2016年10月14日

中期経済見通し(2016~2026年度)

経済研究部 経済研究部

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5. 代替シナリオ

(楽観シナリオ)
楽観シナリオでは、メインシナリオに比べ世界経済が順調に回復する。中国はメインシナリオに比べ成長率が高いことに加え、内需主導の経済成長へと転換していくため、グローバルな不均衡も解消に向かう。日本は潜在成長率を大きく上回る経済成長が続き、米国の順調な利上げを受けて円安が進むことも追い風となるため、消費者物価は日本銀行の見通しとほぼ同じペースで上昇し、2018年度に2%を上回り、その後も安定的に2%程度の伸びを維持する。なお、消費税率引き上げの前提はメインシナリオと同じとしている。
 
(悲観シナリオ)
悲観シナリオは、国際金融市場の不安定化などから世界経済が低迷を続ける。今後10年間の平均成長率は米国が1.4%、ユーロ圏が0.6%と過去10年平均と同程度にとどまり、中国は4.3%と過去10年平均(8.9%)の半分程度まで低下する。米国の追加利上げは当面見送られ、為替レートは2018年度に1ドル90円まで円高ドル安が進む。世界経済の低迷を受けて日本も低成長が続き(今後10年平均の成長率は0.6%)、消費者物価上昇率はマイナスを脱するものの、今後10年間の平均で0.8%にとどまる。2019年度の消費税率引き上げは実施されるが、景気低迷、デフレ基調が継続することからその後は消費税率が据え置かれることを想定した。
シナリオ別基礎的財政収支(対名目GDP比)の比較 (シナリオ別の財政収支見通し)
メインシナリオの財政収支見通しでは2020年度までに基礎的財政収支を黒字化するという政府目標は達成されないとしている。楽観シナリオでも2020年度の政府目標は達成されないが、名目GDP成長率が今後10年間の平均で2.2%とメインシナリオよりも0.7%高いため、2020年度の赤字幅は▲1.1%(GDP比)まで縮小し、消費税率が12%に引き上げられる2024年度には基礎的財政収支の黒字化が実現する。ただし、利払い(ネット)を含む財政収支は予測期間末でも赤字で、メインシナリオに比べて金利の上昇スピードが速いため、基礎的財政収支と財政収支の差はメインシナリオよりも大きくなる。国・地方の債務残高のGDP比を低下させるためには、基礎的財政収支の黒字幅をさらに拡大させることが必要となる。

悲観シナリオでは名目成長率の低迷に伴う税収の伸び悩みが続くことに加え、消費税率が10%で据え置かれることから基礎的財政収支の赤字は拡大傾向が続く。この場合には財政破綻のリスクが高くなるだろう。
(シナリオ別の金融市場見通し)
楽観シナリオでは、米国をはじめとする各国景気が順調に回復するため、メインシナリオと比べて、米利上げのペースは加速、ユーロ圏の利上げ開始も2018年に前倒しとなる。日本も物価上昇率の2%超えがメインシナリオよりも大幅に早まるため、量的緩和の停止、マイナス金利政策の終了・無担保コールレート誘導目標の復活は2018年度に前倒しされ、その後は2020年度から段階的な利上げが実施される。

日本の長期金利についても、2017年度までは底這うものの、2018年度以降は出口戦略の進展や利上げの段階的な実施、投資家のリスク選好、海外金利の大幅な上昇を受けて、メインシナリオよりも早期かつ大幅に上昇していくことになる。

ドル円レートについては、米国経済の回復加速と急ピッチの利上げに伴う日米金利差拡大が大幅なドル高に繋がり、2019年度には1ドル125円まで円安ドル高が進む。その後はメインシナリオ同様、日本の利上げ等を受けて円高ドル安基調に転じるが、期間を通じたリスク選好地合いや日本の期待インフレ率が高水準に保たれることなどから、予測期間終盤にかけてメインシナリオよりも円安ドル高水準での推移となる。

ユーロドルについては、一旦伸び悩むものの、ユーロの金融政策正常化が急ピッチで進むうえ、ユーロの信認が高まることから、メインシナリオよりもややユーロ高となり、予測期間末には1ユーロ1.3ドル手前まで水準を切り上げる。既述の通り、ドル円ではメインシナリオよりも円安ドル高となるため、ユーロ円では大幅な円安ユーロ高となる。
 
悲観シナリオでは、世界的に景気が低迷を続けるため、米国の利上げは長期にわたって見送られ、かつ再開してもすぐに打ち止めになる。ユーロ圏も出口戦略が大きく遅れ、その後の利上げも小幅に留まる。日本では物価の低迷が続くため、予測期間を通じて金融緩和が継続される(正常化はしない)。

日本の長期金利は、日銀が円高進行と自然利子率低下への対応として、予測期間序盤に長期金利誘導目標を引き下げることで低下、中盤にかけて過去最低レベルとなる▲0.3%~▲0.4%で推移する。予測期間終盤には、海外金利の持ち直しと、超低金利の副作用への配慮から誘導目標がやや引き上げられ、0%程度での推移となる。

ドル円レートについては、米景気の低迷によって日米金利差が殆ど拡大しないこと、世界的に市場がリスク回避的になることから、予測期間前半に急速な円高ドル安が進行、2018年度にかけて90円まで円高が進む。以降も基本的に同様の状況が続き、予測期間末にかけて1ドル90円での推移が続く。

ユーロに関しては、景気低迷に伴う金融緩和長期化や域内の不協和音から、予測期間前半に1.00ドルまで低下、その後、ECB利上げに伴って小幅に上昇するが、1.05ドルを下回ったままの状況が続く。既述の通り、ドル円ではメインシナリオよりも円高ドル安が進むため、ユーロ円では大幅な円高ユーロ安となり、主要先進国通貨では円が独歩高の様相になる。
シナリオ別コールレート誘導目標の見通し/シナリオ別日本長期金利の見通し/シナリオ別ドル円レートの見通し/シナリオ別ユーロドルレートの見通し
中期経済見通し(メインシナリオ)
メインシナリオと楽観・悲観シナリオの比較
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