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韓国における老人長期療養保険制度の現状や今後の課題―日本へのインプリケーションは?―
生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 金 明中
3――老人長期療養保険制度の概要
老人療養保障制度の施行のための準備体系を構築する過程で、2003年には「公的老人療養保障推進企画団」が、2004年には「公的老人療養保障制度実行委員会」が次々と設立され、制度の名称や運営方式、被保険者や給付対象、サービスの種類、財源や管理運営機構などの具体的な内容が議論された。
2007年4月2日には国会本会議で「老人療養保障法」が成立されることにより、「老人長期療養保険制度」を施行するための基盤が整えられた(図表5)。
韓国政府は制度の施行前に制度の基盤整備を目的に3回に分けてモデル事業を行った。第1次モデル事業は2005年7月から2006年3月まで6つの市郡区6を対象に、第2次モデル事業は2006年4月から2007年4月まで8つの市郡区を対象に、そして第3次モデル事業は2007年5月から2008年6月まで13つの市郡区を対象に実施され、その直後である2008年7月から老人長期療養保険制度が実施されることになった。
4 韓国の第15代大統領。任期は1998年~ 2003年。
5 韓国の第16代大統領。任期は2003年~ 2008年。
6 日本の市町村に当たる。
2|老人長期療養保険制度の概要
韓国における老人長期療養保険制度は、高齢や老人性疾患などが原因で日常生活を一人で営むことが出来ない高齢者等に身体活動あるいは家事支援等の老人長期療養保険制度からのサービスを提供することにより高齢者の老後の健康増進や生活安定に寄与し、その家族の負担を減らすことで国民の生活の質を高めることを目的としている。
韓国の老人長期療養保険制度は、日本の介護保険制度をモデルとして研究して導入されたものの、制度の施行においては被保険者層を拡大し、手続きやサービスの内容を簡素化するなど国の財政的・行政的負担を最小化しようとした。例えば、日本の介護保険制度は40歳以上を被保険者(65歳以上の高齢者は第1号被保険者、40~64歳までは第2号被保険者)にしたことに比べて、韓国の老人長期療養保険制度は、公的医療保険の被保険者すべてを老人長期療養保険制度の対象にしている。
保険料率は日本が介護保険の保険料率を別に設定していることに比べて、韓国は公的医療保険の保険料に一定比率(2015年基準6.55%)をかけて計算している。
一方、サービスが利用できる対象者は65歳以上の高齢者や65歳未満の老人性疾患を抱えている者に制限した。財源の仕組みは両国ともに保険料と国庫負担、そして自己負担を基本にしているものの、介護サービスを利用するときの自己負担割合は日本が在宅・施設サービスともに10%に設定していることに比べて、韓国の場合は在宅15%、施設20%で日本より自己負担割合を高く設定した。
このように韓国が日本よりサービス利用時の自己負担割合を高く設定しているのは「財政支出の最小化」という韓国政府の財政運営方針に基づいていると考えられる。これは政府支出の対名目GDP比や債務残高の対名目GDP比からも間接的に確認することができる。実際、2013年における韓国の政府支出の対名目GDP比は30.7%でOECDの平均(加重平均)41.9%を大きく下回っており、OECD加盟国の中でこの比率が韓国より低い国はメキシコのみであった(図表6 )。
また、債務残高の対名目GDP比も34.7%(2013年)でOECDの平均(加重平均)109.3%を大きく下回っており、韓国より低い国はルクセンブルク(30.1%)、オーストラリア(19.4%)、ニュージランド(13.5%)のみであった(図表7)。今後高齢化が進んだ場合、政府支出の対名目GDP比や債務残高の対名目GDP比は現在よりは高くなることが予想されるものの、政府支出をできるだけ低い水準で維持しようとする韓国政府の方針は、大きくは変わらないと考えられる。
長期療養給付の申請者は図表8の等級判定手続きによって「認定者」と「等級外」に区分される。等級判定は日本のコンピュータによる判定等を省略することによって簡素化した。また、日本が介護認定の「等級」を軽い症状から順に、「要支援1」、「要支援2」、「要介護1」、「要介護2」、「要介護3」、「要介護4」、「要介護5」と7段階に区分していることに比べて、韓国は軽度のものから順に「5等級」、「4等級」、「3等級」、「2等級」、「1等級」と5段階に区分している(図表9、導入初期には3段階であったものの、2014年から5段階に拡大実施)。1等級から5等級までの認定者は長期療養認定書に書かれている「長期療養等級」、「長期療養認定有効期間」、「給付種類及び内容」に基づき、自ら選んだ施設等と契約を結ぶことにより長期療養給付を利用することができる7。一方、「等級外」として判定された者は地方自治体が提供する、情報サービスや老人福祉館の利用など一部のサービスしか利用できない。長期療養等級の有効期間は1等級が3年で、2等級~5等級は2年である。
7 長期療養認定書が到着した日から長期療養給付を利用することができる。
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