コラム
2016年07月11日

生涯未婚率と「持ち家」の関係性-少子化社会データ再考:「家」がもたらす意外な効果-

生活研究部 人口動態シニアリサーチャー 天野 馨南子

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【低未婚率をもたらす要因は何か】

少子化対策に関して、昨年特徴的な動きが生じた。厚生労働省がこのほど発表した2015年の都道府県別合計特殊出生率で、島根県が大きく出生率を伸ばしたのである。
島根県は2014年の1.66から1.80へと0.14も合計特殊出生率を上昇させ、出生率上昇ポイントが2位の徳島や鳥取の0.09を引き離して上昇ポイント1位となった(図表3)。
【図表3】2015年合計特殊出生率 対前年上昇ポイントランキング
島根県でなぜこれだけの出生率上昇が起こったのか。一つの要因として考えられるのが、同県が2010年以降、特に力を入れている住宅政策である。人口減少を食い止めるため、Uターン、Iターンの増加を目指し、3世代同居世帯への補助金、お試し住宅政策などを展開し、若い世帯の島根への誘致に積極的に取り組んだ。島根県が大阪、広島、東京の3都市で開催した2015年の「U・Iターンフェア」には、過去最多1280人が参加している。このフェアは2010年から開始されており、昨年は2014年に続く最多記録更新であった。

同県の継続的な住宅政策強化による若い世帯の同県への誘致が出生率に寄与したとの仮説のもと、生涯未婚率にも同じく何らかの寄与があるのではないか、との観点から都道府県別の住宅取得のしやすさの目安となる持ち家比率の状況と生涯未婚率との相関分析を行ってみることとした。
 
以下が、その分析結果である。

【持ち家比率と生涯未婚率 ―結婚してマイホームをもてるのか― 】

持ち家比率を算出するために、総務省統計局の「社会生活統計指標(2016)」のデータを利用し、同データ中の(持ち家数)/(居住世帯あり住宅数)で持ち家比率を算出した。この都道府県別の持ち家比率と男女別の生涯未婚率との関係性の強さをもとめるため、相関分析を行った。

その結果、非常に興味深い結果を得ることが出来た。
 
図表4は都道府県別の持ち家比率と「女性の生涯未婚率」の分散図である。図表からもわかるように、非常に綺麗な負の相関関係がみられる。両者の相関係数は実に-0.83もあり、両者に強い関係性があることを示している。勿論、男女とも未婚率の低い6県(図表2)も、持ち家比率が全国平均よりも9%から18%も高い状況となっている。

つまり、日本においては、持ち家比率の高いエリア(都道府県)ほど、女性の生涯未婚率は低くなる傾向がとても強い、という結果である。

相関関係は双方向の関係性を示すため、女性の生涯未婚率が低いエリアほど、持ち家比率が高くなる、ということも可能である。ちなみに男性の生涯未婚率と持ち家比率の相関係数は-0.51であり、女性ほど強い相関ではないが、「負の相関関係はある」(持ち家比率が高いほど未婚率が低い)ということが出来る値であった。
 
確かに女性の結婚経験者が多いエリアでは、そもそも「結婚したらマイホームをもちたいだろうから、未婚率が低いエリアで持ち家比率が高くなるのは当たり前では?」という見方もできなくはない。
 
しかし、例えばそれが大都市圏であれば、マイホームを建てようと思っても人口過密であるため、まずそう簡単に希望の広さの土地や建物を確保することは難しい。
その上、希望のマイホーム物件がみつかったとしても、都市部は不動産価格が非常に高いため、それを簡単に入手できるとは限らない。
 
そう考えると、「結婚後にマイホームで暮らすという希望が簡単にかないそうな」地方エリアでは、女性が求婚された際や、既に交際相手がいる場合に、結婚に乗り気になりやすい、と考える方が自然であるのではないだろうか。一方、大都市エリアでは、女性が求婚されたり、交際相手がいたりする場合でも、結婚後の住宅事情が結婚を決意する障害となっている可能性が小さくないのではないかと考えられる。

妊娠出産を男性よりも肉体的に身近にとらえる女性側に、より強く「結婚後、快適な持ち家が簡単に得られるかどうか」が、(交際ではなく)結婚の決定誘因とされているのかもしれない。
【図表4】女性の生涯未婚率と持ち家比率(縦:持ち家比率、横:女性生涯未婚率)

