2016年06月20日

若年層の消費実態(3)-「アルコール離れ」・「外食離れ」は本当か?

生活研究部 上席研究員 久我 尚子

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2若年単身勤労者世帯の女性の変化~「外食離れ」のほか家での料理も減り、調理食品が増加。
次に、女性の変化を確認する。食料費の内訳を見ると、1989年のバブル期では、男性同様に1位「外食」(1.2万円)が目立つが、食料費に占める割合は男性ほど高くなく、39.0%にとどまる(図表1・2)。以下、2位「調理食品」(3.1千円)、3位「菓子類」(2.6千円)、4位「野菜・海草」・「穀類」(いずれも2.1千円)と続く。2位以下の食料費に占める割合は、男性ではいずれも1割にも満たないが、女性では「調理食品」が1割を超えて比較的高い。

2014年でも女性で最も多いものは、1位「外食」(1.1万円)だが、1989年より支出が減っている(△1.5千円、実質増減率△28.2%)。しかし、女性では「外食」が食料費を占める割合(39.4%)は1989年と同様である。2位以下については、2位「調理食品」(4.5千円)、3位「菓子類」(2.4千円)、4位「飲料」(1.9千円)、5位「穀類」(1.8千円)と続く。2014年では「野菜・海草」が上位から姿を消す一方、「飲料」が上位に入っている。

また、個別品目の実質増減率を見ると、男性ほどではないが女性でも、最も増加しているものは、「油脂・調味料」(+31.7%)である。このほか「調理食品」(+14.2%)や「飲料」(+6.9%)も増加している。女性ではこの三品目を除くと、各種食材から外食まで幅広く減少している。最も減少しているものは、「賄い費」を除くと、「果物」(△75.1%)であり、次いで「魚介類」(△50.1%)、「野菜・海草」(△43.0%)、「肉類」(△35.6%)、「乳卵類」(△31.5%)、「外食」(△28.2%)、「菓子類」(△25.9%)の減少幅も比較的大きい。

このように、女性では調味料や調理食品の支出が増えて、各種食材や外食が減っている。女性でも男性同様に調味料は増えているが食材全般が減っているため、女性では家で料理をすることが減っていると考えた方が自然だろう。つまり、現在の30歳未満の単身勤労者世帯の女性では、外食や家での料理を減らして、代わりに惣菜などを買って食べるようになっている様子がうかがえ、女性でも「外食離れ」をしているようだ。なお、女性が料理をする機会が減っている背景には、男性並みに働く女性が増えたことが考えられる。

なお、30歳未満の単身勤労者世帯の女性では、男性同様に「フルーツ離れ」の様子がうかがえるが、「アルコール離れ」の様子はさほど見られない。
3若年単身勤労者世帯の男女差~外食は男性、食材は女性で多い。薄まる食料費内訳の男女差。
食料費の内訳について男女差を見ると、1989年では「外食」や「酒類」、「飲料」、「調理食品」など、食材以外の項目では、男性より女性の方が消費支出額も食料費に占める割合も大きい(図表4)。しかし、2014年では食材の支出額や支出割合が男性では増えた項目が多く、女性では全体的に減った結果、「穀類」や「肉類」の支出額は男性が女性を上回るようになっている。また、その他の食材の支出額も全体的に男女差が小さくなっている(男女差の絶対値が小さくなっている)。これは食料費に占める個別品目の割合を見ても同様である。また、男性の支出額の方が女性より多い品目については、「外食」や「酒類」で支出額や食料費に占める割合の男女差が縮小している。

食料費の内訳を眺めると、12品目(「賄い費」を除く)のうち10項目で男女差が縮小していることから、若年単身勤労者世帯では食料費の使い方の性差が薄まっている可能性がある。
図表4 30歳未満の単身勤労者世帯の食料費の個別品目消費支出額と食料費に占める割合の男女差

3――若年層の「外食離れ」の背景~節約・健康志向だけでなく、外食産業超過・価格下落の恩も。

3――若年層の「外食離れ」の背景~節約・健康志向だけでなく、外食産業超過・価格下落の恩も。

これまでに見たように、30歳未満の単身勤労者世帯では男女とも外食費が減っている。この理由には、前述の通り、若者の節約志向や健康志向の影響が考えられるが、外食産業における変化も考慮すべきである。

