2016年09月15日

企業年金や個人年金は、高齢者家計に役立っているか?~全国消費実態調査の集計表を使った確認

保険研究部 上席研究員・年金総合リサーチセンター 公的年金調査室長 兼任 中嶋 邦夫

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2|年間収入を揃えた場合
ここでは年間収入の影響を取り除くため、年金等受給世帯について公開されている、年間収入の五分位階級(年収の低い方から5分の1ずつに分けたグループ)別の集計(五分位のうち第II~IV分位)を確認した。
図表5 年間収入の五分位階級(第II~IV分位)ごとの支出状況 いずれの年収階級でも、私的年金も受給している世帯で、教養娯楽やその他、食費を中心に消費支出が多い。詳細を見ると、特に教養娯楽サービス(宿泊やパック旅行、習いごとの月謝、レジャー施設の利用料など)や交際費で差が大きい。

他方、資産を見ると、私的年金も受給している世帯で、預貯金残高や有価証券残高が多い。前述した消費支出の差は、こういった金融資産の保有状況の差が原因となっている可能性がある。
図表5 年間収入の五分位階級(第II~IV分位)ごとの支出状況
図表6 主な収入が公的年金である世帯の貯蓄高別支出状況 3|(参考) 金融資産残高の影響
金融資産の影響を取り除くには、同程度の金融資産を持つグループ内で私的年金受給世帯と非受給世帯とを比較すべきだが、そのような集計表は公表されていない。そこで、私的年金の受給は問わず、主な収入が公的年金である世帯の貯蓄現在高別の状況を使って、金融資産が消費支出に与える影響を確認した。

これによると、貯蓄現在高が多いほど、食費や教養娯楽、その他を中心に消費支出が多くなる傾向が見られる。ただし、貯蓄現在高が多いほど年間収入が多い傾向もあるため、この消費支出の傾向が貯蓄現在高に因るものか年間収入によるものかは、明確でない。
図表6 主な収入が公的年金である世帯の貯蓄高別支出状況

4 ――― 総括と考察

4 ――― 総括と考察

本稿では、総務省統計局が実施している「全国消費実態調査」(二人以上世帯)の結果を利用して、私的年金が果たしている役割を家計の消費支出の面から概観した。その結果、図表5で見たように、公的年金に加えて私的年金も受給している世帯では、公的年金のみを受給している世帯と比べて、同程度の収入であっても、教養娯楽やその他、食費を中心に消費支出が多い傾向が見られた。

私的年金も受給している世帯では預貯金や有価証券の残高が多いため、その影響でこのような消費支出の差が生じている可能性もあるが、公表されている集計表を使った確認では消費支出の差の要因を特定することは出来なかった。私的年金も受給している世帯で預貯金や有価証券の残高が多い背景には、企業年金制度がある企業で働いている人や個人年金に加入している人は、現役時代から、貯蓄する経済的な余裕があったり老後への備えをしっかりと考えていた可能性がある。加えて、このような人は、経済的な余裕を背景に現役時代からレジャーや交際費などへの支出が多く、引退後もその傾向が続いているために、前述した消費支出の差が生じている可能性もある。

消費支出の差が生じるもう1つの理由として考えられるのは、公的年金に加えて私的年金も受給している世帯では収入源が複線化していることへの安心感があり、将来に対する予備的な貯蓄のニーズが少なく、その結果として消費支出が多くなっている可能性がある。公的年金からの収入は、昨年から始まったマクロ経済スライドや、今後起こりうる制度改正によって変動するリスクがある。一方、企業年金や私的年金には今後のインフレによって実質的な価値が変動するリスクがあるが、公的年金のリスクとは種類が異なる。同じ収入でも収入源が分かれていれば、リスクが分散されている安心感があると考えられる。
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保険研究部   上席研究員・年金総合リサーチセンター 公的年金調査室長 兼任

中嶋 邦夫 (なかしま くにお)

研究・専門分野
公的年金財政、年金制度全般、家計貯蓄行動

経歴
  • 【職歴】
     1995年 日本生命保険相互会社入社
     2001年 日本経済研究センター(委託研究生)
     2002年 ニッセイ基礎研究所(現在に至る)
    (2007年 東洋大学大学院経済学研究科博士後期課程修了)

    【社外委員等】
     ・厚生労働省 年金局 年金調査員 (2010~2011年度)
     ・参議院 厚生労働委員会調査室 客員調査員 (2011~2012年度)
     ・厚生労働省 ねんきん定期便・ねんきんネット・年金通帳等に関する検討会 委員 (2011年度)
     ・生命保険経営学会 編集委員 (2014年~)
     ・国家公務員共済組合連合会 資産運用委員会 委員 (2023年度~)

    【加入団体等】
     ・生活経済学会、日本財政学会、ほか
     ・博士(経済学)

(2016年09月15日「基礎研レポート」)

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