2016年08月19日

米住宅市場の回復は一服?-4-6月期GDPにおける住宅投資はおよそ2年ぶりにマイナス転落。住宅市場の回復は持続するのか

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.はじめに

米住宅市場は、住宅バブル崩壊が金融危機の契機となったこともあり、金融危機後の景気回復局面でも、当初回復は捗捗しくなかった。その後は、住宅ローン金利の低下に加え、労働市場の回復を背景に雇用不安が後退したこともあり、住宅投資は15年が前年比+11.7%となるなど、回復が本格化していた。そんな中、先月発表された16年4-6月期の住宅投資は前期比年率で▲6.1%と14年1-3月期以来のマイナス成長となった(前掲図表1)。このため、住宅市場の回復傾向が変調してしまうのか、一時的な落ち込みに留まるのか住宅市場の動向が注目される状況となっている。

本稿では、住宅市場の関連指標を確認することで住宅市場の今後の動向について考察している。結論から言えば、住宅販売の好調に伴い住宅市場の需給がタイト化していることに加え、住宅市場を取り巻く環境は、史上最低水準に近い住宅ローン金利や雇用不安の後退など、住宅購入に追い風となっているほか、消費者の住宅購入意欲が強いため、住宅投資の落ち込みは一時的であり、今後も成長が見込まれると言うものである。
 

2.住宅市場の動向

2.住宅市場の動向

(1)住宅着工・許可件数:足元は回復基調、世帯数の増加を背景に一段の増加余地
住宅着工件数の伸び(3ヵ月移動平均、3ヵ月前比)は、6月が+1.7%(3月:+6.0%)と鈍化しており、4-6月期の住宅投資の落ち込みと整合的な動きとなっていた(図表2)。

一方、住宅着工件数は15年が111万件と05年(207万件)は大幅に下回っているものの、金融危機前の07年(136万件)に次ぐ水準まで回復している(図表3)。また、16年も7月までで年率116万件のペースとなっている。これを世帯増加数と比較すると、金融危機前には住宅着工件数が世帯増加数を上回り、住宅市場がだぶついていたとみられるが、10年以降は概ね世帯増加数を下回る状況が続いている。実際、15年は136万世帯が増加したのに対して、住宅着工件数は111万件に留まっており25万件の不足が生じている。00年以降の平均世帯増加数が129万世帯であることや、後述するように住宅在庫が低位に留まっていることを考慮すれば住宅着工件数には増加余地があると判断できる。

実際、7月の住宅着工件数の伸びは+5.2%とプラス幅が拡大したほか、住宅着工件数の先行指標である住宅着工許可件数も7月は+8.8%と5ヵ月ぶりにプラスに転じており、今後住宅着工件数の伸びが加速することを示唆している(図表2)。
(図表2)住宅着工件数と実質住宅投資/(図表3)世帯増加数および住宅着工件数
(2)新築・中古住宅販売:金融危機前の水準を回復。在庫月数は低位。
住宅販売は新築・中古住宅販売ともに好調である。米国では、中古住宅の販売件数が新築住宅販売の10倍程度の規模があり、住宅販売において重要な位置を占めている。中古住宅販売は、季節調整済み年率換算で6月が557万件、3ヵ月移動平均で550万件と07年4月(551万件)以来の水準となっている(図表4)。一方、中古住宅在庫は210万件程度と07年の水準を大幅に下回った結果、住宅在庫と住宅販売を比較した中古住宅販売在庫月数は6月が4.6ヵ月と過去に比べて低位に留まっており、中古住宅市場の需給はタイトになっている。

一方、新築住宅販売は季節調整済み年率換算で6月が59.2万件、3ヵ月移動平均が57.9万件となっており、こちらは08年3月(58.5万件)以来の水準となっている(図表5)。新築住宅についても販売が好調な一方、住宅供給が追いついていない結果、新築住宅販売の在庫月数は4.9ヵ月とこちらも過去の水準と比べて低位に留まっており、新築住宅も需給がタイトになっている。
(図表4)中古住宅販売および在庫/(図表5)新築住宅販売および在庫
(図表6)住宅市場指数(項目別) また、住宅建設業者のセンチメントを示す住宅市場指数のうち、新築住宅販売関連の指数をみると、8月の現状判断が65、今後6ヵ月の販売見込みが67となっている(図表6)。これらは、15年秋口の水準に比べると低いものの、今般の住宅市場回復局面において高い水準を維持している。とくに、販売見込みについては16年3月の61を底に顕著な回復を示しており、建設業者は新築住宅販売の底堅い推移を見込んでいる。

このようにみると、住宅着工件数は住宅販売在庫の低さからも今後増加が期待できると言えよう。
 
(3)住宅価格、住宅取得能力指数:住宅価格の上昇も住宅取得能力の大幅な低下は回避
住宅価格は、住宅市場の需給タイト化もあって価格上昇が持続している。住宅価格の代表的な指標である米国連邦住宅金融局(FHFA)が公表する住宅価格指数と、格付け会社スタンダード・アンド・プアーズ社が公表するS&P コアロジック ケース・シラー住宅価格指数をみると、両指数ともに5月は前年同月比で5%台の上昇となっている(図表7)。これは13年から14年にかけてみられた2ケタ上昇に比べて低位であるほか15年以降は比較的安定して推移している。
(図表7)住宅価格(前年同月比)/(図表8)住宅取得能力指数
住宅価格の上昇は、住宅保有者にとっては家計純資産額の増加をもたらすものの、住宅購入者にとっては、住宅取得を困難にする要因となる。もっとも、足元の住宅価格の上昇は住宅ローン金利が低下していることもあり、住宅取得に与える影響は一部相殺されている。

全米不動産協会(NAR)が公表している住宅取得能力指数は、中古住宅価格や住宅ローン金利から住宅取得に必要な最低所得を試算し、実際の所得と比較することで住宅取得能力を示す指数である。同指数は100以上で住宅取得に必要な所得を得ていることを示しており、指数が大きいほど所得に余裕があることを示す。

同指数の推移をみると、住宅価格の上昇を受けて一頃より低下しているものの、6月は153.3と住宅所得に必要な水準を50%超上回っている(図表8)。住宅価格は既に金融危機前の水準を超えているものの、同指数は金融危機前の水準を大きく上回っており、住宅ローン金利の低下が住宅取得能力の維持に貢献していることが分かる。
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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

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