2016年08月16日

2016・2017年度経済見通し(16年8月)

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

文字サイズ

2.実質成長率は2016年度0.5%、2017年度1.0%を予想

(夏場以降は消費中心に景気は持ち直し)
2016年4-6月期は前期比年率0.2%とほぼゼロ成長にとどまったが、前述したように1-3月期とは逆に統計上の技術的な要因により成長率が押し下げられている(年率▲1%程度)ため、表面的な数字で過度に悲観する必要はない。

7-9月期以降は円高の影響で輸出、設備投資が引き続き低調に推移することが予想されるものの、雇用所得環境の改善を主因として民間消費が回復すること、熊本地震の復旧、経済対策の効果から公的固定資本形成が増加を続けることから、景気は緩やかな持ち直しを続けることが見込まれる。実質GDP成長率は、輸出、設備投資の低迷が続く2016年度中は年率ゼロ%台にとどまるが、円高の影響が一巡する2017年度には年率1%台まで高まるだろう。実質GDP成長率は2016年度が0.5%、2017年度が1.0%と予想する。
実質GDP成長率の推移(四半期)/実質GDP成長率の推移(年度)
個人消費関連指標の推移 (需要項目別の見通し)
実質GDP成長率の予想を需要項目別にみると、民間消費は2015年度の前年比▲0.2%から2016年度には同1.0%と3年ぶりの増加となった後、2017年度も1.0%の増加を予想する。

足もとの消費動向を確認すると、内閣府の消費総合指数は2016年1-3月期の前期比0.7%の後、4-6月期は同0.3%と底堅い動きとなっている。一方、日本銀行の消費活動指数(実質)は2016年1-3月期が前期比0.2%、4-6月期が同▲0.3%と一進一退の動きとなっている。2015年までは日銀の消費活動指数が内閣府の消費総合指数に比べて強めの動きとなっていたが、2016年に入ってからはその関係が逆転している。
消費動向を大きく左右する雇用所得環境の先行きを展望すると、2016年度中は一人当たり名目賃金の伸びが大きく高まることは期待できないが、企業の人手不足感の高さを背景に雇用者数が増加を続けること、円高、原油価格下落の影響で物価上昇率が低下することから、実質ベースの雇用者所得は高めの伸びを続けるだろう。GDP統計の実質雇用者報酬は2015年度の前年比1.7%から2016年度は同2.2%へと伸びが高まることが予想される。
実質雇用者報酬の予測 耐久消費財のストック調整圧力が残存していること、2016年初からの株価下落による逆資産効果などが引き続き消費の抑制要因となる可能性があることには留意が必要だが、実質所得の増加を主因として民間消費は回復に向かう可能性が高い。

ただし、2017年度は円高、原油安の一巡などから消費者物価が上昇し実質所得が下押しされる公算が大きい。2016年度に3年ぶりに前年を下回った春闘賃上げ率が前年度を上回ることにより一人当たり名目賃金の伸びが高まらなければ、物価上昇に伴う実質所得の低下が再び消費の低迷につながる恐れがあるだろう。
設備投資は企業収益が大幅な増加を続ける中でも低い伸びにとどまってきたが、ここにきて海外経済の減速、円高の影響で企業収益が大きく悪化していることが、設備投資のさらなる抑制につながっている。
設備投資計画(全規模・全産業) 日銀短観2016年6月調査では、2016年度の設備投資計画(含むソフトウェア投資額、除く土地投資額)が前年度比4.3%(全規模・全産業)と、前年同時期の5.6%(2015年6月調査の2015年度計画)を下回り、過去5年間と比べると2011年度と並ぶ最低の伸びとなっている。足もとの為替レートが6月短観時点の想定レート(大企業・製造業:1ドル=111.41円)を大きく上回る円高となっていることを考えれば、2016年度の設備投資計画は経常利益計画の下方修正とともに過去の修正パターンを下回って推移する可能性が高く、実際の設備投資も当面は低調に推移する可能性が高い。

設備投資が回復に向かうのは円高の影響一巡、海外経済、国内需要の持ち直しから企業収益が増益に転じる2017年度となるだろう。設備投資は2015年度の前年比2.1%の後、2016年度が同▲0.2%、2017年度が同1.8%と予想する。
2016年4-6月期の公的固定資本形成は2015年度補正予算や2016年度当初予算の前倒し執行などから前期比2.3%の高い伸びとなった。7-9月期以降は5/17に補正予算が成立した熊本地震の復旧工事に加え、8/2に閣議決定された「未来への投資を実現する経済対策」に盛り込まれた公共事業が公的固定資本形成を押し上げることが見込まれる。
公共事業関係費の推移 ただし、安倍政権発足後は毎年、年度末にかけて補正予算が編成される一方、当初予算は抑制気味(2016年度当初予算の公共事業関係費は前年比+0.0%)となっており、補正予算がなければ年度末にかけて公共事業が落ち込んでしまう構造になっている。このため、前年と比べた公的固定資本形成の伸びは2015年度の前年比▲2.7%の後、2016年度が同3.1%、2017年度が同1.7%と大型経済対策が実施される割にそれほど高くならないと予想する。また、2017年度も抑制気味の当初予算が組まれた場合には、年度末にかけて補正予算の編成が必要となるだろう。
2012年後半以降、大幅な円安が進む中でも生産拠点の海外シフトなどを背景に輸出は横ばい圏の推移が続いたが、2016年入り後の大幅な円高にもかかわらず内閣府作成の輸出数量指数、日本銀行作成の実質輸出(いずれも季節調整値)は今のところ横ばい圏で踏みとどまっている。しかし、為替変動の影響が輸出数量の変化に現れるまでにはタイムラグがあるため、円高による下押し圧力は今後さらに高まる可能性が高い。

海外経済は新興国を中心に減速傾向が続いている。日本の輸出ウェイトで加重平均した海外経済の成長率は2012年以降、過去平均(1980年~)を下回り続けているが、2016年の伸びは2015年からさらに低下することが予想される。当研究所では米国の利上げ再開、日本の金融緩和継続を背景とした日米の金利差拡大を主因として徐々に円安・ドル高が進むと予想している。このため、輸出は2016年度後半以降持ち直しに向かうが、海外経済の低成長が続くことから輸出の伸びが大きく加速することは見込めない。一方、輸入は国内需要の持ち直しに伴い伸びを高めることから、外需が景気の牽引役となることは当分期待できないだろう。外需寄与度は2016年度に前年比▲0.3%と3年ぶりのマイナスとなった後、2017年度は▲0.0%とほぼ横ばいにとどまると予想する。
実質輸出、輸出数量指数(季節調整値)の推移/日本から見た海外経済の成長率
Xでシェアする Facebookでシェアする

経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【2016・2017年度経済見通し(16年8月)】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

2016・2017年度経済見通し(16年8月)のレポート Topへ