2016年09月08日

働き方改革はどこに向かうのか~時間制約のあるフルタイム勤務への「移行」と「多元化」

松浦 民恵

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2―労働時間の制限と働き方の柔軟化による働き方改革

1働き方改革の概観~労働時間の制限と働き方の柔軟化
次に、企業は働き方改革として、具体的にどのような取組を行っているのだろうか。ここでは、厚生労働省の「働き方・休み方改善ポータルサイト」4に掲載されている「働き方改革取組事例」(2016年4月時点)をもとに、働き方改革の現状を概観したい。社員数1000人以上の企業の掲載事例を分析対象とし、重複している事例については掲載時期が古い方を除外した。また、「長時間労働を抑制しようとする取組」を行っていない事例(休暇取得推進のみ等)は分析対象から除外した。結果として、分析対象は計121件の事例となった。

図表-3のとおり、掲載事例の95.0%は何らかの「労働時間の制限」を行っており、「働き方の柔軟化」の実施率も49.6%にのぼる。さらに詳しくみると、「労働時間の制限」として、「残業制限・禁止(ノー残業デー、長時間労働職場への働きかけ等)」は90.1%の企業で実施されているが、「労働時間短縮目標の設定」(27.3%)や「朝型勤務」(28.1%)の実施率は3割弱にとどまる。「働き方の柔軟化」として、「フレックスタイム」(33.1%)、「在宅勤務」(26.4%)は3割前後、「サテライトオフィス等のモバイル勤務」(7.4%)、「裁量労働制」(11.6%)は1割前後とやや低い5

また、掲載事例を「労働時間の制限のみ」「働き方の柔軟化のみ」「両者の併用」でタイプ分けすると、「労働時間の制限のみ」(50.4%)と「両者の併用」(44.6%)がほぼ半々で拮抗しており、「働き方の柔軟化のみ」は非常に少ない(図表-4)。
[図表-3] 働き方改革の取組内容(複数回答)/[図表-4]働き方改革のタイプ
 
4 「働き方・休み方改善ポータルサイト」(http://work-holiday.mhlw.go.jp/)の分析は、ニッセイ基礎研究所・太田真奈美研究アシスタントと共同で実施した。
5 制度そのものの実施率ではなく、働き方改革の内容として記載があった割合である点には、留意する必要がある。
2働き方改革の、短時間勤務者等に対する影響
このように、企業の働き方改革の取組は大きく「労働時間の制限」と「働き方の柔軟化」から構成されており、「労働時間の制限のみ」の企業と、「労働時間の制限」と「働き方の柔軟化」を併用している企業でほぼ2分される。

長時間労働を前提とする働き方のもとでは、働く時間に制約のないフルタイム勤務者に、責任や負担の大きい主要な仕事が集中する傾向にあった。この傾向は、時間制約のないフルタイム勤務者の不満を増大させるだけでなく、時間制約のあるフルタイム勤務者や短時間勤務者の意欲の低下を招き、キャリア形成の阻害につながっていた面も大きい。

一方、働き方改革の取組により、長時間労働を前提とする働き方が是正されれば、短時間勤務者のフルタイム勤務への復帰にもプラスの影響を及ぼす。短時間勤務制度を整備し、利用しやすい環境を整えた企業では、短時間勤務者が増加し、なかなかフルタイム勤務に復帰しないという課題が顕在化しつつあった。

もともと短時間勤務者がなかなかフルタイム勤務に復帰しないのは、フルタイム勤務に復帰すると同時に時間制約のない働き方を余儀なくされるリスクを回避するためでもあった。従来のフルタイム勤務者の働き方が、時間制約を前提としたものに改革されれば、短時間勤務者にとって、このようなリスク回避の必要性は低下し、フルタイム勤務に復帰しやすくなるだろう。実際、働き方改革を熱心に進めた企業では、結果として短時間勤務者がいなくなった(短時間勤務制度を利用する必要がなくなった)という事例もある。
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松浦 民恵

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