2016年08月19日

米住宅市場の回復は一服?-4-6月期GDPにおける住宅投資はおよそ2年ぶりにマイナス転落。住宅市場の回復は持続するのか

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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(4)住宅ローン:サブプライムを除き貸出基準は緩和が持続。住宅ローンに拡大余地
実際、住宅ローン金利の低下を受けて、住宅購入目的の住宅ローン申請件数は増加している。抵当銀行協会(Mortgage Bankers Association)が公表する住宅購入指数をみると、住宅ローン金利の低下に伴って同指数は14年末の150近辺から足元(8月5日時点)220台まで上昇している(図表9)。
(図表9)住宅ローン金利および住宅購入指数/(図表10)家計の債務残高、債務返済負担(対可処分所得)
一方、家計における今後の住宅ローンの拡大余地をみるために、家計の債務残高と債務返済負担の推移をみると、債務残高の可処分所得に対する比率は、足元(16年1-3月期)で1.03倍と、金融危機前の1.3倍を大幅に下回り、03年以来の水準に低下している(図表10)。さらに、可処分所得に対する債務の元利返済額の比率を示す債務返済比率も、住宅ローンで4.5%程度と80年以来の低水準となっているほか、消費者ローンを合わせた債務全体では10%と統計開始以来最も低い水準になっている(図表10)。債務返済負担は、低金利の恩恵もあり過去に例をみない程低くなっていることが分かる。このように、家計の債務はストックベースでもフローベースでも可処分所得に対する比率は低く、家計からみて住宅ローン残高の拡大余地はあるとみられる。

次に、銀行サイドから住宅ローンの拡大余地をみると、住宅ローンのクレジットの質を示す延滞率や差押え率の推移をみると、延滞率は16年4-6月期が4.7%と10年1-3月期につけた10.0%から大幅に低下しており、06年7-9月期以来の水準となっている(図表11)。一方、差押え率も4-6月期が1.6%と、10年10-12月期の4.6%から低下し、07年4-6月期以来の水準に低下しており、金融危機前の水準まで改善している。

住宅ローンの貸出基準についての調査でも信用力の低いサブプライムローンでは貸出基準の厳格化がみられるものの、それ以外の住宅ローンについては全般的に貸出基準が緩和されている(図表12)。とくに、ファニーメイやフレディーマックなどの政府保証機関(GSE)の貸出基準を満たした信用力の高い住宅ローンについてはとりわけ基準緩和が顕著となっている。
(図表11)住宅ローン延滞、差押え率/(図表12)住宅ローン貸出基準
(5)住宅購入意欲:住宅購入センチメント指数は統計開始以来最大、雇用不安後退が寄与
(図表13)住宅購入センチメント指数 ファニーメイは、住宅購入センチメント指数(the Home Purchase Sentiment Index(HPSI))を月次で公表している。同指数は、「今が住宅の買い時」、「今が住宅の売り時」、「今後12ヵ月で住宅価格が上昇」、「今後12ヵ月で住宅ローン金利が低下」、「今後12ヵ月で失業しない」、「過去12ヵ月で所得が著しく上昇」の6項目についての回答を集計して推計される。

同指数は、7月が86.5と11年3月の統計開始以来の高値となっており、足元で消費者の住宅購入意欲が非常に強くなっている(図表13)。

これを質問項目別の寄与度でみると、もっとも購入意欲の高さに貢献しているのが、「今後12ヵ月で失業しない」との項目で次いで「今後12ヵ月で住宅価格が上昇」となっており、労働市場の回復を背景にした雇用不安の後退や、住宅価格の上昇懸念が住宅購入意欲を高めている姿がうかがわれる。

一方、住宅ローン金利の見通しについては、住宅ローン金利が史上最低水準に近いこともあり、住宅ローン金利が上昇するとの見方が支配的で、同指数を押下げている。もっとも、住宅ローン金利の低下余地が限定的となる中で、金利先高観測が強まることは、住宅ローンを固定金利で借りる消費者にとっては駆け込み需要を喚起する要因と思われ、同指数の動きとは別に住宅購入の意思決定において購入を後押しすると思われる。
 

3.まとめ

3.まとめ

これまでみたように、住宅着工件数は4-6月期に伸びが鈍化したものの、世帯増加数との比較で増加余地があるほか、足元の住宅販売は好調を維持しており住宅在庫が低下するなど、住宅市場の需給がタイトであることから、今後伸びの再加速が予想される。実際、7月の住宅着工・許可件数は7-9月期の再加速が期待できる結果となっている。

また、住宅市場を取り巻く環境は引き続き住宅市場の回復に追い風となっている。住宅ローンは住宅ローン金利の低下に加え、家計の債務負担が軽微なことや住宅ローン貸出基準の緩和もあり、住宅ローンに拡大余地があることを示している。さらに、雇用不安の後退や住宅価格の上昇懸念から住宅購入意欲が非常に強くなっていることを考慮すると、このまま住宅市場の回復が頓挫してしまうとは考え難い。このため、住宅市場は今後も回復が持続し、住宅投資は7-9月期に再びプラス成長に復すると予想される。
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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

(2016年08月19日「Weekly エコノミスト・レター」)

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