【やはり結婚=マイホーム(特に女性)】

今回の分析において、未婚率がそのエリアの持ち家取得状況と関係性を持っていること、特に女性において強い関係性があることが判明した。このことは、日本における未婚化対策、そして少子化対策、さらに地方振興策として重要視するに値する関係性ではないかと思われる2
 
島根県のU・Iターン誘致政策ではないが、「住めば都」である。
そして何より、「コウノトリの飛来はまずはカップルの巣作りから」なのではないだろうか。
若いカップルが暮らしたいと思うような住宅の積極的な提供・宣伝は、これからの地域の出生率上昇のためのキーワードとなるのではないだろうか。
 
2 非常に限られた範囲の調査でではあるが、図表2の6県の出身者に、未婚率が低い理由は何であると思うか、筆者がインタビューした際にも「家が持ちやすいからではないか」という意見は必ずあがっていた。
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生活研究部   人口動態シニアリサーチャー

天野 馨南子 (あまの かなこ)

研究・専門分野
人口動態に関する諸問題-(特に)少子化対策・東京一極集中・女性活躍推進

経歴
  • プロフィール
    1995年:日本生命保険相互会社 入社
    1999年:株式会社ニッセイ基礎研究所 出向

    ・【総務省統計局】「令和7年国勢調査有識者会議」構成員(2021年~)
    ・【こども家庭庁】令和5年度「地域少子化対策に関する調査事業」委員会委員(2023年度)
    ※都道府県委員職は就任順
    ・【富山県】富山県「県政エグゼクティブアドバイザー」(2023年~)
    ・【富山県】富山県「富山県子育て支援・少子化対策県民会議 委員」(2022年~)
    ・【三重県】三重県「人口減少対策有識者会議 有識者委員」(2023年~)
    ・【石川県】石川県「少子化対策アドバイザー」(2023年度)
    ・【高知県】高知県「中山間地域再興ビジョン検討委員会 委員」(2023年~)
    ・【東京商工会議所】東京における少子化対策専門委員会 学識者委員(2023年~)
    ・【公益財団法人東北活性化研究センター】「人口の社会減と女性の定着」に関する情報発信/普及啓発検討委員会 委員長(2021年~)
    ・【主催研究会】地方女性活性化研究会(2020年~)
    ・【内閣府特命担当大臣(少子化対策)主宰】「少子化社会対策大綱の推進に関する検討会」構成員(2021年~2022年)
    ・【内閣府男女共同参画局】「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」構成員(2021年~2022年)
    ・【内閣府委託事業】「令和3年度結婚支援ボランティア等育成モデルプログラム開発調査 企画委員会 委員」(内閣府委託事業)(2021年~2022年)
    ・【内閣府】「地域少子化対策重点推進交付金」事業選定審査員(2017年~)
    ・【内閣府】地域少子化対策強化事業の調査研究・効果検証と優良事例調査 企画・分析会議委員(2016年~2017年)
    ・【内閣府特命担当大臣主宰】「結婚の希望を叶える環境整備に向けた企業・団体等の取組に関する検討会」構成メンバー(2016年)
    ・【富山県】富山県成長戦略会議真の幸せ(ウェルビーイング)戦略プロジェクトチーム 少子化対策・子育て支援専門部会委員(2022年~)
    ・【長野県】伊那市新産業技術推進協議会委員/分野:全般(2020年~2021年)
    ・【佐賀県健康福祉部男女参画・こども局こども未来課】子育てし大県“さが”データ活用アドバイザー(2021年~)
    ・【愛媛県松山市「まつやま人口減少対策推進会議」専門部会】結婚支援ビッグデータ・オープンデータ活用研究会メンバー(2017年度~2018年度)
    ・【愛媛県法人会連合会】結婚支援ビッグデータアドバイザー会議委員(2020年度~)
    ・【愛媛県法人会連合会】結婚支援ビッグデータ活用研究会委員(2016年度~2019年度)
    ・【中外製薬株式会社】ヒト由来試料を用いた研究に関する倫理委員会 委員(2020年~)
    ・【公益財団法人東北活性化研究センター】「人口の社会減と女性の定着」に関する意識調査/検討委員会 委員長(2020年~2021年)

    日本証券アナリスト協会 認定アナリスト(CMA)
    日本労務学会 会員
    日本性差医学・医療学会 会員
    日本保険学会 会員
    性差医療情報ネットワーク 会員
    JADPメンタル心理カウンセラー
    JADP上級心理カウンセラー

(2016年07月11日「研究員の眼」)

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