2016年07月07日

消費税率引き上げの総決算-景気は想定外の悪化も、企業収益、税収は好調

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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■目次

1――はじめに
2――実質GDPの動向
  1|事前予想から大きく下振れた2014年度の実質GDP成長率
  2|個人消費が大幅に減少
  3|個人消費以外の需要項目の動向
3――生産、雇用、物価、企業収益、税収の動向
  1|鉱工業生産
  2|雇用情勢
  3|消費者物価
  4|生産、雇用、物価の事前予想との比較
  5|企業収益は好調を維持
  6|税収は大幅に上振れ
4――2017年4月の消費税率再引き上げに向けて

※本稿は2015年7月30日「基礎研レポート」を転載したものである。
 

1――はじめに

1――はじめに

2014年4月に消費税率が5%から8%に引き上げられてから1年以上が経過し、2014年度の実績値がほぼ出揃った。本稿では消費税率引き上げによる日本経済への影響を、前回の消費税率引き上げ時(1997年度)との比較、事前予想からの乖離という視点を中心に、様々な角度から検証する。
 

2――実質GDPの動向

2――実質GDPの動向

1事前予想から大きく下振れた2014年度の実質GDP成長率
2014年度の実質GDP成長率は▲0.9%と5年ぶりのマイナス成長となり、前回消費税率が引き上げられた1997年度の0.1%を大きく下回った(図表1)。
図表1 実質GDP成長率の推移
四半期毎の成長率の推移を比較すると、税率引き上げ直前の1-3月期の成長率は今回のほうが高く、その分増税直後の4-6月期の落ち込みも今回のほうが大きかった。7-9月期は前回が反動の影響剝落などからプラス成長に復帰したのに対し、今回は2四半期連続でマイナス成長となった。年度下期については、今回は10-12月期に前期比年率1.2%と3四半期ぶりのプラス成長となった後、2015年1-3月期は同3.9%へと伸びを高めたが、前回は年度後半に2四半期連続のマイナス成長となり、1998年1-3月期は前期比年率▲7.4%の大幅マイナス成長となった(図表2)。なお、1997年度下期の景気の落ち込みは消費税率引き上げの影響というよりはむしろ、アジア通貨危機、国内の金融システム不安の深刻化による影響が大きかったものと思われる。

需要項目別には、個人消費が1997年度の前年比▲1.0%に対して、2014年度は同▲3.1%の大幅減少となったことが最も大きな違いである。個人消費による実質GDP成長率への寄与度は1997年度の▲0.6%に対して2014年度は▲1.9%となった(図表3)。それ以外の需要項目では、前回は消費増税と同時に公共投資を削減したために公的需要の寄与度が前年比▲0.5%となっていたのに対し、今回は増税前に経済対策を策定したこともあり、前年比0.2%と小幅ながら成長率の押し上げ要因となった。
図表2 消費増税前後の実質GDPの動き/図表3 前回の消費増税時との実質GDP比較
次に2014年度の実績値を事前予想との比較でみると、実質GDP成長率は消費税率引き上げ直前の2014年1月時点では政府(1.4%)、日銀(1.4%)、民間(0.8%)ともにプラス成長を予想していた。実績値は政府、日銀の見通しから2%以上、民間の見通しから2%近く下振れしたことになる(図表4)。
図表4 2014年度・実質GDPの事前予想と実績値との比較
内訳をみると、ほとんどの需要項目が見通しから下振れしたが、特に民間需要(個人消費、住宅投資、設備投資)の下振れ幅が大きい1。一方、民間在庫、公的固定資本形成、輸出入は見通しから上振れした。ただし、輸出入については2014年1月分からGDPを推計する際の基礎統計である国際収支統計の見直しが実施され、2013年と2014年の間に断層が生じたことによる影響が大きい2。統計上の技術的な要因を除くと、実態としては輸出入の実績値は見通しから下振れしたと考えられる。
 
1 日本銀行の見通し(展望レポート)は実質GDP、消費者物価しか示されていないため、ここでは政府、民間の見通しと実績値との乖離について記述している。
2 2014年1月時点では国際収支統計見直し後の結果が判明していなかった。
図表5 消費増税前後の消費総合指数の動き 2個人消費が大幅に減少
実質GDPのうち、想定から一番大きく下振れしたのは個人消費である3。ここで、内閣府の「消費総合指数」で月次ベースの個人消費の動きを確認すると、今回のほうが消費税率引き上げ直前の3月の上昇幅、増税直後の4月の低下がともに大きかった。5月以降は反動の影響が和らぐ中で緩やかに持ち直したのは共通だが、前回は秋頃にはいったん駆け込み需要が本格化する前の水準をほぼ回復したのに対し、今回は増税から1年以上が経過しても消費水準が元に戻っていない(図表5)。
図表6 個人消費の駆け込み需要の試算 2014年度の個人消費を大きく押し下げた消費税率引き上げの影響は、(1)税率引き上げ前の駆け込み需要の反動、(2)物価上昇による実質所得の減少、に分けて考えられる。

このうち、(1)については増税前の駆け込み需要とその反動は前回よりも今回のほうが大きかった模様である。内閣府は「日本経済2014-2015」の中で消費税率引き上げ前の個人消費の駆け込み需要を2.5~3.3兆円程度(実質GDPの0.5~0.6%程度)と推計し、前回増税時の2兆円程度を上回ったとしている。ニッセイ基礎研究所でも、個人消費の駆け込み需要は前回の1.2兆円に対し今回は2.4兆円と試算しており、内閣府とその規模はやや異なるものの前回よりも今回のほうが駆け込み需要とその反動が大きかったとの見方は一致している(図表6)。

今回は、駆け込み需要とその反動の影響を緩和するために、臨時福祉給付金、子育て世帯臨時特例給付金、自動車取得税の引き下げ、エコカー減税の拡充といった措置が実施されたが、前回に比べて税率の引き上げ幅が大きかったことが駆け込み需要の規模を大きくしたものと考えられる。

個人消費の駆け込み需要とその反動は前回よりも大きかったものの、その規模は個人消費の1%程度であり、これだけでは2014年度の個人消費の大幅な落ち込み(前年比▲3.1%)は説明できない。
 
 
3 伸び率でみれば住宅投資、設備投資のほうが下振れ幅が大きいが、個人消費のGDPに占める割合は6割近いため、成長率の下振れへの影響は個人消費が圧倒的に大きかった。
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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

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