%程度に拡大した。
1 流動性ファシリティとしては、金融機関向けがターム物入札ファシリティ(TAF)、ターム物証券貸出ファシリティ(TSLF)、プライマリーディーラーファシリティ(PDCF)。金融市場向けには、CPファンディング・ファシリティ(CPFF)、ターム物ABS融資ファシリティ(TALF)等が実施された。
2 伝統的な金融政策手段としては、公開市場操作に加え、公定歩合変更、準備率変更がある。
3 厳密には欧州中央銀行や日本銀行が採用するマイナス金利政策によって一段の政策金利を低下させることは可能。
もっとも、QE3終了後も買入残高を維持する政策が採られているため、保有債券の償還分は再投資されている。
これらの量的緩和政策の結果、FRBのバランスシートは金融危機前の1兆ドルを下回る水準から4.5兆ドルに増加した(前掲図表3)。米国債が、金融危機前の8,000億ドル弱から2兆5,000ドル弱に増加したほか、政府機関・MBS債も残高なしから1兆8,000億ドル程度まで増加した。経済規模(GDP)との比較では、FRBのバランスシートは、金融危機前の1桁台半ばから25%程度に拡大した。
1 流動性ファシリティとしては、金融機関向けがターム物入札ファシリティ(TAF)、ターム物証券貸出ファシリティ(TSLF)、プライマリーディーラーファシリティ(PDCF)。金融市場向けには、CPファンディング・ファシリティ(CPFF)、ターム物ABS融資ファシリティ(TALF)等が実施された。
2 伝統的な金融政策手段としては、公開市場操作に加え、公定歩合変更、準備率変更がある。
3 厳密には欧州中央銀行や日本銀行が採用するマイナス金利政策によって一段の政策金利を低下させることは可能。
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経歴
- 【職歴】
1991年 日本生命保険相互会社入社
1999年 NLI International Inc.(米国)
2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
2014年10月より現職
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会 検定会員
公式SNSアカウント
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