バブル期から現在までを振り返ると、外食産業ではサービスが多様化し、価格競争が激化している。外食産業にはレストランや居酒屋、ファストフード、ファミリーレストラン、カフェなど、いくつかの業態が存在するが、バブル期から現在にかけて、それぞれにおいて食のジャンルや店舗形態が多様化している。また、バブル崩壊以降、デフレ進行の中で価格競争は激化してきた。特に、ハンバーガーや牛丼といったファストフードでは、極限まで価格が引き下げられる施策もあった。また、価格を下げるだけでなく、無料のWi-Fiサービスの提供など、食以外の面でも付加価値を提供してきた。つまり、バブル期と比べて現在の若者は、低価格でも高品質、かつ多様な飲食サービスを楽しめる環境にある。さらに、最近ではコンビニエンスストアでも、コーヒーやドーナッツをはじめとしたテイクアウト商品の充実化や、イートインスペースを設けるなどの取組みをしている。コンビニとファストフードの境界が曖昧になっており、外食の選択肢が増えている。

以上より、若年単身勤労者世帯で外食費が減っている理由は、若者の節約志向や健康志向によって、家で食事をする機会が増えたことだけでなく、現在では安価で高品質な外食サービスが増えたことも影響しているのではないだろうか。
 

4――若年層の飲酒状況~20代と中年男性で「アルコール離れ」、高齢男性と30代以上の女性で飲酒増。

4――若年層の飲酒状況~20代と中年男性で「アルコール離れ」、高齢男性と30代以上の女性で飲酒増。

図表5 飲酒習慣率の変化 ところで、若者の「アルコール離れ」については興味深い統計データがある。厚生労働省「国民健康・栄養調査」では、飲酒習慣率4を見ているのだが、2003年から2014年にかけて、20代の男性は20.2%から10.0%へ、女性は7.0%から2.8%へと、いずれも半数以下に低下している(図表5)。

2節で見た通り、30歳未満の単身勤労者世帯の「酒類」支出額をバブル期と現在で比べると、男性では減少していたが、女性では元々男性より支出が少ないためか(1989年で男性2,101円に対して女性510円)、さほど変化は見られなかった(実質増減率△1.2%)。一方で、飲酒習慣率は、20代の女性でも低下しており、やはり若年層では女性でも「アルコール離れ」をしている。

なお、男性では、30~50代でも飲酒習慣率が低下しており、「アルコール離れ」をしているのは20代だけではない。この理由としては、前項までにも触れたが、国民全体の健康志向の高まりなどが考えられる。特に中高年男性では、BMI25以上(肥満)に分類される割合が上昇しており5、2008年に開始された「特定健康診査・特定保健指導」を懸念する層も拡大しているのだろう。

一方、飲酒習慣率が上昇しているのは、男性では60代以上、女性では30代以上である。つまり、今、飲酒が増えているのは、高齢男性と30代以上の女性のようだ。
 
4 週に3日以上飲酒し、飲酒日1日あたり1合以上を飲酒すると回答した者の割合。
5 厚生労働省「国民健康・栄養調査」
 

5――おわりに

5――おわりに

本稿では、総務省「全国消費実態調査」における30歳未満の単身勤労者世帯の食費内訳の変化を確認した。1989年のバブル期でも2014年でも、男女とも食費で最も多くを占めるのは「外食」だが、その支出額は減っており、「外食離れ」の様子がうかがえた。「外食」のほか、男性では「果物」や「酒類」が減り、調味料や食材、「調理食品」が増えていた。女性では「果物」をはじめ各種食材が減り、「調理食品」が増えていた。これらの変化から、男性では外食を減らして、家で料理をしたり調理食品などを食べるように、女性では外食や家での料理を減らして、調理食品を食べるようになっている様子がうかがえた。また、これらの変化を背景に、食料費の内訳の男女差は薄まっていた。
なお、男女とも外食が減った背景には、若者の節約志向や健康志向のほか、外食産業における変化の影響もあるようだ。近年、外食産業ではサービスの多様化、価格競争の激化により、安価で高品質な選択肢が増えている。また、男女とも「果物」の支出が減っており、「フルーツ離れ」が見られるが、果実摂取量の減少は国民的な課題である。
若者の「アルコール離れ」については、30歳未満の単身勤労者世帯の男性では「酒類」支出額が減少していたが、女性ではそもそも「酒類」支出額が小さいためか、さほど変化が見られなかった。しかし、厚生労働省「国民栄養・健康調査」によれば、20代の飲酒習慣率は男女とも低下しており、女性でも「アルコール離れ」をしていた。なお、飲酒習慣率を見ると、男性では30~50代でも「アルコール離れ」をしていた。一方、高齢男性と30代以上の女性では飲酒が増えていた。
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生活研究部   上席研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
     2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
     2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
     2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
     2021年7月より現職

    ・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
    ・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
    ・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
    ・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
    ・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
    ・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
    ・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
    ・総務省「統計委員会」委員(2023年~)

    【加入団体等】
     日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
     生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society

(2016年06月20日「基礎研レター」)

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