2016年09月14日

ビットコインなど仮想通貨の動向-仮想通貨の「光」と「陰」

小林 雅史

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3――日本におけるビットコインの規制の動向

1ビットコインに関する当初の政府見解(2014年3月)
Mt.Gox社取引停止を受け、2014年2月25日、大久保勉参議院議員(民主党)から、ビットコインについての質問主意書が参議院に提出された。

これについて、2014年3月7日、政府は答弁書を閣議決定し、

 「ビットコインについては、特定の発行体が存在せず、各国政府や中央銀行による信用の裏付けもない等の特徴を有するとされているものと理解しているが、政府として、その全体像を把握しているものではないこと」

 「ビットコインは通貨ではなく、それ自体が権利を表象するものでもないこと」

などと回答した21

さらに、2014年3月10日、同じく大久保勉参議院議員からビットコインについて再質問主意書が提出され、政府として、必要な関係法令を整備する時期の目処はあるかなどについて質問されたが、「法令整備の有無、時期について、現時点において、政府として確たることは申し上げられない」などと、今後の規制の方向性は示されなかった22

また、2014年4月9日、日銀の黒田総裁は、定例記者会見でビットコインは通貨ではなく、一般的な決済手段とはなっていないとした上で、規制は政府の問題であると回答している23
 
21  「ビットコインに関する質問主意書」(2014年3月7日現在)、参議院ホームページ。
22  「ビットコインに関する再質問主意書」(2014年3月18日現在)、参議院ホームページ。
23  「総裁記者会見要旨」(2014年4月8日)、日本銀行ホームページ。
2自民党IT戦略特命委員会資金決済小委員会の中間報告(2014年6月)
2014年6月19日、自民党IT戦略特命委員会資金決済小委員会は、「ビットコインをはじめとする「価値記録」への対応に関する【中間報告】」を発表した。

同中間報告においては、これまで仮想通貨、暗号通貨と呼ばれていたものを、通貨でも物でもない、新たな分類に属するものとして、「価値記録」と定義した上で、

 「ビットコインをはじめとする価値記録のやり取りはビジネスにおける新たなイノベーションを起こす大きな要素となりうる」

として、価値記録の交換を利用者の自己責任に帰す一方で、既存の規制で縛りつけることをできるだけ避けることを前提としたルールを確立することを提言した。

また、当時の価値記録に対する各国の対応状況として、

 ・容認する国家として、税制上の取扱を明確にした5か国(スウェーデン、シンガポール、ノルウェー、カナダ、ドイツ)
 ・黙認する国家として、2か国(イギリス、アメリカ)
 ・警告する国家として、3か国(キプロス、香港、インド)
 ・禁止する国家として、4か国(ロシア、中国、ブラジル、タイ)

を例示した上で、日本も同様に自己責任の原則の下で、価値記録の「採掘」、「交換」、「交換所への価値記録・金銭預託」につき、特段の規制をかけない方針とした。

さらに、出資法、銀行法、犯罪収益移転防止法の適用対象とはならないとしている。

課税方針としては、通貨と価値記録の交換、価値記録と物・サービスの交換、価値記録同士の交換に対して消費税を課税し、価値記録によるキャピタルゲインに対しても課税するとしている。

一方で、価値記録関連ビジネスの振興・課題解決を目的とした業界団体を設立し、当該団体による交換所ガイドライン(届出制、本人確認、情報開示、セキュリティ)策定を促している24

提言を受け、2014年9月、日本価値記録事業者協会[JADA、2016年4月に日本ブロックチェーン協会(JBA)へ改組]が設立され、2014年10月14日、「JADA自主ガイドライン概要」を策定・公表している25
 
24  「ビットコインをはじめとする『価値記録』への対応に関する【中間報告】」(2014年6月19日)、Active ICT JAPANホームページ。
25  「JADA自主ガイドライン概要」(2014年10月14日)、一般社団法人日本価値記録事業者協会ホームページ。
3金融審議会スタディ・グループ、ワーキング・グループによる検討(2014年10月~)
2014年9月26日、金融担当大臣から金融審議会に、決済業務の高度化などに関する諮問が行われ、これを受け、同年10月9日、「決済業務の高度化に関するスタディ・グループ」が設置された。

同スタディ・グループにおいては12回の審議を経て、2015年4月28日、「決済業務の高度化等に関するスタディ・グループ中間整理」を公表し、

 「仮想通貨等、新たな形態の決済手段についても、その利用実態や犯罪その他不正利用の可能性、国際的な規制の動向も踏まえた上で、対応のあり方について、必要に応じ、検討していくことが考えられるのではないか、との指摘があった」

とされた26

この中間整理の取りまとめを受け、スタディ・グループは、ワーキング・グループに改組し、さらに審議を進めた(2015年7月23日第1回開催)。

第1回ワーキング・グループにおいては、中間整理後の新たな動きとして、2015年6月のG7エルマウサミットにおいて、仮想通貨について、テロ資金対策として各国は適切な規制を含めた更なる行動を取ることが合意されたことが指摘されている27

また、各国での規制状況についても紹介している(たとえば、米国ニューヨーク州においては、2014年7月、仮想通貨会社向け規制として、顧客資産保護、マネーロンダリング防止、サイバーセキリュリティープログラムの策定など「ビットライセンス規制」を公表、意見公募28、2015年6月、意見公募を踏まえた成案を策定した29)。

同ワーキング・グループにおいては、7回の審議を経て、2015年12月22日、「決済業務等の高度化等に関するワーキング・グループ報告」を公表した。

仮想通貨については、

 ・取引の状況(2015年11月時点でビットコイン取扱業者は世界で約10万、1日当たり取引件数は約17万件、時価総額は約52億ドル)

 ・マネー・ローンダリングやテロ資金供与対策の国際的要請(2015年6月G7エルマウサミット)

 ・ビットコイン業者であるMt.Gox社の破綻(2014年2月)

を踏まえた、利用者の保護やマネロン・テロ資金供与対策に向けた新たな規制の導入を提言した30
 
26  「金融審議会『決済業務等の高度化に関するスタディ・グループ』中間整理の公表について」(2015年4月28日)、金融庁ホームページ。
27  「金融審議会『決済業務等の高度化に関するワーキング・グループ(第1回)』」(2015年7月23日)、金融庁ホームページ。
28  ” NYDFS RELEASES PROPOSED BITLICENSE REGULATORY FRAMEWORK FOR VIRTUAL CURRENCY FIRMS ”(2014年7月17日)、ニューヨーク州金融サービス局ホームページ。
29  ” Final BitLicense Regulatory Framework ”(2015年6月24日)、ニューヨーク州金融サービス局ホームページ。
30  「金融審議会『決済業務等の高度化に関するワーキング・グループ』報告の公表について」(2015年12月22日)、金融庁ホームページ。
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小林 雅史

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