2016年07月11日

ロンドン2012大会 文化オリンピアードを支えた3つのマーク

東京2020文化オリンピアードを巡って(1)

吉本 光宏

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3――ロンドン2012フェスティバルのブランド・ガイドライン:インスパイア・マークの成果を発展

インスパイア・プログラムは、2008年の北京大会終了後、ロンドン2012文化オリンピアードがスタートした時から公募が始まっており、その前にロンドン大会組織委員会とIOCの間で度重なる折衝が行われたという。その際に、インスパイア・マークのデザインも並行して進められたと考えられる。

一方、ロンドン2012フェスティバルは、2010年にカルチュラル・オリンピアード理事会が設置され、芸術監督が任命されてから企画が発表されている。つまり、フェスティバル・エンブレムはインスパイア・マークの成果を参考に、2010年以降に作成されたと推測される。
 
1文化施設や芸術機関の元々の民間スポンサーが支援する事業もフェスティバルの一環に
ロンドン2012フェスティバルは、ロンドン大会の文化オリンピアードのフィナーレとして、競技大会の開会する約1ヶ月前、2012年6月21日からパラリンピックの閉会する9月9日まで、12週間にわたり、英国全土で展開されたかつてない規模の国際芸術祭だった。このフェスティバルは、2008年の北京大会終了後から企画、実施されてきた文化オリンピアードの中からピックアップされたものと、新たに立ち上げられたものによって構成されており、芸術団体やアーティストに委嘱した事業、そして英国及び海外の代表的な芸術団体や文化施設と共同で実施する事業などがあった。

その中には、芸術団体や文化施設が大会スポンサー以外に自身の元々の民間スポンサーから支援を得ている事業も含まれている。その代表例は、ロイヤル・アカデミー・オブ・アーツで行われたデビッド・ホックニーの大規模な回顧展「A Bigger Picture」、ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーが本拠地のストラットフォード・アポン・エイボンのシェイクスピア劇場をはじめ、ロンドンのバービカン・センターやナショナル・シアター、エジンバラ・フェスティバル等と共同で展開した「ワールド・シェイクスピア・フェスティバル」などである。

前者の展覧会は美術館の従来からのスポンサーである銀行の支援を得て企画が進められていた。そのスポンサーはロンドン2012大会のスポンサーのロイズ銀行とは競合関係にあったが、芸術監督と美術館の意向が合致し、ロンドン2012フェスティバルの事業として実施されることになった14。一方、後者のワールド・シェイクスピア・フェスティバルは文化オリンピアードの8つの主要プロジェクトのひとつとして、2008年に立ち上げられたものである。2012年4月23日、シェイクスピア生誕の日にスタートしたフェスティバルのパンフレットの最終ページには、大会スポンサー以外の民間企業からの支援が明記されている(詳しくは後述)。

こうした非公式スポンサーが支援する文化事業も含め、フェスティバル全体のブランディングを推進するために作成されたのが、「ロンドン2012フェスティバル・ブランド・ガイドライン」15である。以下にその概要を整理した。
 
ブランド・ガイドラインの概要
インスパイア・プログラムでは、非営利団体が事業を実施することを前提に、マークの使用方法を中心にガイドラインが作成されていた。それに対しフェスティバルでは、ブランド・ガイドラインというタイトルが示すように、エンブレムなどのデザインアイテムの使用方法だけではなく、フェスティバルとしてのブランドをどのように戦略的にプロモーションするかという、より積極的な視点からガイドラインが作成されている。フェスティバルとしてのイメージや雰囲気(look and feel)をアピールするために、チラシやプログラム、ウェブサイトなどの広報ツール、あるいはイベント会場の飾り付けなどでエンブレムやデザインアイテムをどのように使用すべきか、大会スポンサー以外の既存スポンサーが支援する文化事業の場合はその使用にどのような制約があるか、が示されている。

また、フェスティバルの事業の大半は、組織委員会の主催ではなくロンドン及び英国全土の芸術団体や文化施設などの事業パートナーによって実施されたため、独自の広報が可能となるよう、フェスティバルのブランドを柔軟に活用できる工夫が盛り込まれている。

具体的には、フェスティバルのブランディングは次の3つのデザイン要素で展開された。
図表5 フェスティバルのデザイン要素 [London 2012 Festival Emblem(フェスティバル・エンブレム)]
ロンドン2012大会のエンブレムのシルエットをベースにしたこのマークは、基本的に次の「認証の翼」の中にレイアウトされた他、文化施設や芸術団体のシーズン・プログラムなどの中では、どれがフェスティバルの事業かを示すために使われた。

Endorsement shard(認証の翼16)]
ピンク色のリボンを折りたたんだ羽のような形をした「認証の翼」は、いくつかのサイズが用意され、先端(最上部)にはフェスティバル・エンブレムがレイアウトされている。下端の白い部分は、ロンドン2012文化オリンピアードに資金提供を行った大会スポンサー(プレミア・パートナー:BP英国石油、BT英国テレコム)と主要な資金提供者である公的団体(プリンシパル・ファンダー:アーツカウンシル・イングランド、オリンピック宝くじ、レガシートラストUK)の2企業・3団体のロゴマークの専用スペースとなっている17

[Flexible ribbon(フレキシブル・リボン)]
これは、折れ曲がったピンク色のリボンのような形をデザイン要素にしたもので、フェスティバルのイメージや雰囲気を表現するために、アレンジして使えるようになっている。
そして、大会スポンサー以外の芸術団体や文化施設の既存スポンサーが支援する文化事業の場合は、これらのデザイン要素の使用に制約が設けられている。非公式スポンサーの企業名やロゴマークは、上記のフェスティバルのブランディングに関するデザイン要素から明確に区別されなければならないというのが原則で、ガイドラインでは次のような具体例が示されている。
  • チラシ:フェスティバルのエンブレムや認証の翼などを使用した場合、それらが片面のみであったとしても、非公式スポンサーの企業名やロゴは両面とも掲載できない。
     
  • シーズン・プログラム:フェスティバルの特集ページにはフェスティバルのエンブレムや認証の翼を使用できるが、同じページもしくは見開きの反対側のページに非公式スポンサーの企業名やロゴは掲載できない(それ以外の離れたページには掲載できる)。
     
  • ウェブサイト:フェスティバルの特集ページには、エンブレムや認証の翼を使用できるが、同じページに非公式スポンサーの企業名やロゴは掲載できない。そのページでは、非公式スポンサーがその事業を支援していることを連想させるような記述も認められない。
     
公演や展覧会のプログラム:表紙、内部ページともフェスティバルのブランディングを優先する。ただし、フェスティバルのデザイン要素から十分に離れたページに、フェスティバルに関係ないと明示して枠で囲むなどすれば、控えめな形で非公式スポンサーの企業名やロゴを掲載できる(後述の「ワールド・シェイクスピア・フェスティバル」のプログラムはこのケース)。
 
14 ロンドン2012フェスティバル・チームのメンバーへの取材に基づく。
15 LOCOG, London 2012 Festival Brand guidelines for Partners
16 shardには「(甲虫の)翅鞘(ししょう):カブト虫などの外側の固い翅(はね)」という意味があり、実際の形が翼に似ているため「認証の翼」と訳した。
17 大会スポンサーのうち、BMW、ユーロスター、フレッシュ・フィールズ(英会計事務所)、パナソニック、サムスンもフェスティバル・サポーターという位置づけで文化オリンピアードを支援したが、この白いスペースには掲示されていない。
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