2016年09月15日

企業年金や個人年金は、高齢者家計に役立っているか?~全国消費実態調査の集計表を使った確認

保険研究部 上席研究員・年金総合リサーチセンター 公的年金調査室長 兼任 中嶋 邦夫

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1 ――― はじめに

1|問題意識
「高齢者世帯の収入の7割を公的年金・恩給が占めており、6割の高齢者世帯では収入の全てが公的年金・恩給となっている」というフレーズは、厚生労働省が公的年金の重要性を語る際によく使われる。では、企業年金や個人年金などの私的年金は、高齢者の家計にとってどのような役割を果たしているのだろうか。本稿では家計の消費支出に注目し、総務省統計局が実施している「全国消費実態調査」(二人以上世帯)の結果を利用して、私的年金が果たしている役割を概観した。
2|利用したデータ
日本における家計に関する大規模調査には、前述した全国消費実態調査のほかに、総務省統計局が実施している「家計調査」も存在する。しかし、家計調査のサンプル数は全国消費実態調査よりも少ないため、私的年金を受給している世帯を抽出した集計が存在しない。また、全国消費実態調査は二人以上世帯と単身世帯に分けて調査・集計が行われているが、単身世帯のサンプル数は少ないため、私的年金を受給している単身世帯を抽出した集計が存在しない。そのため、本稿では全国消費実態調査の二人以上世帯の調査結果を利用した。ただし、全国消費実態調査(二人以上世帯)には十分なサンプル数があるとはいえ、私的年金を受給している世帯に限定するとサンプル数は少なめになる。そこで本稿では、直近3回分(2014年、2009年、2004年)の集計結果を見ることで、傾向の安定性を確認した。
図表1 全国消費実態調査と家計調査のサンプル数(集計世帯数)
また本稿では、私的年金が果たしている役割を概観するために、全国消費実態調査のうち「公的年金・恩給受給額階級・企業年金・個人年金受給額階級別」の集計表を利用した。ただし、公的年金・恩給受給額階級別と企業年金・個人年金受給額階級別は別個に集計されているため、企業年金・個人年金受給額階級別には公的年金・恩給(以下、単に公的年金という)を受給していない世帯が含まれる。そこで本稿では、企業年金・個人年金(以下、両者をまとめて私的年金という)と公的年金の両方を受給している世帯と、公的年金のみを受給している世帯とを比較した。

なお本稿での比較は前述した集計表に基づいたものであり、両世帯の違いの主因が私的年金の受給によるものかは明らかにしていない。因果関係の確認には、統計学に基づいて個票を分析する必要がある。この点には留意していただきたい。
 

2 ――― 高齢者世帯(全般)の支出状況

2 ――― 高齢者世帯(全般)の支出状況

1|現役世代との比較
ここでは、私的年金が果たしている役割を見る前に、高齢者世帯全体の特徴を確認した。
図表2 世帯主の年齢階級別の支出状況 高齢者世帯(世帯主65歳以上)の月間の消費支出は、引退直前の50代と比べて全体で10万円ほど少なく、中でも交通・通信、教育、その他で差が大きい。詳しく見ると、交通・通信では自動車等購入(購入していない人も含めた平均)と自動車等維持で、その他では仕送り金で差の約半分を占める。

また、高齢者世帯の月間消費支出は30代と近い水準にある。詳しく見ると、高齢者世帯は自動車関連や教育が少ないが、交際費が多くなっている。
図表2 世帯主の年齢階級別の支出状況
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保険研究部   上席研究員・年金総合リサーチセンター 公的年金調査室長 兼任

中嶋 邦夫 (なかしま くにお)

研究・専門分野
公的年金財政、年金制度全般、家計貯蓄行動

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