2016年09月23日

【アジア・新興国】東南アジア・インドの経済見通し~当面は消費主導の成長、輸出はL字型の緩やかな回復へ

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

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(図表9)ベトナム実質GDP成長率(供給側) 2-5.ベトナム
ベトナムは安価な労働コストや地理的に中国と近い立地の優位性、政府による外資誘致策、そしてTPP交渉参加国であることから外資系製造業から戦略的な生産基地として注目され、投資主導の成長が続いている。15年の成長率は前年比6.7%増と、雇用・所得環境の改善とインフレ率の低下による実質所得の増加を受けて、サービス業が好調で高成長となったものの、16年1-6月期の成長率は前年同期比5.5%増と、昨年同1-6月期の同6.3%増を下回っている。今年の景気減速は第一次産業の落ち込みによる影響が大きい。農業は北部の寒波や中・南部における干ばつや塩害によって生産が落ち込み、また漁業は4月に環境被害による魚の大量死の影響で鈍化し、第一次産業全体では2期連続で減少している。また第二次産業は建設業と外資系が主導する製造業が好調を維持しているものの、鉱業が2期連続の減少となり、第二次産業全体では前年同期の伸び率を下回る水準に止まっている。一方、第三次産業は農業所得が悪化しているものの、低インフレ環境と継続的な賃金上昇によって家計の実質所得が増加したため、卸売・小売業や情報・通信業を中心に好調を維持している。

16年後半は、政府目標の6.7%達成は難しいだろうが、成長率の上昇が続くだろう。鉱業部門は原油安を背景に低迷するだろうが、海外経済の緩やかな回復が続くなかで輸出が堅調に推移し、また1~8月に認可された対内直接投資(前年比7.7%増)が実行に移るなか、主力の外資系製造業を中心に第二次産業は堅調に推移するだろう。また第一次産業も干ばつと塩害の悪影響が和らぎ農業生産が拡大するほか、農業所得の改善と5月の公務員の最低賃金の5%引上げによって消費者の購買力が向上することから、第三次産業も好調を維持すると見込む。

17年は、小幅ながら前年同期の成長率を上回る展開を予想する。第一次産業は農業生産の回復によって前年対比で伸び率は高めに推移するだろう。農業所得は増加するものの、インフレ率は原油価格の上昇やドン安に伴う輸入インフレによって上昇することから消費者の購買力は低下し、第三次産業は前年対比で若干鈍化するだろう。しかし、原油価格上昇は鉱業部門の回復に繋がり、また海外経済の緩やかな回復が続くなかでドン安は輸出の追い風となって外資系製造業の生産拡大に繋がることから、第二次産業は前年同期の伸びを上回ると予想する。なお、ベトナムは財政余力が乏しく、通貨の信用が低いため、政府の財政出動や中央銀行の金融緩和による景気の押上げは、16年同様に期待できない。むしろ輸出が伸びず、貿易収支が赤字化するような展開となれば、米国の利上げなど国際金融市場のリスク回避の動きに合わせて、通貨が急速に下落する展開には注意を払う必要があるだろう。

結果、成長率は16年が前年比6.1%増、17年は同6.5%増と予想する(図表9)。
(図表10)インドの実質GDP成長率(需要側) 2-6.インド
インドは7%台の力強い成長が続いているものの、16年4-6月期の実質GDP成長率は前年同期比7.1%増(前期:同7.9%増)と低下し、過去5四半期で最も低い成長率となった。4-6月期は、GDPの約6割を占める民間消費の鈍化と民間部門を中心に投資の低迷が景気を押し下げた。輸出は1年半ぶりにプラスに転じたものの、民間投資は2期連続で減少している。製造業の生産設備に過剰感があることや不良債権問題を抱える商業銀行の消極的な貸出姿勢が民間投資の不振に繋がっている模様だ。民間消費は、インフレ率の緩やかな上昇による家計の実質所得の伸び悩みが消費の抑制に繋がったものと見られる。しかし、中央銀行が15年1月から段階的に進めた計1.5%の利下げを背景に、4-6月期の自動車販売台数(二輪・三輪含む)は前年同期比13.4%増(前期:同8.4%)と加速するなど、消費は依然として堅調を維持していると見られる。また政府は16-17年度予算(歳出は前年度比10.3%増)の執行に加え、行き詰った投資プロジェクトの再開を進めるなど、政府消費と公共投資は景気をサポートしている。

16年度後半は、民間消費が再加速して7%台後半の高い成長が続くと予想する。まず平年並みと予想されている今年の南西モンスーン(6~9月)の降雨量は9月中旬時点で平年の95%と概ね順調に推移している。今後は過去2年間、雨不足に悩まされた農業生産が持ち直し、農業所得の増加を通じて農村部の消費需要が増加すると見込まれる。また約2割の増加が決まった公務員給与と年金受給額が8月に支給され始めたことから、都市部も消費需要が増加する見込みだ。一方、投資は引き続きインフラ整備の進展など公共部門が支えとなるものの、民間投資を中心に停滞すると見込む。銀行の不良債権問題の解消には時間が掛かること、また輸出は底打ち後も低調に推移すると見られ、製造業を中心に企業が設備投資に積極的になるとは考えにくい。

17年度は、民間消費がやや減速するものの、輸出と投資が持ち直すなかで7%代半ばの伸びを維持するだろう。民間消費は物価上昇によって家計の購買力が抑制されると共に、16年度の所得増の消費押上げ効果が剥落することから減速するだろう。一方、輸出は先進国向けを中心に緩やかな拡大が続くこと、また構造改革の象徴である物品・サービス税(GST)の導入(来年4月)によって複雑な間接税体系が一本化されれば、ビジネス環境の改善を通じて外国企業のセンチメントが改善することから、民間投資も持ち直すだろう。

金融政策は、足元のインフレ圧力の後退を受けて短期的には追加利下げの可能性があるものの、ラジャン元総裁の路線を継承すると見込まれるパテル新総裁の下、総じて物価抑制を優先した慎重な政策を続けるものと予想する。

結果、成長率は16年度が前年度比7.5%増、17年は同7.4%増と予想する(図表10)。
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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

(2016年09月23日「Weekly エコノミスト・レター」)

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