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予測分析の生保への活用-生保の契約査定には、どこまで予測を織り込めるか?
保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也
4――契約査定へのPAの活用 (アメリカの場合)
(1) PAによる契約査定の効率化の可能性
一般に、生保会社は、見込み顧客のプロファイル作成に、高い関心を有している。現在、契約の際に行われている診査や、リスク判定などの危険選択には、多額の費用や、時間を要することが多い。こうした作業を、ビッグデータを収集して、PAにより分析することで、効率的に行うことが考えられる。例えば、公開情報である、FacebookやTwitterなどのソーシャル・メディアのプロファイル情報を組み込んだり、政府の社会保障データを用いることで、契約査定を簡素化することが考えられる。
一方、顧客は、申込みから保障開始までの期間が短縮される。例えば、ウェブサイト上で、簡易な告知項目に回答するだけで足りるなど、加入が、容易になる利点が考えられる。
(2) 契約査定の効率化が期待されるゾーン
PAと、従来の危険選択とでは、選択の精度が異なる場合がある。従来の危険選択では、評価スコアが不良な場合、追加のコストや時間をかけて検査等を行い、死亡率の測定精度を高める。一方、PAでは、評価スコアによらず、予測のベースとなる情報は同じものを用いる。この結果、健康状態が良好とみなせる層では、両者の精度に大きな違いはないが、健康状態が不良とみられる場合、従来の方法に比べて、PAは死亡率を低く見積もる傾向が生じる。即ち、PAでは、将来の給付支払を、過少に見積もりかねない。特に、給付金が高額な契約では、死亡率の差が、支払額に大きく影響する恐れがある。そこで、PAの活用は、健康状態が良好とみなせる層を中心に用いられるべきと、考えられている。
実際には、PAは当初の想定に比べて、契約査定への浸透がもう一歩という状態にある。これには、次のような、いくつかの原因が考えられる11。
・生命保険は長期に渡るため、契約の途中で、契約者の行動特性が、変化してしまう場合がある。
・生命保険で給付の対象となる保険事故(被保険者の死亡)は、若年・中年では、まれにしかに起こらない。このため、データの蓄積が進まず、PAの機械学習が、効率的に行えない。
・従来、契約査定の最終手段は、主治医の診断書を用いた判定とされてきた。契約査定の担当者の間では、診断書への信頼が厚いため、PAによる実務の代替が、進んでいかない。
そこで、まず、健康状態が良好な契約や、告知項目が数個に限られている限定告知型保険12などで、試験的にPAを導入して、契約査定での経験を積んでいく、という取り組みが進められている。
4|加入申込トリアージにより、従来の契約査定と、PAを融合する取り組みが始まっている
契約査定の担当者は、PAによる結果を、追加情報の1つとみて、査定時に考慮する。例えば、申込書の記載内容(年齢、性別、住所、保障額、本人および家族の受療歴など)、処方薬の服用歴、診査情報センターの情報、自動車運転記録等を、あらかじめ用意したプログラムで評価する。その結果、評価が「従来の危険選択を実施せよ」と出れば、1ヵ月以上の時間をかけて、従来どおりの査定を行う。一方、「優良体を促進せよ」と出れば、医的査定は不要となり、数日程度で契約が成立する。このプログラムによる振り分けは、加入申込トリアージと呼ばれ、PAが用いられている。13
10 被験者にウォーキングマシンで運動をしてもらって、その際の心電図をとるもの。
11 ここで挙げたPAが浸透しない理由は、次の記事などを参考に、筆者がまとめたもの。
“‘Predictive Analytics’Tantalizes Life Insurers-But Obstacles Remain”Andrew Singer (Bank Insurance & Securities Marketing, Spring 2013)
“Protecting Bradley”Stephen Abrokwah (The Actuary, Society of Actuaries, Dec 2015/Jan 2016 Vol.12 Issue 6)
12 英語では、Simplified Issue で、SIと略されることがある。加入時に医的診査をせずに、簡易な告知で済む。ただし、健常者の場合には、通常の保険に加入するよりも、保険料率が割高になることが一般的。
13 この節の内容は、“Big Data and Advanced Analytics: Are You Behind the Competition?” Chris Stehno and Priyanka Srivastava (Deloitte, Nov. 2014)および“Get Ready For The Age Of Application Triage”Cyril Tuohy (Insurance News Net.com, Jan 12, 2016)などを参考に、筆者がまとめたもの。
5――おわりに (私見)
生保分野でも、保険設計やサービス提供の実務に、ビッグデータをもとにしたPAが本格的に導入される時代が、近づいている。その際、経験や直感に基づく既存の実務を、一掃するのではなく、良いものは残しながら、従来のものとPAの融合を図っていくことが、望ましい姿ではないかと考えられる。
今後も、引き続き、生保会社のPAの導入の取組みに、注目していく必要があるものと思われる。
保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員
篠原 拓也 (しのはら たくや)
研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務
03-3512-1823
- 【職歴】
1992年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所へ
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
(2016年06月14日「保険・年金フォーカス」)
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