2016年07月11日

ロンドン2012大会 文化オリンピアードを支えた3つのマーク

東京2020文化オリンピアードを巡って(1)

吉本 光宏

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4――東京2020文化オリンピアードに向けて

では、東京2020大会の文化オリンピアードやフェスティバルでは、どんなマークが使われ、どのようなブランディングが行われるのだろうか。そのことを展望する前に、今年のリオ大会の状況を概観しておきたい。
 
1リオ2016大会の文化プログラムとマーク
リオ2016大会については、残念ながら情報が極めて限られており、正確な状況を把握することは難しい。本レポートを執筆している時点(2016.6.30)では、大会HPの文化プログラム(cultural festival)へのリンクは切れており、レガシーのページに文化に関する短い記述があるのみである。

しかし、今年2月19日に大会ホームページを閲覧した際には、文化プログラムに関して基本的な考え方やロゴマークに関する情報が掲載されていた。それによると、リオ大会の文化プログラムはセレブラ(Celebra、祝祭)と名付けられ、ブラジル文化の多様性をアピールするため、文学、大衆文化(伝統的なお祭り、ブラジル各地の食、タペストリーの工芸作家など)、音楽、舞台芸術、美術、ダンスの6分野の文化事業を募集し、ストリートや公園、広場、浜辺などで展開することになっていた18

また下図のとおり、文化プログラムには、五輪マーク、パラリンピック・マークを含む大会エンブレムと複合されたセレブラ複合マーク(Celebra Composite Mark)とセレブラ文化マーク(Celebra Cultural Mark)の2種類が用意されている。応募した事業が、文化プログラムとして認証されれば、これらのマークを広報ツールに使用できるとされていた。

ただし、実際にどんな文化プログラムが行われ、これらのマークがどのように運用されているかについては情報がないため、正確なところは不明である。
図表10 リオ2016大会の文化プログラム:大会エンブレムとの複合マーク(左)とセレブラの単独マーク(右)
 
18 リオ2016大会のホームページ掲載情報(2016.2.19閲覧)に基づく。
2|東京2020大会文化オリンピアードの検討状況とマークやブランド
東京2020大会の文化オリンピアードは、今年9月にリオ大会が終了した後、スタートすることになっている。国や東京都、(公社)企業メセナ協議会などは、それに先行して文化オリンピアードにつながる事業を立ち上げ、一部の都道府県や市町村でも、本格的な検討や準備が始まっている。それらに関連して独自のロゴマークもいくつか制作されている。最後にそうした動向を整理して、ロンドン2012大会文化オリンピアードのマーク類の成果を振り返りながら、東京2020大会の文化オリンピアードを展望しておきたい。

[東京2020組織委員会:東京2020文化オリンピアードと東京2020フェスティバル(仮称)]
東京2020組織委員会の発表した資料19によると、リオ大会終了後、東京2020文化オリンピアードをスタートさせ、東京2020の競技大会開会前の2020年5月頃から「東京2020フェスティバル(仮称)」を実施する予定になっている。この枠組みはロンドン2012大会と同じだ。

そして、大会ビジョンの実現に相応しい芸術性の高い取組みで、東京2020組織委員会の管理のもとで実施される文化事業は、公式文化オリンピアード事業として、大会エンブレムと複合されたマークが付与される。一方、非営利団体が実施する東京2020大会の機運を醸成する事業、ムーブメントを裾野まで広げる事業は、関連文化オリンピアード事業としてノンコマーシャルマークが付与される計画である。なお、東京2020フェスティバル(仮称)のマークについては資料に記載がないことから、現時点では未定で、今後の検討に委ねられているようだ。

この資料には、認証の基礎要件や認証対象となる取組、認証のプロセスについても記載されているが、正式には7月下旬の理事会で決定・公表される予定である。

[国・文化庁:beyond 2020|文化力プロジェクト(仮称)]
国や文化庁も東京2020大会を睨んで、文化プログラムの全国展開に向けた取組をスタートさせている。文化庁は、2015年5月に閣議決定した「文化芸術の振興に関する基本的な方針(第4次基本方針)」の中で、「2020年東京大会を契機とする文化プログラムの全国展開」を明記し、同年7月には「文化プログラムの実施に向けた文化庁の基本構想」を取りまとめ、「文化力プロジェクト(仮称)」を、(1)我が国のリーディング・プロジェクトの推進、(2)国が地方公共団体、民間とタイアップした取り組みの推進、(3)民間、地方公共団体主体の取り組みを支援、の3つの枠組みで実施することを発表した。

その後、内閣官房が中心となって、東京2020大会関係府省庁連絡会議を開催し、今年3月には「2020年以降を見据えた文化プログラムの推進について(案)」を発表した20。そこでは「2020年以降を見据え、日本の強みである地域性豊かで多様性に富んだ文化を活かし、成熟社会にふさわしい次世代に誇れるレガシーを創り出すことが求められており、こうしたレガシー創出に資する文化プログラムを『beyond 2020プログラム』(仮称)として認定し、日本全国に展開する」とされている。さらに、そのプログラムの関連事業に付与する「beyond 2020マーク」(仮称)を作成する予定である。

こうした動きと歩調を合わせ、文化庁の「文化力プロジェクト(仮称)」も「beyond 2020プログラム」の枠組みの下で実施されることになった。また、内閣官房では「オリンピック・パラリンピック基本方針推進調査」として、「文化を通じた盛り上げ」にかかる試行プロジェクトを公募している。具体的には、2016年度中に日本国内で実施されるイベント等を対象に、1件あたり1,000万円(税込)の経費を上限に、委託費が支払われるというもので、つい先頃一次募集の採択結果が公表された21

[東京都:リーディング・プロジェクト|CULTURE TOKYO]
東京2020大会の開催都市である東京都も、文化プログラムの準備にいち早く取り組んできた。2015年12月には東京2020大会全体について、大会後のレガシーを見据えた東京都の取り組みを発表した。文化プログラムについては、それまでの東京芸術文化評議会での検討内容を反映し、「大会を文化の祭典としても成功させ、『世界一の文化都市東京』を実現します」として、(1)これまでにない多彩で魅力的な史上最高の文化プログラムを展開、(2)あらゆる人が芸術文化を享受できる社会基盤の構築、(3)東京のもつポテンシャルを活用し、芸術文化の魅力を世界に発信、という取り組みの方向性を定めた。文化プログラムをけん引するシンボリックな事業、公募等による新たな発想を取り入れた事業などが計画されている。

それに先立ち、文化プログラムの先導的役割を果たすリーディング・プロジェクトがスタートしている。劇作家・演出家・役者でもある野田秀樹が発案した「東京キャラバン」、アーティストで東京藝術大学美術学部先端芸術表現科教授でもある日比野克彦が監修する「TURN」である22

東京都は今後、こうした事業を「CULTURE & TOKYO」というブランドロゴの下で展開していく予定だ。これは、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会とその先を見据えて、世界一の観光都市への飛躍を目指す東京都が制作した東京ブランドロゴ「& TOKYO」を展開したもので、「多彩で奥の深い東京の芸術文化を世界に発信するブランドロゴ」として使用されることになっている。

[(公社)企業メセナ協議会|Creative Archipelago(創造列島)]
さらに公益社団法人企業メセナ協議会も、今年2月に「Creative Archipelago(創造列島)」という構想を発表した。これはオリンピックがスポーツの祭典であるとともに「文化の祭典」であることを視野に入れ、2020年を契機として、未来を創造する芸術・文化の振興を目指し、全国各地で文化プロジェクトを展開し、企業メセナの充実をいっそう推進する取組である。すべての人々の創造性による創造的な社会の実現、多様な文化の相互理解による世界平和の実現、文化資本の循環による創造経済の実現という3つのレガシーを掲げ、成熟した国におけるオリンピック・パラリンピックモデルを提案する、としている23
 
19 東京2020組織委員会、文化・教育委員会(2016.6.7)資料
20 平成28年3月2日、内閣官房オリパラ事務局、内閣官房知的財産戦略推進事務局、文化庁、東京都生活文化局の連名。
21 詳細は公募の窓口となっている日本貿易振興機構(ジェトロ)の以下のページに掲載されている。
https://www.jetro.go.jp/news/announcement/2016/d552f91effe38139.html
22 詳細はアーツカウンシル東京の次のページを参照。https://www.artscouncil-tokyo.jp/ja/news/8451/
23 詳細は(公社)企業メセナ協議会の次のページを参照。http://www.mecenat.or.jp/ja/about/post/creative_archipelago/
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